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結論から言ってしまえば、北海道コンサドーレ札幌は面白いサッカーをしている。
攻撃では、相手の守備陣形を見ながらスペースを使ってパスをつなぎ、守備では、オールコートマンツーマンとでも言うべき積極的な手段で相手を封じ込める。
チームを率いるミシャこと、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、すでに札幌で指揮を執って5シーズン目を迎えたが、決してチームを停滞させることなく、マイナーチェンジを図りながら、そのつど必要な戦術をしっかりと落とし込んでいる。
それは、過去に指揮を執ったサンフレッチェ広島、浦和レッズにも通じることだ。
もちろん、そのすべてがうまくいくわけではない。しかし、常に前向きで挑戦的な試みは見ていてワクワクさせられる。見ている人を退屈させないサッカー、とでも言おうか。
だが、そんな札幌が、なかなかゴールを奪えないから悩ましい。
札幌はここまで3勝2敗8分けの11位(5月14日開催分終了時)。2敗はJ1最少タイだが、一方で8分けはJ1最多だ。負け試合が少ないわりに勝ち点が伸びていないのは、得点力不足と無関係ではないだろう。
リーグ戦最近5試合での総得点数を見ても、わずかに3ゴール。チャンスを作れども、ゴールが遠い。そんな試合が続いている。
ミシャが嘆く。
「もしグアルディオラなら、100億円かけてトッププレイヤーを獲ってくると言うかもしれない。クロップでも同じだろう。得点をとる特別な能力を持つ選手を買ってくるのは、プロの世界ではノーマルなことだ」(J1第11節、ガンバ大阪戦後)
「得点にはならなかったが、決定機はいくつも作れた。鈴木(優磨)や上田(綺世)が我々のチームでプレーしていたら、(1−4の敗戦が)4−4、5−4になっていたかもしれない」(J1第13節、鹿島アントラーズ戦後)
たとえて言うなら、先頃行なわれたUEFAチャンピオンズリーグ準決勝、レアル・マドリードvsマンチェスター・シティにも通じる現象かもしれない。
マンチェスター・シティが組織的に攻撃を構築し、優勢にゲームを進めるも、なかなか得点が奪えない。そうこうするうちに、レアル・マドリードはカリム・ベンゼマやヴィニシウスが、決定機とは言えない状況からでも、あっけなくゴールを陥れてしまうのである。
その後、期せずしてマンチェスター・シティから、アーリング・ハーランド獲得が発表された。
その善し悪しはともかく、優れた組織を無意味なものにしてしまうような「得点をとる特別な能力を持つ選手」が存在し、得てしてそうした選手を擁するチームが強いことは確かだろう。
札幌が1−4と大敗を喫した直近の鹿島戦を振り返っても、前半は鹿島が、後半は札幌が、それぞれ主導権を握って試合を進めたが、前半の鹿島が9本のシュートで4点を奪った(うち3点を鈴木と上田が決めた)のに対し、後半の札幌は11本もシュートを打ちながら1点を返すにとどまった。
しかも、11本のシュートに無駄打ちはほとんどなく、「決定的なチャンスが4、5回くらいはあったかもしれない」(ペトロヴィッチ監督)のだから、いかにも得点効率が悪い。
ペトロヴィッチ監督は、自らが思い描く戦術をチームにうまく落とし込み、チャンスの数を増やすことには成功しているのだが、逆に、その数が増えるほどに決定力不足が目立ってしまうのだから、なんとも皮肉な話である。
とはいえ、Jリーグをよく知る名将は、ゴール欠乏症の原因を選手に押しつけたりはしない。
「ゴールをするのは、才能によるところが非常に大きい」と認めながらも、こう語る。
「広島、浦和時代もそうだったが、自分たちの戦い方のなかで、そこは補っていけると信じている。選手の成長も待ちたい。札幌というチームの予算的なものもあるが、我々は(選手を買ってくるのではなく)育てなければならないなら、しっかりと育てながら戦いたい」
鹿島戦の前半は、指揮官曰く「今季で最も出来の悪い試合」だった。札幌はまったく攻撃が組み立てられず、中盤でボールを失っては、次々とショートカウンターを浴びた。
DF福森晃斗が振り返る。
「立ち上がりから、自分たちのテンポでポゼッションできなかった。正しいポジションをしっかりとって、テンポよくワンタッチ、ツータッチで相手のプレスをかいくぐることができれば、全然問題なかったが、今日は相手のプレスに自らハマってしまった」
しかし、だからといって、一度の失敗で肩を落としてはいられない。事実、札幌が攻勢に試合を進めた後半は、鹿島に点差ほど楽な逃げ切りを許さなかった。
福森が続ける。
「相手がどれだけ自分たちを研究しようが、やるのは自分たち。相手のプレスにハマらないような正しいポジションをとって、11人全員がいい準備をすれば、どの相手にも問題ない。ミシャが監督になって5年目なので、そういうことが浸透されてきていると思う」
決定力不足に悩むチームは、Jリーグにも数多い。
だが、特別な才能を持った選手がいない以上、1回のチャンスで得点できないなら5回に、5回でもダメなら10回に、チャンスの数を増やせばいいじゃないか――。そんな思考で問題解決に挑み、しかも、それを実現できる(できそうな)チームはそれほど多くない。
札幌のサッカーが面白い所以である。