「きれいごと抜きの世の中の真実」を教えてくれる、「銭天堂」シリーズ大ヒットの理由を考察!

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2022年05月20日 06:41  ダ・ヴィンチWeb

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写真『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂17』(廣嶋玲子:著、jyajya:イラスト/偕成社)
『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂17』(廣嶋玲子:著、jyajya:イラスト/偕成社)

 廣嶋玲子氏による『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』からはじまる「銭天堂」シリーズ(jyajya 絵)。困りごとや悩みを抱えた人間たちが、特別な効用を持つ駄菓子を売る紅子が営む店に迷い込み、その駄菓子を使って不満や不安を解消するが、つい欲が勝って必要以上に駄菓子を乱用してしっぺ返しに遭う――というのが、お話の基本的なパターンだ。

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 これと似た構造の人気作品がある。「月刊コロコロコミック」連載、YouTubeアニメチャンネルとして登録者数30万人を持つ、きさいちさとし『ブラックチャンネル』だ。同作では動画クリエイターの悪魔ブラックが、欲や負の感情にまみれた人に動画撮影する契約を交わす代わりに特殊な力を与えるが、契約者はやはり欲望を満たそうと暴走したあげくすべての様子が動画に撮られていて炎上、地獄に落ちて反省するのが基本的な型になっている。

 どちらも小学校の中・高学年を中心に幅広い世代のファンを集めている。なぜこういう話が10歳前後以上の子どもに好まれるのか。

 それよりも下の年代、乳幼児から小学校低学年までに好まれる作品の特徴のひとつは、欲望の発露・肯定であり、自由に生きるさまを描くことだ。

「ノンタン」絵本、『11ぴきのねこ』『長くつ下のピッピ』、それから『アンパンマン』のバイキンマンなど、気のおもむくままに行動して好き放題にやるキャラクターは人気がある。子どもはこうした存在を見て、おそらく解放感を抱く。

 それはもちろん、現実世界では「あれするな」「これは危ない」「汚すからダメ」等々、大人からさまざまな行動の制約を課されているからだ。空想の世界で好き勝手してくれる存在に憧れるのは当然だ。

 ところがもう少し成長して小学校の中・高学年になると、自分と誰かとの間での欲望の衝突に悩むようになってくる。他者の心の動きを類推できる力が育ってくるがゆえに、素直に欲望を発現することが望ましいとは単純に思えなくなってくる。

 欲求にストレートな行動を取ることは、トラブルを引き起こしたり、いじめにつながったりすることに気づく。大人は都合のいいように自分たちを誘導しようとすることもわかってくるし、学校で習うようなきれいごとだけで世の中が動いていないことも見えてくる。人間はみんないい人ばかりではないし、いい人だって時には黒い感情にとらわれることがある。

「銭天堂」シリーズや『ブラックチャンネル』は、そういうことに気づき始めた年頃の子どもをまさに中核的な読者層にしている。

 人間にはオモテの顔とウラの顔があること、願望を叶えてくれるアイテムがあったらいいのにと思うこと、誰しもつい魔が差したり調子に乗ったりしてしまうこと、でもウラの顔のほうを肥大化させたり欲望を全開にしていくと、いつか罰を受けること……読者が日々感じるようになったことを、これらの作品はきれいごとのウソくささを極力取り払ったかたちで描く。ただし本当に心の底から不快感を覚えるような展開や、グロテスクな表現ではない。

「銭天堂」シリーズが、ある部分でホラー作品よりもこわいのは、「悪いことをした人も反省すれば最終的には救われる」ではなく、「手遅れになるまでやりすぎたやつは救いがない」という結末の話も、ゴロゴロあることだ。

 この容赦のなさこそが、「世の中には『本音と建前の使い分けがある』ことを前提にしながら、本音一辺倒でも建前ばかり言ってもトラブルが起こるなかで、自分と他人の欲望にどう折り合いを付けていけばいいか」という、人間関係の難しさに直面している小学校中・高学年の読み手に刺さるのではないか。きれいごと抜きの、世の中の真実だと感じる作品になっている。

 妬みや恨み、怒り、羨望、攻撃心のような負の感情との付き合い方を、きれいごと抜きで教えてくれる人は少ない。先生や保護者には訊けないし、建前以上のことはなかなか言ってくれない。友だちにだって、相談できない。けれどもたしかにそういう感情は人間にあって、それが問題を引き起こすことは、子どもだって知っている。

「銭天堂」シリーズは、そういうものに駆動されて人は行動してしまうことを隠さず描く。どう付き合えばいいのかだって(直接的にではないにしても)示してくれる。

 それが多くの人が「銭天堂」シリーズに惹かれる理由のひとつだろう。

文=飯田一史

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