チームもグラウンドも一から作った… “最後の女子プロ野球選手”西山小春の再出発

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2022年05月21日 08:30  ベースボールキング

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広島の企業チーム「はつかいちサンブレイズ」でプレーする西山小春選手[写真=別府勉]
◆ 女子プロ野球出身の24歳…廿日市で奮闘中

 真っ赤なユニフォームを着た彼女と会うのは初めてだったが、4年前と変わらない明るい笑顔で迎えてくれた。

 昨年、無期限休止となった女子プロ野球リーグ(JWBL)の出身者である西山小春外野手(24)は、今年4月に広島県廿日市市で発足した中国地方初となる女子硬式野球の企業チーム「はつかいちサンブレイズ」でプレーしている。

 初めて取材したのは2018年。青がチームカラーのJWBL愛知ディオーネで活躍してきた西山は、リーグが休止する最後までプロとしてユニフォームを着続けた。

 「最後まで女子プロ野球選手としてやってこられたのは大きいことかなと思っています。ファンの方たちにも『最後まで残そうとしてくれてありがとう』という言葉もいただけた」

 最後のメンバーには、サンブレイズの初代監督に就任した岩谷美里(30)もいた。岩谷は女子プロ野球で世界初の三冠女王に輝き、ギネス世界記録にも認定されたスラッガー。そんな女子野球界のレジェンドと広島の地で再出発。すべての面で一からつくり上げてきた。西山はこう話す。

 「当初はグラウンドの黒土の部分が全部、苔だった。外野の芝生も私(西山の身長158cm)より高いぐらいの草が生えていたりした。チームづくりからグラウンドづくり、一から始めてとても大変でした。私よりも岩谷監督や会社の方が大変だったと思うんですけど、その方たちのおかげで、こうしていまみんなと楽しくプレーできている」

 緑豊かな山々に囲まれ、生まれ変わったグラウンド。現在サンブレイズに所属する16名の選手がひたむきにボールを追いかけている。その16名のひとりには、選手兼任として岩谷監督も登録されている。

 岩谷は監督兼選手として「自分でもどういうチームになっていくのかを見てみたいなというのもあって、自分の時間をつくるよりかは、(選手)ひとりひとりと向き合っていきたいというのがあった」と、選手としてよりも、新チームを指揮する責任感でいっぱいだった。

 さらに、西山と一緒にYouTubeで新球団のPR活動を行い、球場周辺に住む800世帯の市民と交流を深めていった。新たにグラウンドを整備するため、外野の芝敷きを共に行うイベントも開催した。

 岩谷監督は「何をするにも見に来てくれたり、お手伝いしてくれたりとか、YouTubeを通じてファンの方たちをつくるのもそうなんですけど、やっぱり身近で縁がつながれているのがすごくいいなと思っています。いろいろな活動を通じて認知が少しずつ広まってきているのかなと感じています」と、チームが地元に根づき始めたと実感している。

 それは、西山も同じだった。「一軒一軒、挨拶回りをして、そのときに『女の子の野球が来てくれて嬉しい。応援します』という言葉をいただけたので、本当に嬉しい。一日でも早く試合をしている姿を見せたい」と、市民の方たちとの触れ合いに自然と心を動かされた。



◆ 広島の“背番号1”に憧れ

 西山には「いつか広島に住んでみたい」という思いがあった。その理由は、2017年のWBCに22歳で出場した鈴木誠也の姿に憧れを抱いていたからだ。今年から米メジャーリーグのシカゴ・カブスでプレーする鈴木は、昨年までカープの4番として活躍。西山がカープファンになるのは必然だった。

 「広島の方は“野球熱”がすごいというイメージがあった。女子野球も応援してもらえたらいいな」と胸を躍らせた。

 カープ時代の鈴木と同じ背番号「1」を背負った西山に会いに、女子プロ野球時代からのファンも応援に駆けつけた。

 「小学校2年生ぐらいの子で、当時出会ったのがまだ幼稚園だった。イベントがきっかけで『小春ちゃんみたいになりたい』という思いで野球を始めてくれた。愛知から(広島へ)オープン戦を応援しに来てくれました」

 西山は「(鈴木のように)プレーで人を魅了させられる選手ってすごいなと思います。野球を職業としてやっていて、その上ファンの人を沸かせられるというのは、私の理想像」と語る。

 カープの背番号「1」は海を渡ったが、今度はサンブレイズの背番号「1」が、広島のファンに夢を与える存在となる。


◆ 指揮官も期待のリードオフマン

 20代前半の若い選手が多いサンブレイズの中で、西山自身に心境の変化が訪れた。それは女子プロ野球時代にはなかったものだ。

 「いい責任感を持てている。今までは(自分が)思い切ってプレーするだけで終わっていたんですけど、後輩がミスしたり、結果を出せなかったりしたときにカバーできるような選手にはなっていきたいなと思っています」

 チーム力を上げていかなければ、試合で勝ち続けることは難しい。岩谷監督は「中四国で一番強いという“看板”を背負わなければいけない。中四国の代表として、関東、関西の代表と戦ったときにいい試合をしたい」と、きっぱりと口にしている。

 強いチームには、頼りになるリードオフマンの存在が欠かせない。

 西山は「全部の大会で優勝するようなチームになりたい。相手チームから嫌なチームと言われるような、絶対強いチームと思われたい」と、高い目標を掲げる。

 そんな西山に対して、指揮官も「守備も良くて、足も速い。トップバッターとして、『1番』という責任を背負いながら、結果を残してくれている」と、高く評価する。チームの「1番・中堅」として、西山への期待は高まるばかりだ。

 サンブレイズを引っ張っていくのはもちろんだが、西山は個人として譲れない目標がある。それは近い将来、日本代表に選ばれて世界の舞台で活躍することだ。ワールドカップ6連覇中のマドンナジャパンに「絶対に入りたい」と、言葉に力を込める。

 球場を見守る山々よりも、もっと高い頂を目指して駆け上がる24歳。広島から世界最高峰の女子野球の舞台へ、彼女の果てしない挑戦は続いていく。


取材・文・写真=別府勉(べっぷ・つとむ)

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