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奥川雅也インタビュー(前編)
ドイツ・ブンデスリーガの2021−22シーズンが幕を下ろした。今季のブンデスリーガで最も多くの得点を決めた日本人選手はビーレフェルトの奥川雅也だ。チームは17位となり残念ながら来季は2部に降格してしまうが、奥川はチームの全27得点のうち8得点を決めたチーム内得点王でもあった。得点のチャンス自体が少ないなかで、奥川は決定力で何度もチームを救った。そんな奥川に初夏のビーレフェルトで話を聞いた。今季の活躍ぶりや10代での海外移籍という経験、そして日本代表について、物静かに、そして時折り熱のこもったトーンで話してくれた。
――今季はブンデスリーガ1部で8得点とりました。
「負けてる試合の多くでは、チームとしても得点が入ってないので、そういう意味では守備の強度は求められつつ、やっぱり『ゴールを』と言われてきました。チーム内で(得点を)獲れるポジションも限られているので、より結果を求められていました」
――チーム内得点王になったことについてはどう思いますか。
「もともと僕は、ストライカーという感じじゃないんですけどね。普通、チームにはストライカー(らしい選手)がいたりしますよね。でも、すばらしいことだと思いますし、そこに何かプレッシャーみたいなものはないですね」
――『僕が点をとらなきゃ』とはならなかった?
「ないですね。ただ、少ないチャンスなので、そこをどう決めるかっていうのは、自分に求めているところでもあります。いい意味でのプレッシャーはありますけど、そんな負担になるようなプレッシャーはないです」
――性格的にあまり周囲の声、期待が気になるタイプではないんですか。
「あまり考えないようにはしています。結構、分析じゃないですけど、どうやったらうまくいくかなということは、日頃からよく考えています。でも、考えたことをあまり試合に持ち込まないように、というのはしていますね。始まったら始まったで、やるしかないなという感じです」
意識の部分でゴールへ向かうようになった
――「よく考えている」というのは具体的にはどういうことですか。
「練習からうまくいってないなという時に、やはり自分がこう動いたほうがチームとして機能するかなとか、悩んだり、考えたりはします。試合の部分でやりにくいことも、チームメイトと話します。チームも守備主体というか、守って攻撃で点をとれたらいいという感じなので、攻撃につなげるための守備をどういくのかということは、よく話したりはしますね」
――チームメイトとはドイツ語で話すんですか。
「ドイツ語です。英語は少ししかできないですけど、チームにはドイツ語が喋れない人もいて、そういう時は英語で喋ってもらってそれを理解して、という感じですね。でも、ドイツ語もそれほどできないですよ。早口で言われたら全然わからないし、若者の言葉とかはなかなか難しいんですけど、あまりそういうことは気にならないんですよね」
――?わからないことがストレスにならない?
「やり過ごせるタイプというか......。たぶん、あまりよくないと思うんですけどね。わかるにこしたことはないと思いますし。でも、言いたいことを言って、相手がわかってくれたら、もうそれでいいかなと。サッカーの話なら問題ないですし」
――今季、決定力が上がったと感じたり、得点への意識が変わったりしたことはあるのですか。
「ザルツブルクにいた時から得点というのは意識していて、その時(2019−20シーズン)も公式戦で11点(リーグ戦9点、カップ戦2点)をとっていました。で、昨季はビーレフェルトにレンタルで来たんですけど、その時は守備の役割の部分が多かったので、今季は得点に関わるプレーがしたいということを監督とも話して、監督もそれを理解してくれていたので、前でやらせてもらうことが多くなりました。やはりレベルが高く、結果が求められる世界でチームを助けるためには得点が必要だと思っていました。なので、意識の部分で、ゴールに向かいたいなというのが大きくなったのかなと思います」
反対されながら19歳で海外移籍を決断
――この形なら点がとれるという感覚を身につけたということはあります?
「もともと動き出しの部分でのタイミングで(点を)とれるタイプだったので、そこの信頼でパスがくるのもあったし、今年はいいパスも入ってきましたから。ただ、チャンス自体が少ないので、いかに一回のチャンスを決めるかということにすごく集中しています」
――『ビルト』紙でも、ロベルト・レバンドフスキ(バイエルン)より効率よく、少ないシュートで点をとっていると話題になりました。
「本当にチーム自体にチャンスが少ないので、ここぞというところで決定的な仕事をするというか、相手のスキというのを見つけることは意識しています。ボールを持ってる人のタイミングで(パスが)出たりはしますけど、自分主体で動くことも多くて、そこにボールが来た時というのは、やはり得点につながっている感じがします」
――パスを待つというよりも『出せよ』という感じですか。
「感覚的にはそうですね。そのパターンだと、結構、得点になってると思うんですよね」
――フィジカル的にはドイツのディフェンダーに劣ることも多いですよね。
「ペナルティエリアに入ったところやゴール前というのは、相手も潰しにかかってくるというのも考えながらポジショニングをとっています。相手の裏(をとるため)の一瞬のスピードというのは勝っていると思いますし、短所ではなくて、そういう自分の長所で勝負するというのが今季はできていたなと」
――奥川選手が欧州に来たのは19歳の時で、すでに欧州で7シーズンになります。『もう少しJリーグで』と思ったことはないですか。
「19歳になったばかりだったのですが、当時は僕みたいに早く海外移籍するタイプはいなくて、もっとJリーグで活躍してから、日本で名前が売れてから移籍するというのが普通の流れでしたし、いろいろな人から『絶対にJリーグで活躍してから行ったほうがいいよ』と何回も言われました。自分自身も、京都(サンガ)に中学校時代からお世話になっていたから、恩返しのためにはどうしたらいいかと考えたりもしましたよ。でも正直、単純に海外に行きたいという思いをずっと持っていたので、『このチャンスを逃したら次、あるのかな』と考えたら、(ザルツブルクに)行くという選択肢だけが残りました。
僕自身はいいタイミングで移籍できたので、そういう選手もこれからは増えてくるんじゃないかなと思います。たぶん悩むところだと思うんですよね。『あと2、3年、Jリーグでやってから海外に行くか』とか、『でも2、3年で結果が出るとは限らないしな』とか」
――Jリーグで試合に出られないならと、大学進学を選択する選手もいますよね。
「でも、結果的に(日本で)2、3年で結果を出せる人は、絶対、海外に行っても活躍する実力もあると思うので、その時の自分のタイミングと所属チームのことも考慮しながら選択するのがいいんじゃないですか。目先の勢いだけで行くのはしんどいと思うので、『行きたいから行く』というのではなくて、考えてから決めるほうがうまくいくのかなとは思います」
(つづく)
【profile】
奥川雅也(おくがわ・まさや)
1996年4月14日生まれ。滋賀県甲賀市出身。京都サンガの下部組織から2015年にトップチーム昇格。大分トリニータ戦で初ゴールを決めている。同年夏、ザルツブルクに移籍。期限付き移籍でリーフェリング、マッテルスブルク(いずれもオーストリア)、キール(ドイツ)でプレー。2019年、ザルツブルクに復帰。2021年からはビーレフェルトでプレーしている。