『呪術廻戦』が突きつける、バトル漫画の暗黒面 人間VS人間を描いて新たな次元へ

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2022年04月29日 07:01  リアルサウンド

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 『呪術廻戦』(集英社)の第19巻が発売された。「週刊少年ジャンプ」で芥見下々が連載している本作は、人間の負の感情から生まれた呪霊を祓う呪術師たちの物語。「呪いの王」と恐れられた特急呪物・両面宿儺の器となった少年・虎杖悠仁は、宿儺を滅ぼすために東京都立呪術高専専門学校に編入。伏黒恵たち高専の仲間たちと共に、呪術師として成長していく。


参考:『呪術廻戦』は無理ゲー社会を描くーー「死滅回遊」が強いる、理不尽なルール


 オカルトバトル漫画『呪術廻戦』は、2020年末のアニメ化をきっかけに大ブレイク。この19巻で、電子版も含む累計発行部数は6500万部を突破した。今年公開された、物語の前日譚をアニメ映画化した『劇場版 呪術廻戦0』は興行収入135億円の大ヒットとなっている。


 もちろん、本誌連載も好調だ。今ではジャンプを代表する看板作品として、安定した面白さを誇っている。物語は第16巻から新章に突入し、現在は呪術師同士が殺し合う「死滅回游」が展開中。バトル漫画として、更なる盛り上がりを見せている。


※以下、ネタバレあり。


 呪術師の日車宏見と接触するため、虎杖と伏黒は死滅回游の泳者(プレイヤー)として、東京第1結界(コロニー)へと潜入する。虎杖は、泳者の甘井凛から日車の居場所を教えられ池袋へ。一方、伏黒は泳者の麗美から日車の居場所を聞き、新宿へ。しかしそこで待ち構えていたのはレジー・スターという呪術師だった。


 死滅回游が本格的にスタートした19巻は、デスゲーム&異能バトルというジャンプ漫画らしい王道の展開となっている。同時に感じるのがバトルの描き方の変化だ。渋谷事変までの『呪術廻戦』は呪術師VS呪霊という「人間と怪物の戦い」に重点が置かれていた。しかし、渋谷事変を経た16巻以降は人間VS人間という呪術師同士のバトルが続いている。その結果『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社、以下『ジョジョ』)のスタンド能力の応酬のような頭脳戦のテイストが強まっており、ユニークなキャラクターと異能力(呪術)が一気に増えたのが面白い。


 たとえば、日車の領域展開「誅伏賜死」は、法廷を作り出して裁判をおこなう術式だ。日車が使役するジャッジマン(式神)は『ジョジョ』に登場するスタンドのような存在で、彼が語る容疑に対して無罪を証明できなければ、呪力が奪われてしまう。これは弁護士の日車ならではの戦い方だと言えるだろう。


 また、伏黒と戦うレジィは、無数のレシート(領収書)を身体に貼り付けており、領収書に書かれた商品を「再契像」することで実体化させることができる。レジィはレシートから包丁、ドローン、大型トラック等を実体化させて伏黒を攻撃し追い詰める。


 雑魚キャラながら、鮮烈な印象を残した黄櫨折は、眼球や歯といった自分の身体の一部を爆発物に変えて攻撃する。切り離された眼球はすぐに再生していたが、治るとわかっていても、あまり使いたくない痛そうな術式だ。


 極めつけは、お笑い芸人の泳者・高羽史彦。能力の詳細はまだ謎だが、子どもの頃に憧れていたお笑い番組のヒーローのコスチュームを模した衣装を身にまとい、自身の笑いに関する哲学を語りながらハリセンで戦う。


 どの呪術師もキャラクターも呪術も個性的で、芥見下々のアイデアの豊富さに感心する。


 同時に、戦略性の高いゲーム的なバトルの中に、これまで本作が積み上げてきたテーマが凝縮されている。それが最も強く現れていたのが、日車VS虎杖戦の裁判バトルだ。「虎杖悠仁は2018年10月31日渋谷にて大量殺人を犯した疑いがある」とジャッジマンに宣告された虎杖は「あぁ俺が殺した」と即座に容疑を認めてしまう。動揺した日車は、刑法39条1項を持ち出し、虎杖の大量殺人は両面宿儺に肉体を乗っ取られ「心神喪失」状態だったため「無実だ」と逆に弁護してしまう。しかし、それでも虎杖は「俺のせいだ」「俺が」「弱いせいだ」と呟く。


 主人公の過去の戦いが裁判の対象になるという面白い展開だが、それ以上に伝わってくるのは、虎杖の中にある罪の意識だ。祖父を亡くして以降、虎杖は「死」について考え続けており、戦いの中で呪霊の命を奪う度に、自分のやっていることは殺人と同じなのだと考えるようになっていく。そして、渋谷事変では、宿儺に肉体を乗っ取られたとはいえ、自分の手で無関係な民間人を殺してしまった。そのことに対して虎杖は強い罪悪感を抱いていた。


 そんな虎杖に対し、日車は法律の言葉で「君に罪はない」と弁護した。本誌で読んだ時はアクロバティックな考え方である一方、説得力のある救済だと感じたが、コミックスで読むと、それでも「俺のせいだ」と言う、虎杖の言葉の方が重く響く。


 少年漫画におけるバトルとは「突き詰めると“殺し合い”なのだ」というのが『呪術廻戦』の世界観だ。多くの少年漫画が曖昧にしている、バトルの中にある暗黒面から本作は目を逸らさない。「死」をめぐる自問自答とド派手なバトル。この両輪があるからこそ『呪術廻戦』は現代の少年漫画として熱烈な支持を獲得しているのだろう。


このニュースに関するつぶやき

  • 幽遊白書とハンターの読みすぎですね
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