写真 秀島史香さん(写真:著者提供) |
なぜラジオは3時間の生放送でも聞き続けられるのか? ラジオDJとして25年、第一線で活躍し続ける秀島史香さんですが、実は「もともと緊張しがちで人見知りで心配性」といいます。そんな秀島さんだからこそ見つけられた、誰でも再現できる「人が聞き入ってしまう会話のレシピ」を一冊に詰め込んだ『なぜか聴きたくなる人の話し方』からの連載。今回は、「、」よりも「。」を増やすと話を聴いてもらえる理由を紹介します。
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■会話の第一印象は、「簡潔&完結」が決め手
私がラジオで話す際に、何よりまず大切にしているのが、会話の第一印象です。当たり前ですが、どんな話でも、まずは相手に聞く耳を持ってもらわなくては、その先はありません。
まず目指したいのは、相手に「この人の話をもう少し聞いてもいいかな」と思ってもらうこと。もっと言うと「余計な負荷をかけないこと」。会話の立ち上がりは、これで十分です。
相手に負荷をかけないためにできること。方法はシンプルです。それは「話すときには、短めの一文一文を完結させていく。つまり、意識的に『。』を増やす」ということ。
「え、それだけ?」って思いました? いやいや、これが地味ながら、仕事でも、雑談でも、勝負時でも、相手に聞く耳を開いてもらうための大切な出発点となるのです。
あらゆる会話で大前提にしたいのは、「そもそも人は飽きやすい。その興味をそそり、持続させるのはなかなか大変」という現実です。
どんな状況でも、最初に耳に飛び込んでくる一文が長すぎると、人は「わかりにくい話」と判断し、理解することをやめてしまいます。ただでさえネットのニュースや動画、SNSなど、とにかく「短い尺のもの」が好まれる時代。私たちは「長尺の何か」に対してどんどん耐えきれなくなっています。
そうはいっても、自分が話すとなると、ついダラダラと続けてしまうんですよね。なぜなら「、」を打ちながらつなげて話していくほうが楽だから。
つい「◯◯で〜」「◯◯だから〜」と次から次へとつなげていく話し方をしていませんか。
文章を書くときにもよく言われる注意点ですね。私も子どもの頃、作文で「朝起きて、学校に行ったら、給食がおいしくて、おかわりしようとしたらジャンケンになって……」とひたすら「、」でつなぎまくって直された思い出があります。
ラジオDJの駆け出し時代も、自信のなさから、「アレもコレも」と話の内容をどんどん付け足してダラダラと長くなり、「で、結局何を言いたいのか?」とよく怒られたものです。
そんな日々から月日は流れました。今でも自分の放送を聞き直しては「こうすればよかった!」というポイントは色々ありますが、客観的に「わかりやすかった」「聞きやすかった」と思えるのは、やっぱりほどよく「。」を入れて話せたときです。
例えば、「昨日は茅ヶ崎の実家に帰りました。」「ここで湘南の話題です。」「今年もイルミネーションが始まりましたね。」と。
活字で目にするとなんてことないように感じますが、それはいまあなたが自分のスピードで文字を追い、理解したから。
会話では当たり前ですが、テロップなしの声だけ。しかも話す人特有のスピードで、いきなり長い文章を話されたらどうでしょう。「ちょ、ちょっと待って!」と聞き手には大きな負荷がかかります。
だからこそ、話はじめは特に意識して「。」を増やし、簡潔に言い切る。相手が話の内容を受け取る際の負荷も、理解度も大きく変わってきます。
何はさておき、短い一文で始めれば、「これからこんな話をしますよ」という全体像を相手に掴んでもらいやすくなります。
相手も「そんな話をするのだな」と聞く準備ができて、続く話の内容を受け取りやすくなります。しかも一文一文が短い話であれば、「まあ、あと少し聞いていてもしんどくないか」と聞く耳を持ってもらえるのです。
「あの人の話ってわかりやすいよね」と感じる人がいたら、それは「何の話?」「この長い話、どこまで続くの?」など余計なストレスがかかっていないということ。
今度話を聞くとき、その人が挟んでくる「。」の数を気にしながら耳を傾けてみてください。「短く言い切ってるな!」と気づくはずです。
■一文ごとに、お互い、ひと息
リスナーからいただくメールを読む際も、長ーい文章だと、主語と述語がどう対応しているのかわかりづらくなり、理解するのに脳がテンヤワンヤです。とくに、生放送中、初見で声に出して読んでいくときは、文面からリスナーが言わんとしていることを頭に留めながら、書かれている言葉を自分の頭の中で再構築していきます。
そのとき、内容を理解するために、「ええと、つまり、さっきのアレとつながってくるってこと……?」と考えながら、その場で言葉を入れ替えたりつなぎ合わせていくのですが、声は冷静を保ちつつ、頭の中では冷や汗。読みながら「次は何を話すんだっけ?」と、意識が迷子になってしまうこともあります。
例えばラジオで「最近恥ずかしかったこと」がテーマのとき。こんなエピソードを聞かされたら、どうでしょう?
