「幹を太くするための苦労を」…オリックスの5年目左腕・田嶋大樹の覚悟

1

2022年05月13日 06:32  ベースボールキング

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ベースボールキング

オリックス・田嶋大樹 [写真=北野正樹]
◆ 猛牛ストーリー 【第17回:田嶋大樹】

 連覇と、昨年果たせなかった日本一を目指す今季のオリックス。監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第17回は、プロ5年目の左腕・田嶋大樹投手(25)です。昨季はケガなくローテーションを守り、キャリアハイとなる8勝をマークしてチームの25年ぶりリーグ優勝に貢献。今季も「チームの勝利に貢献したい」と私心を捨ててマウンドに登り、名前の通り“大樹”となるべく、幹を太くするための苦労を重ねています。




◆ 「内容としてはとても良いスタート」

 「先週、試合を壊していますので、『勝つ』という2文字だけはしっかり心に置いて投げました。チームに貢献したいので、できるだけ頑張ろうと。しっかりと投げることが出来てよかった」

 5月6日の楽天戦(京セラD大阪)の試合翌日。降板後に逆転を許し、今季初勝利を逃したにもかかわらず、田嶋は爽やかな表情で試合を振り返った。



 今季5度目の先発マウンドは、7回を投げて3安打・1四球で9奪三振。140キロ台のストレートと130キロ前後のスライダーを制球よく内外角低めに集め、6回には1番・西川遥輝から小深田大翔、浅村栄斗を3者連続三振。初回に二死から浅村に許したソロ本塁打による1失点の好投だった。

 打者を力でグイグイと抑え込むのではなく、力みのないフォームで質の高いボールを操り、コースや高低を丁寧に突く投球。

 「勝ち星だけで言うと、良いスタートとは言えませんが、投球内容としてはとても良いスタートを切れていると思う」

 理想に近い投球への手応えが、その表情からも見て取れた。


◆ 自分と向き合い過ぎないように

 ポーカーフェイスではなく、穏やかで余裕のあるマウンドでの立ち振る舞い。

 「ずっと継続していますね、あれ以降」

 転機は、約1年前にあった。

 昨年のこの時期から約1カ月、田嶋は負のスパイラルに陥っていた。

 5月8日のロッテ戦(ZOZOマリン)で2勝目を挙げた後、22日のソフトバンク戦(PayPayドーム)では6回途中10安打、自責点7で2敗目を喫し、その後も3連敗。この間、4試合連続で勝ち星から見放された。

 これだけ打ち込まれ続けた経験はなかった。不安に襲われ、「これからどうなるのか……と頭がパンクした」という。

 その時の心境について、左腕は「周りの声とかを入れてしまい、自分でどこに進んでいるのか分からなくなってしまったのが去年の今頃。頑張るのに疲れて思考停止になってしまった」と振り返る。


 行きついたのは、気持ちの切り替えだった。

 「自分の人生なんだからと考え直して、自分で考えて行動しようと。そこからですね、気持ちが楽になったのは。自分の人生だから自分でコントロールじゃないですが、良い人生を送れるようにという、逆算ですね」

 不調のどん底にいても温かい言葉を送ってくれたトレーナーや裏方さんの存在も、自分を変えるきっかけになった。

 「これだけ周りの人に支えられているのなら、もう少し楽に行こうかなと。今まで人に頼れない部分があったが、自分一人で抱え込まなくていいんだと思えた。もうちょっと自分らしさを出していいのかなと、ゆとりのある楽な気持ちになることができた」

 自分と向き合い過ぎないようになったことで、6月12日の日本ハム戦(京セラD大阪)から3連勝。不振から抜け出した時の気持ちを、今も変わらず持ち続ける。

 「心を落ち着かせて、心の波を頭の中でイメージし、なるべく心の波を立たせないようにする。波が立っていなければゴーサイン。僕の世界観でやっています」とは、昨年9月にマウンド上での心構えを聞かれた際のコメント。

 「昨年後半からは、力なく腕を振っても、しっかりと質の良いファウルの取れるストレートが投げられるようになった」と言い、理想とする力感のないフォームに近付いてきたようだ。


◆ 「10代・20代は苦労しようと思う」

 自分を動物に例えると、「ネコ」だという。

 「ネコに性格が近いですね。寂しがり屋でもあるし、放っておいてほしい時もある。我がままだし、自由奔放という意味では近いのかな」

 そういえば、春季キャンプや普段の練習でも、単独で行動していることが多い。

 「自由がいい。自分で動きたい。群れている人で、良い成績を残している人は見たことがない。群れていてもしゃあないかなと。群れると、周りのことばかり見て自分のことが見えなくなってしまう。良い情報はなくて、楽な方にばかりにいってしまう。自分と向き合えばイバラの道に行くんですが、しっかりと見直すことによって、最高の場所にたどり着けるという感じですね」

 もちろん、一人で野球はできない。マウンド上で野手に指を立て、アウトカウントを確認するサインを送るのは、田嶋なりの野手との連係の取り方だ。

 「あれは野球を始めた小学生からやっています。野手とのコミュニケーションを試合の中で作っていかなければいけないし、野手の方のリズムもよくなり、捕れなかったボールがスタートよく捕れればいいなとも思う」と明かす。


 名前の「大樹」には、“大きく育ってほしい”との両親の思いが込められている。

 「大樹って、雨の日も風の日も、雪が降っても雷が鳴ってもズンと立っていて、素晴らしい太い木になる。その状態が理想ですね」と田嶋。

 「10代・20代は細い幹でも50代・60代になった時に『良い人生だったね』と終われるようなイメージ。だから、10代・20代は苦労しようと思う。幹を太くするための準備ですね。そうでなければ、僕が指導者や親になった時に何も言えなくなっちゃうので。だから、いろいろ経験して伝えていけるように、いろいろ努力していきたい」

 地道に努力を積み重ねていくスタイルは、タイトルへの思いでも変わらない。

 「野球をやっている限り、トップの世界を目指さないといけない。30歳までにはひとつ取っておけばいいんじゃないですか。20代後半くらいからは、(苦労が)報われてほしいですね」と笑わせる。

 「25試合近く(昨季は24試合)も使ってもらっているということは、監督の信頼を得ているということ。プロはストライク/ボールをはっきりと見極められてしまうので、ボール半分のコントロールをつけなければいけない。もっと精度を上げて、チームに貢献したい」

 コロナ禍で戦力が整わない中、チーム状態は悪いが、ローテを守る自負がほとばしる。


 今季6試合目の登板は、13日のロッテ戦(京セラD大阪)。

 じっくりと「大樹」を目指している左腕と、3年目の最速164キロ右腕、“完全試合男”・佐々木朗希との投げ合いが楽しみだ。


取材・文=北野正樹(きたの・まさき)

    ランキングスポーツ

    前日のランキングへ

    ニュース設定