「合意を急げば逆効果も」 尹錫悦・大統領の課題を韓国のジャーナリストが読み解く

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2022年05月18日 17:00  AERA dot.

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写真2022年5月10日、ソウルの韓国国会議事堂前広場で行われた就任式で宣誓する尹錫悦大統領/東亜日報提供
2022年5月10日、ソウルの韓国国会議事堂前広場で行われた就任式で宣誓する尹錫悦大統領/東亜日報提供
 5月10日、尹錫悦氏が韓国の新大統領に就任した。今後の日韓関係について、ジャーナリストで東亜日報の元編集局長、沈揆先さんが語った。AERA 2022年5月23日号から。


【写真】沈揆先さんはこちら
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 5月10日、韓国の新大統領に尹錫悦(ユンソンニョル)氏が就いた。有力紙、東亜日報の元編集局長、沈揆先(シムギュソン)さんは、韓国政治は大きな転換点にあるとし、冷え込んだ日韓関係も変化する可能性を指摘する。


 東京特派員の経験もあり、長らく日韓関係を見つめてきた沈さんは昨年、『慰安婦運動、聖域から広場へ』(邦訳は今年、朝日新聞出版から出版)を著した。韓国の慰安婦支援運動の象徴的存在である尹美香(ユンミヒャン)氏が業務上横領や詐欺罪などで在宅起訴された事件をテーマに、日韓の政府間対立のもとになっている歴史問題を深く掘り下げ、韓国側のタブーを赤裸々につづった。


 韓国における日本問題は、韓国国内の左右両派の対立に翻弄(ほんろう)されてきた側面がある。日本との関係改善に強い意思を示す尹錫悦・新政権だが、少数与党の国会の構成など、足元が不安定な中での出帆を余儀なくされる。


 懸案を進展させるには韓国の政治指導者の決断が欠かせない一方、日本政府が突き放した態度をとり続けるなら、新政権を孤立させることになりかねない。


──韓国の大統領選は常に接戦でしたが、今回は得票率差が1%未満で、右派の尹氏が文在寅(ムンジェイン)・前政権側の左派、李在明(イジェミョン)氏を振り切るという、歴史的な大接戦でした。


 右派、左派ともに強く結集したということです。左派は政権の継続に、右派は政権交代に死活をかけた。今回は最後までネガティブキャンペーンが続き、最悪の候補の当選を避けるという意味で、次善ではなく「次悪」の選択と言われたほどです。それでも投票率が77%と比較的高かったのは、両派ともそれぞれが守ってきた価値を守らねばならないという強い危機感があったからです。




■「アスファルト」の終焉


──現職の朴槿恵(パククネ)・元大統領の弾劾・罷免で壊滅的な打撃を受けた右派は、人材不足にあえぐ中、政治経験のない元検事総長を候補にすえました。あえて政治色を抑えることで、内政、外交とも実績に乏しい文政権の批判票の取り込みに成功しました。


 右派の復活は確かに大きい。同時にこの大統領選は「アスファルト政治家」の終焉(しゅうえん)という意味もあると思います。民主化する過程から韓国の政治家は街頭でスローガンを叫んだり、群衆に呼びかけたりすることで大きく育ってきました。だが、尹氏はそうではない最初の大統領です。アスファルトの上で成長していない人物による政治という流れが、今後も続くことでしょう。


──党人ではない尹大統領は、いきなり厳しい現実に直面することになります。国会は文政権を支えてきた左派が約3分の2を占めており、独自色を出すにも容易ではありません。


 尹政権は変化を追求するでしょうが、すぐに根本的に変えることは難しい。今日の韓国が抱えている最大の問題は、理念の対立という巨大なブラックホールです。左右両派が、相手側をとにかく無条件に批判する「陣営論理」を掲げていて、国民統合が困難なだけではなく、「公正」という基準までが崩れています。国会では巨大野党が控える。それでも6月1日の統一地方選や2年後の総選挙で右派が躍進すれば、変化は加速すると思われます。


