『ちむどんどん』賢三が遺した言葉の数々 大森南朋の“6日目”退場は早すぎた?

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2022年04月24日 06:01  リアルサウンド

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大森南朋『ちむどんどん』(写真提供=NHK)

 NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』第2週初日を最後に、大森南朋が惜しまれつつも退場することに。SNS上では、大森演じる主人公・暢子(稲垣来美/黒島結菜)の父・賢三のあまりにも早い退場に「早すぎる」「お父ちゃんが、あんなに早く逝くなんて……」といった悲しみの声があがっていた。


【写真】『アウトレイジ 最終章』で髭に黒スーツ、マシンガンを片手にする大森南朋


 妻の優子(仲間由紀恵)とともに、暢子ら子どもたちの成長を穏やかに見守ってきた賢三。彼が子どもたちに大きな影響を与える心優しい父親であることは、初登場時から理解することができる。第1話で、学校で女らしくないとからかわれる暢子に賢三がかけた言葉は「暢子は暢子のままで上等」「自分の信じた道を行け」。暢子の目をまっすぐ見つめるその視線からは、真摯な人柄がひと目見てわかった。


 賢三の特徴を挙げるならば、大森の「見守る」姿。暢子が賢三と沖縄そばを作ったとき、賢三は味の仕上げを「自分を信じて作りなさい」と暢子に託す。第4話で子どもたちに「命をいただくこと」について伝えた後も、子どもたちに考える時間を与え、自ら行動させる。そしてそれを何も言わずに見守る。大森のあたたかな眼差しからは子どもたちの決断を信じる賢三の気持ちが十分伝わってくる。優子に対してもそうだ。賢三自身も戦争によって心に傷を負っているはずなのに、何も言わず、そっと彼女の肩に手を置くと、彼女の気持ちに寄り添う。台詞のない場面であっても、たくさんの苦労を乗り越えて幸せな家庭を築いてきた夫婦の絆の深さが伝わってくる。


 一方で、時折、賢三の暗い過去も感じられた。第2話で史彦(戸次重幸)と戦争の話をしていたとき、賢三は「自分も生きている限り、謝り続けないといけないと思っています」と口にする。普段と変わらぬ落ち着いた口調で、淡々と言ったように聞こえたが、その声色からは戦争を経験してきた者の重みも感じさせた。謝らなけれなならないことについて聞かれたときも、大森の表情を見る限り、答えなかったというよりは答えられなかったように見えた。彼の中ではまだ、解決していない深い問題がいくつもあるのだと感じる。


 4月15日放送の『あさイチ』(NHK総合)に出演した大森は、四兄妹の父親に見えるよう意識し、家族揃っての食事の場面について「家族の距離、仲の良さが一番出せると思って大事にしていた」と語っている。食卓のシーンで子どもたちが夢中で食べる姿を穏やかな表情で見つめる大森の表情が印象深い。「おいしいものを大好きな人と食べると誰でも笑顔になるからな」「暢子が食べるのを見てたら、こっちまで幸せさ」といった言葉は、暢子の心に刻まれたはずだ。


 朝ドラヒロインの父親像といえば、『スカーレット』の常治(北村一輝)や『おちょやん』のテルヲ(トータス松本)のような“ダメ親父”、“クズ父”が登場し強い印象を与えるが、賢三は彼らとは正反対の存在だろう。ヒロインを見守る父親も多々いる中で、語り部として主人公・なつ(広瀬すず)を見守っていた『なつぞら』の“亡き父”(内村光良)のような雰囲気を賢三にも感じる。なつの父は料理人で、絵を描くのが上手だった。なつ、そして妹の千遥(清原果耶)はそれぞれアニメーターと料理人となるが、間接的に父の影響を受けている。今後、賢三や優子の過去について語られるとき、再び賢三の姿を見られるかどうかはまだわからないが、暢子たちもまた、父の影響を受けるのではないか。


 賢三の最期、大森は「暢子は、暢子のままでいい」という思いを病床で見せた優しい微笑みにしっかりとのせていた。大森は公式インタビューで「ふだんはあまり役作りをしないんです」(※)と話すものの、賢三の心情や一人の人間だからこそ生まれる気持ちのブレについて考えている。早すぎる退場には驚かされたが、大森が賢三の細かな感情を表現してきたからこそ、ヒロインの父親として、そして一人の人間としての賢三の姿はこの先の放送でも決して忘れられないだろう。


■参照
https://www.nhk.or.jp/chimudondon/topics/interview/03.html


(片山香帆)


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