ハイブリッド大国の日本でルノー「アルカナ」を選ぶ理由

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2022年05月17日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
ルノーの新型SUV「アルカナ」は、輸入車で唯一の「ストロングハイブリッド車」であることを特徴とする。ただ、国産ハイブリッド車がひしめく日本で、あえてアルカナを選ぶ意味はあるのか。このクルマに試乗し、強みや持ち味を探ってきた。


○「アルカナ」の武器とは?



アルカナには大きな武器が2つある。まずは「クーペSUV」のデザインだ。日本ではオーソドックスなデザインのSUVをよく見かけるが、輸入車では高級ブランドを中心に、クーペのようなルーフラインを用いたスポーツカー風味のSUVが多い。ただ、高級車が中心であるため、価格帯も高め。429万円のアルカナは輸入車クーペSUVのエントリーという役目も担うのだ。



ボディサイズが全長4,570mm×全幅1,820mm×全高1,580mmと大きすぎない点も魅力。日本車だとマツダ「CX-5」やトヨタ自動車「カローラクロス」、輸入車ではアウディ「Q3」やボルボ「XC40」などとサイズが近いので、日本の道路事情でも扱いやすいサイズといえる。



アルカナのスタイルは流麗かつスポーティー。“なんちゃってクーペ”ではなくクーペSUV専用モデルなので、フロントからテールゲート後端まで、ファストバッククーペのような美しいルーフラインが描かれており、実にカッコいい。足元には18インチの大径ダイヤを装着していて、SUVらしい迫力や力強さも感じられる。これならばルノーファンだけでなく、スタイルに惚れ込んでしまう人がいても不思議ではない。


もうひとつの武器はハイブリッド車(HV)であることだ。意外かもしれないが、輸入車のハイブリッドはモーターをアシストに使うマイルドハイブリッド(MHV)が主力。電気のみで走れる輸入車のハイブリッドカーは、日本で一般的なストロングハイブリッドではなく、より容量の大きな駆動用電池容量を搭載し、外部からの充電も可能なプラグインハイブリッド(PHEV)がメインとなっている。なんとアルカナは、輸入車唯一のストロングハイブリッド車でもあるのだ。電気での走行領域を増やしながらも、PHEVのように容量の大きいリチウムイオンバッテリーと充電機能を持たない分、価格が抑えられている。



アルカナが搭載するハイブリッドシステム「E-TECH HYBRID」は、なんとルノー独自のもの。しかも、ルノーがF1で磨き上げた技術がベースとなっているという点もユニークだ。エンジンは1.6Lの自然吸気。モーターは2つで、ひとつは駆動、もうひとつは発電などを受け持つ。


モーターとエンジンの動力を伝えるATも、このハイブリッドの要となる特殊なものだ。モーター側に2速、エンジン側に4速を備えており、それぞれ最適なギアを使うことで、効率を最大化している。動力の切り替えと伝達のためにクラッチ機構が備わるが、ここにモータースポーツ由来の「ドッグクラッチ」を使っているのも珍しいところ。普通のクラッチのように滑らせてつなぐのではなく、クラッチがギア状となっているので、凹凸がぴたりと合う状況でしかつながらない。その代わりクラッチが瞬時につながるので、動力伝達に途切れがなく、シンプルな機構なので軽量に作れるのがメリット。ただし変速ショックが大きくなるため、通常であれば乗用車に使われることはない。そのネガの解消にも、ルノーのモータースポーツ技術が活用されているのだ。



パワーユニットの性能はエンジンが最高出力94ps(69kW)、最大トルク148Nm。モーターは最高出力49ps(36kW)、最大トルク205Nmを発揮する。高性能というわけではないが効率に優れており、燃費消費率は22.8km/Lと優秀だ。



エンジンとモーターの使い分けは、発進時〜40km/hまではモーターが担当し、40km/h〜80km/hまでの中速域はエンジンとモーターを同時に使って走行、同時に充電も行う。80km/h以上の高速域はエンジンのみで走行と充電を実施。パワーが必要な高速域では、エンジンで発電した電気で走るよりもエンジンを動力として使った方がエネルギー効率は高いのだ。もちろん、減速とブレーキ時にはエネルギー回生を行い、充電する。


○スムーズな走りに脱帽! 惜しいポイントは?