■理念の対立は深刻


──政治理念の対立による社会の分断は、韓国でも深刻です。検察の捜査を極めて政治的だと批判してきた文政権と与党(左派)は、尹氏の就任直前に、検察から捜査権を事実上剥奪(はくだつ)する法改正を強引に進め、国を二分する議論に発展しています。


 残念ながら理念の対立は今後も深まっていくでしょう。尹錫悦大統領は就任式で、「陣営論理」は民主主義を危機に陥れる反知性主義だと批判しました。陣営論理がひどくなったのは盧武鉉(ノムヒョン)、文在寅という二つの政権が、左派系の市民団体をひいきする形で手厚く支援し、またこれらの市民団体も両政権の失政に目をつむったことで対立が激化し、やがて右派系市民団体も声を上げ始めたからです。尹政権にはそんな悪循環を何とか断ち切ってほしい。市民社会や市民団体を公正に扱い、苦言にも耳を傾ける以外に葛藤をやわらげる方法はありません。



■関係改善のメッセージ


──文政権が支援した市民団体には、慰安婦支援運動に関わってきた団体も含まれます。前任の朴槿恵政権に否定的な文政権は、2015年の日韓両政府による慰安婦合意も形骸化させました。さらに韓国大法院(最高裁)が日本企業への賠償を命じた徴用工問題では、有効な解決案を示せなかった。日本政府側が不信感を抱く背景には歴史問題のみならず、未来の問題も関係しています。台頭する中国、核・ミサイル開発を進める北朝鮮といかに向き合うか。日本側は韓国と認識を共有できないことへいらだちを募らせています。


 尹政権は発足前から、日本に対して関係改善の明確なメッセージを送っています。歴代の政権で、これほど強調した例はありません。歴史問題だけに特化する二国間ではなく、国際的な関係の中で未来志向的な姿勢で日本と協力していくと明言し、変化の兆しが見えます。他方、少数与党という現実がある。


 新政権は日本との関係改善の意思を堅持しつつも、解決や合意を急いではいけない。なぜなら文政権下では静かにしていた慰安婦支援団体は、尹政権が日本に譲歩したとなれば、即座に反対運動を始める可能性が高いからです。そうさせないためにも支援団体を関与させるよう、うまく誘導する必要がある。非難する口実を与えないことです。


 日本政府も真に韓日関係の変化を望むなら、相応の誠意を示さなければいけない。これまでのように、すべて韓国側でやるべきことだという態度では、新政権がとれる選択肢は限られてくることを認識すべきです。


──文政権は、北朝鮮との融和を最重視してきました。米朝首脳会談は実現したものの、結果として物別れに終わり、北朝鮮は本格的な核・ミサイル開発を再開させるなど不発に終わりました。南北対話の継続のためにも、与野党の政権交代阻止を目指して右派を攻撃してきましたが、大統領選にも敗北。日本との関係も悪化の一途をたどりました。


■政権の悩みはすでに


 文政権を支持する層は強い好感を抱いたが、逆の側は猛反発するという、市民らの情緒的な両極化を招いた5年間だったといえるでしょう。左派的な理念の偏向を、公正や正義といった言葉で包みこんだことで、自由民主主義の後退といった多くの副作用を招いてしまいました。20年の総選挙で左派を圧勝させた支持者の3割が離脱し、そのうちの約半数は今回の大統領選で尹氏を支持したという調査もあります。


 しかし、だからといって尹政権がすべて文政権の政策をひっくり返してしまえば、今度はまた左派の結集を招くことになるでしょう。検察改革法案の強行処理も、尹政権の行く末が決して順調でないことを示しているとも言えます。保守の価値観をしっかり持ちながら、いかに国民統合や、巨大野党との協調を図るのか。尹政権の悩みはすでに始まっています。


(構成/朝日新聞記者・箱田哲也)

※AERA 2022年5月23日号


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  • 合意?既に合意したのをひっくり返してるのはチョソ公のほうだろ?勝手にやってろよ。
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