「光宙」を「ピカチュウ」と読める? もはや珍しくないキラキラネームで「漢字」は「感字」に

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2022年05月20日 11:30  AERA dot.

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写真今や、一見しただけではどう読んだらいいのかわからない名前は主流派だ(gettyimages)
今や、一見しただけではどう読んだらいいのかわからない名前は主流派だ(gettyimages)
 氏名の読み仮名を戸籍に記載するための議論が、昨秋、法務省の法制審議会の部会で始まった。行政手続きのデジタル化を進めるうえでルールを検討してきたが、部会は17日、中間試案をまとめた。「光宙」を「ピカチュウ」、「大空」を「スカイ」と読むなど、字義と関連がある読み方は幅広く容認される見込みで、SNSでも大きな話題となった。そこで、改めて注目された「キラキラネーム」と呼ばれる漢字本来の読みとは異なる名前。『キラキラネームの大研究』の著書がある文筆家の伊東ひとみさんに、最近の命名の傾向を聞いた。


【写真】大正天皇の生母の柳原愛子(なるこ)さん
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 キラキラネームはたびたび話題になりますが、メディアで取り上げられる「光宙」と書いて「ピカチュウ」と読むような極端な名前は、実在するかどうか、本当のところはよくわかりません。ただ、タレントの松嶋尚美さんのお子さんは「空詩」で「ララ」さん、俳優の的場浩司さんのお子さんは「宝冠」で「ティアラ」さんと、なかなか個性的な名前のようです。身近なところでも、「心愛」で「ココア」、「結愛」で「ユア」といった読めない名前に出合う機会は増えていると思います。


 つい数日前、友人から、ある選考会で約220人の応募者のうち、かなりの人数が キラキラネームだったと聞きました。友人は「名前の入力作業に疲れた」と嘆いていたほど。変換候補に出てこないような名前ばかりだったのでしょう。それほど今の子どもたちにおいては、常識的な漢字の読みとは異なる名前が多いということです。


■「陽翔」や「陽葵」 読み方様々


 明治安田生命は、生まれ年別の名前調査として毎年「名前ランキング」を発表しています。2021年の男の子の名前1位は「蓮」と書いて普通に「レン」と読みますが、2位の「陽翔」は「ハルト」「ヒナタ」「ヒュウガ」「ヤマト」などと様々な読み方がありました。女の子の名前1位は「紬」で「ツムギ」ですが、2位の「陽葵」は「ヒマリ」「ハルキ」「ヒナタ」「ヒナ」などと読むそうです。こうした「陽翔」や「陽葵」がランキングの上位に入るほど、今や、一見しただけではどう読んだらいいのかわからない名前は主流派になっているのです。




 読めない名前で言えば、歴史上の人物にたくさんいます。例えば、大正天皇の生母の柳原愛子は「やなぎわらなるこ」です。平安時代の清和天皇の母親である藤原明子は、「明子」と書いて「あきらけいこ」と読むのが学界の定説となっています。


 歴史をたどれば、中国から入ってきた漢字は、かつては「真(ま)名(な)」と呼ばれ、漢籍の教養を有するインテリ層しか使えないような文字でした。それが、戦後、「当用漢字」 が制定され、漢字使用が制限されます。五万字ともいわれる漢字を1850字に限定、曖昧だった音訓も定められ、複雑かつ多様だった字体も簡素化されて、国民の誰もが平易に使える文字として庶民に浸透していきました。その後、カジュアル化した漢字は、制限する必要がなくなるほど国民みんなのものとなり、やがて制限から単なる目安にする「常用漢字」に変更されました。


 しかし、一見付き合いやすい文字になった今でも、漢字の背後には太古からの歴史が積み重なっています。そのため「常用漢字」しか知らない世代が、無防備に漢字の奥深い世界に踏み入ってしまうと、一般的ではない使い方を拾ってくることがあるわけです。キラキラネームなどは、まさにその一例ですね。


■「漢字」が「感字」に


 名づけにはどの漢字を使ってもよいというわけではありません。現在、名づけに使える漢字は、「常用漢字」2136字と「人名用漢字」863字の計2999字です。その中に「腥」(せい)は入っていませんが、「月」と「星」と書くので、きれいなイメージを抱いて、名づけに使いたいと思う人もいるようです。でも、「腥い」の訓読みは「生臭い」。「腥」の「月」は「にくづき(肉月)」といって、筋のある柔らかい肉の象形が変形して「月」になったもので、「胸」「肺」「腸」など身体の部分などに関する漢字に使われます。同じデザインでも、お月様の「月」ではないのです。「胱」も、「月」と「光」でキラキラしたように見えますが、膀胱の「胱」ですから、人名にはふさわしくありません。もちろんどちらも使用外です。



 カジュアル化・平易化が完成した漢字社会で育ってきた世代は、漢字をデザインとして見て、「竜」より「龍」のように画数の多い漢字をかっこいいと感じたり、「腥」の例のように「月」+「星」できれい なイメージだととらえたりする傾向が少なからずあると思います。そうした漢字使用に対して大人世代がおぼえる違和感は、外国人がかっこいいと思って着ているTシャツの漢字が、日本人からすると奇妙に見えるのと似た感覚かもしれません。


 つまり、「漢字」が感覚的に捉えられる「感字」となってきているのだと思います。名前にも流行り廃りがあり、時代によって変わっていくもの。それは今も昔も同じですが、そこに漢字観の変化という新たな要素が加味されて、「いい感じの漢字」を使って名づけるキラキラネームが増えているのではないでしょうか。


■「自由」の背中に「責任」


 過去に、「悪魔」と名づけようとして命名権について裁判になった事例や、子どもが名前をどうしても変えたいという事例はありました。これらはキラキラネームに限らず、いつの時代にもある論争です。ただ、いま主流となりつつある読めない名前は、非常識な親による命名権の乱用といったものではなく、漢字観の変化によるものです。そもそも、言葉というのは自然に生まれ、自由に使われる中で淘汰されていくのが本来の姿です。ですから、言葉を規制できないように、戸籍法で読み仮名をどこまで容認するかについては、いくら論議しても実際問題としては規制することは不可能ですし、自由であるべきだと私は考え思います。


 言うまでもありませんが、「自由」には「責任」が伴います。名前も自由だからと言って、何でもよいわけではありません。子どもは、一生その名前を背負います。それに、何十年も生き続ける言葉を個人が作る機会など、自分の子どもの名づけの時くらいしかないでしょう。そういうことを考えると、愛するわが子への責任、そして日本語という言葉への責任も忘れずに、名づけをしてほしいと切に願います。


◎伊東ひとみ
静岡県生まれ。奈良女子大学理学部卒業。古都の歴史的風土に触発され、京都大学木材研究所を経て、奈良新聞社の文化面記者として勤務。その後、編集者から文筆家に。著書に『キラキラネームの大研究』(新潮新書)、『地名の謎を解く──隠された「日本の古層」』(新潮選書)、『漢字の気持ち』(新潮文庫、高橋政巳共著)、『恋する万葉植物』(光村推古書院、絵・千田春菜)など。


(構成/AERA dot.編集部・岩下明日香)


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  • だからいい加減キラキラネーム(大爆笑)等と誤魔化すのを止めろ、ちゃんと「馬鹿親(orDQN)ネーム」と表記しろ。
    • イイネ!26
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