さて問題は、スポーティーな外観に見合った走りが楽しめるかどうかだ。何しろスペックだけだと、アルカナの性能は極めて平凡に見えるのだから。しかし、その点はいい意味で裏切ってくれた。

発進時は電動なので、滑るように走り出す。市街地で多用する40〜60km/hの領域はエンジンとモーターのミックスとなるが、エンジン始動には気が付くものの車内への音の侵入は小さく、ATの動きもスムーズなので、どのようにモーターとエンジンが切り替わっているのかなどは全くわからない。極めてスムーズな動力伝達なのだ。変速ショックの起きやすいドッグクラッチを自動制御で見事に手なずけている点には脱帽だ。


高速道路に乗るとエンジンが主役となるが、80km/hからの加速も滑らかで不満なし。力強い加速とまではいかないが、極めてスムーズに速度が高まっていく。サスペンションやステアリングの味付けはスポーツ指向なので、動きも機敏。大きさの割に軽快な走りを見せてくれることも好印象だった。迫力の見た目ながら、車重が1,470kgにとどめられているのも効果的なのだろう。



惜しいと思える点もある。ひとつはトランスミッションの作動音が聞こえること。時折、「カシャーン」というメカニカルノイズが小さい音ではあるが聞こえてくる。これは、ドッグクラッチと2つの変速ギアを備える構造が関係しているのだろう。先にも述べたが、変速と加速はともにスムーズかつ滑らか。そのため、小さな作動ノイズがもったいないと感じてしまうのだ。



もうひとつは、下り坂をアクセルオフで走行している際の回生ブレーキの効きが弱いこと。ATのギアの位置により回生ブレーキの効きが違うので、しっかりとフットブレーキで調整する必要がある。回生ブレーキの効きを強める「B」モードに入れても、似たような感じだった。マニュアルモードで回生ブレーキの効きや低いギアでのホールドなどを調整できるといいのだが……。今後の改良に期待だ。


装備面では、日本導入モデルが最上級の「R.S.ライン」ということもあり、かなり充実している。先進機能も衝突被害軽減ブレーキ、ACC、レーンセンタリングアシスト、ブラインドスポットワーニング、360度カメラなど、日常からロングドライブまで対応可能なしっかりとした機能を押さえている。前席シートヒーターとステアリングヒーターもあり、インフォメーションシステムは「android Auto」と「CarPlay」にも対応するので、ナビがなくとも困らない。



前後席にはゆとりがあり、快適な空間となっている。ラゲッジスペースも標準で480Lと十分だ。ファミリーカーとしても活躍できるだろう。


全体としては好印象だが、装備面で惜しいところもある。例えば巨大なテールゲートの開閉は電動ではなく、手動のみ。残念ながら、オプションでも電動式は選べない。これでは子供や小柄な人は開閉がしにくいだろう。また、429万円という価格はルノーでは最上級の価格帯となるが、それにしては、インフォメーションシステムやセンターコンソール周りの作りがコンサバに思える。クーペSUVはスペシャルティカーでもあるので、もう少し上質さを演出して欲しかった。


個人的には、よりコンフォートな仕様で価格を抑えたモデルがあってもいいのではないかと思う。このスタイルのクルマが300万円台から買えるとすれば、より多くの人に関心を持ってもらえるはずだ。それと、SUVとしては燃費がよくて魅力的なアルカナだが、エコカー減税対象とならない点も残念。ぜひ対策を練ってほしい。



アルカナ導入による動きには続きがある。なんと「ルーテシア」と「キャプチャー」にも「E-TECH HYBRID」が導入されるようなのだ。いずれの車種もひとクラス下のBセグメントカーなので車重が軽く、走りと燃費の両面で更なる向上が期待できる。より安価に「E-TECH HYBRID」車に乗れるのは魅力だ。



正直、電気自動車(EV)やPHEVの価格は高めだし、いくら燃料代が上がっているとはいえ、ランニングコストの差で“元を取る”のは難しい。ストロングハイブリッド車ならば、電動車らしい走りを味わいながら価格も抑えられる。多くのユーザーにとって、現実的な選択といえるのではないだろうか。



ルノーは看板商品であるMPV「カングー」の新型導入を年内に控えている。今年はルノーが熱い年になるかもしれない。



大音安弘 おおとやすひろ 1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。主な活動媒体に『webCG』『ベストカーWEB』『オートカージャパン』『日経スタイル』『グーマガジン』『モーターファン.jp』など。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。 この著者の記事一覧はこちら(大音安弘)
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