<昨日、近所のスーパーに行ったら、新商品のヨーグルトの試食販売をやっていて、『今こそ、免疫力アップ!』なんて言われたらすごく気になって、ちょっと試食してみたら、そのお姉さんがまあマシンガントークで、いろんな種類を次から次へと渡してくれて、断るに断れずで、モグモグ食べていたら、近所の奥さんが通りかかって、挨拶したんですが、恥ずかしくなっちゃって、思わず『これ、おいしいですよー』なんて私まで宣伝しちゃって、参りましたよ!>
ちょっと極端な例ではありましたが、「この話、いつ終わるんだ!?」とつっこみたくなりますね。もちろん息継ぎはしますが、最後まで、ひとつの文章なのです。
こうした「。」のない文は、読んでいても疲れます。ましてや声だけの場合、大量の情報を一気に伝えられると、それを頭で処理しながら話を聞かなければいけません。よほど興味がなければ、集中力が切れて追えなくなってしまいます。
仕事や家事をしながら聞いてもらうラジオ。こんな調子で話を続けたら、「何を言っているのかわからない」とそっぽを向かれてしまいます。悲しいかな、DJの声はただのノイズに。
では、意識的に複数の短めの文に区切ってみるとどうでしょうか。
<昨日、近所スーパーに行ったら、新商品のヨーグルトの試食販売をやっていたんです。『今こそ、免疫力アップ!』なんて言われたら、気になるじゃないですか。ちょっと試食してみたら、そのお姉さんがマシンガントークで大変! 矢継ぎ早にいろんな種類を次から次へと渡してくれるんです。断るに断れず、モグモグ食べていたら、そこに通りかかったのが近所の奥さん。挨拶したんですが、恥ずかしくなっちゃいました。思わず私まで『これ、おいしいですよー』なんて宣伝しちゃいました。参りましたよ!>
こちらのほうが断然、伝わりやすいですよね。これは、一文が完結するたびに、聞き手が話を理解する間が生まれるからです。話し手も、この間を使って、「理解しているかな?」「伝わっているかな?」と相手の様子を確認しながら話を進められます。
伝えたい情報をひとつひとつ手渡して、確認していくイメージです。
■小さな“シーン”ごとに区切ってみる
短く言い切るコツとしては、ドラマのシーンごとに区切って撮影している感覚。「スーパーに行ったら試食販売をやっている」「宣伝文句を聞いて気になった」「試食してみたら猛烈なセールストークが炸裂」……と、小さいまとまりを作っていきましょう。
このようなイメージを思い浮かべながら、まずは「簡潔&完結」に言い切るように意識してみてください。
慣れないうちは、「なんだか心もとないな」と違和感があるかもしれません。でも大丈夫。日頃から、「。」を打とう、言い切ろう、と意識していると、次第に習慣として身についていきます。
習慣化すれば、話をダラダラつなげること自体、気持ち悪く感じるようになってきます。そうなればもうこっちのもの。
会話の中の「。」を大切にすることで、あなたの会話の第一印象はスッキリ分かりやすいものへと変わっていきます。
しかも今すぐ始められるシンプルさ。「本当にそれだけで?」と思った方は、今日は一口試してみるような感覚で、ひとつでも「。」を増やすことを意識してみてくださいね。小さな工夫で会話の印象を大きくアップさせる第一歩。まずは気軽に始めていきましょう。
【ここまで聴いてくれたあなたへ】「。」を増やせば、わかりやすさが増す。
(構成/小川由希子)
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