米中間選挙の争点に浮上か 全米で「女性の人口中絶禁止」をめぐる反対デモ

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2022年05月19日 10:00  AERA dot.

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写真人工中絶は違法になるとされる最高裁判事意見書草案に反対するため、ニューヨークに急きょ約千人が集まった/5月4日(写真:津山恵子)
人工中絶は違法になるとされる最高裁判事意見書草案に反対するため、ニューヨークに急きょ約千人が集まった/5月4日(写真:津山恵子)
 11月8日に行われる米中間選挙まで半年を切った。国民の関心は、長期化するロシアによるウクライナ侵攻の影響による米経済の行方だけでない。女性が人工中絶を選ぶ権利にも注がれる。中間選挙の争点は何か。AERA 2022年5月23日号は、揺れる米国の現状を報告する。


【図】任期途中の中間選挙の結果はこちら
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 リベラル派市民を中間選挙に駆り立てるようなニュースが流れた。政治ニュースサイト「ポリティコ」が5月2日、「女性が人工中絶を選ぶ権利は憲法で保障されている」という過去の連邦最高裁判例について、現在の最高裁内で書かれた保守派判事の多数意見草案をスクープしたのだ。人工中絶の権利を認めた1973年の判例を覆す内容で、リベラル派市民が「反対」を訴えて立ち上がり、全米でデモが広がっている。


 人工中絶を女性の権利とするかどうかは、リベラル派も保守派も決して譲れない、国を二分する論争だ。それだけに、中間選挙で劣勢とされる民主党の大統領に指名されたリベラル派の最高裁判事側がポリティコにリークしたのではないかという指摘さえある。最高裁は保守派判事が多数を占めているため人工中絶の権利は失うことになりそうな様相だが、それに対してリベラル派市民が怒りを見せている。


 20年のトランプ政権時に起きた黒人の権利を訴える「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」は下火になった。今も、白人あるいは白人警官による黒人殺害は減少していない。さらに、米市民の多くが認めている人工中絶の権利について、保守派最高裁判事が約50年前の「違法」状態に戻そうとしている。


 次に保守派がターゲットとするのは、LGBTQなど性的少数派の結婚の権利とも言われる。


 人権問題でこれだけの「後退」があったことで、民主党の巻き返しの動きも目立ってきた。


 バイデン大統領は4月下旬、オハイオ州を訪れた際、人種や性差別を教える教師らを前に珍しく語気を強めた。フロリダ州のロン・デサンティス州知事(共和党)や州教育当局が、白人至上主義を非難する内容が含まれているとして54種類の数学の教科書の採用を却下すると発表した直後だ。このうち数十の教科書出版社は、言及があった表現を削除し、採用を認められた。




「今日、数学の教科書に至るまで政治的な視点を持ち込んで禁止しようとする政治家があまりにもたくさんいる。自分の政治思想に合わないというだけで、教科書が禁止されたり燃やされたりすることなんて、考えたことがあるか」(バイデン氏)


 教育現場での「文化戦争」にまで発展してきた保守派の政治的な猛攻撃に、初めて言及した。


 民主党員やリベラル派は、保守派市民や政治家のあからさまな人種・性・性的少数派差別について、感情的にならないように努めてきた節がある。しかし、人工中絶が違法となる見込みの中で、それも変わろうとしている。最大の理由が、中間選挙でトランプ派が主流ではないという結果を見せることだ。そこに、伝統的な共和党支持者のトランプ政権の大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を務めたジョン・ボルトン氏らが加わり、まさに「国民投票」的な意味を帯びてきた。


■激しいインフレ率の上昇、税金の大幅カットは魅力的


 米経済の行方も、中間選挙の争点となりそうだ。インフレ率の上昇が激しい最中、米連邦準備制度理事会(FRB)は4日、22年ぶりとなる0.5%の大幅利上げを決定。同時に金融資産の圧縮に乗り出し、インフレを抑え込む姿勢をみせた。


 ロシアによるウクライナ侵攻がいつ終わるのか見通しは不透明で、米国の支援支出は膨らんでいる。また、原油価格も高止まりし、3月の消費者物価指数は約40年ぶりの高水準と、市民の懐を直撃。ニューヨーク市内のレストランに行くと、メニューの価格には全てテープが貼られて書き換えられ、値上げされているのを見る。ダンキンドーナツのコーヒーの価格は以前の2倍となり、高騰は容赦ない。バイデン政権は、米経済は堅調、失業率が低水準にとどまり多くの雇用を創出していると主張するが、インフレの解決にはならない。


 その中で、トランプ派支持者が主張する小さな政府、つまり税金の大幅カットは魅力的に聞こえる。トランプ氏の推薦を受けて、オハイオ州の共和党上院議員候補を選ぶ予備選挙で勝利したJ・D・バンス氏(37)の公約の一つでもある。



 一方で、選挙の勝敗を決するのは政策ではなく、候補者が資金をどれほど集められるかだという現実もある。


 米選挙は年々、金権選挙の色を強めてきた。バンス氏は、予備選挙ですでに7千万ドル(約90億円)を使ってオハイオ州内で大量のテレビCMを流した。その資金集めでもトランプ氏が推薦したという「お墨付き」は大きく、推薦を取り付けた途端に有権者からの寄付が増えるという構造だ。


 市民がインフレで経済的に苦しむ一方、中間選挙では巨額の資金が浪費される。しかも、その選挙の争点はトランプ氏を否定するのか復活させるのかという、政治的イデオロギーとしては異常に歪められた内容となる。11月の投開票日には、米メディアは「トランプ」という名を連呼せざるを得ないだろう。24年大統領選挙にどんな影響を及ぼすのか、中間選挙とその後もヒリヒリとした状況が続く。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)


※AERA 2022年5月23日号より抜粋


このニュースに関するつぶやき

  • アメリカは生物教師が進化論を教えるとカルトに告発されたり、「理科の時間に聖書を教えろ」という人がいたりと狂った国だから
    • イイネ!7
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