『鬼滅の刃』で「毒」と「薬」が果たす重要な役割 胡蝶しのぶと鬼・珠世の数奇な共通点

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2022年05月21日 11:30  AERA dot.

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写真鬼の珠世(左から2番目)と胡蝶しのぶ(右)<画像はコミックス「鬼滅の刃」6巻、21巻のカバーより>
鬼の珠世(左から2番目)と胡蝶しのぶ(右)<画像はコミックス「鬼滅の刃」6巻、21巻のカバーより>
【※ネタバレ注意】以下の内容には、今後放映予定のアニメ、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。


 大ヒット作品『鬼滅の刃』は、そのタイトルのとおり、人間が「日輪刀」と呼ばれる刀を用いて、鬼たちと戦う物語だ。しかし、ストーリーが進む中、“鬼退治”のために開発された「毒と薬」が、勝敗を決するほどの大きな鍵になっていく。「『鬼滅の刃』と銘打ちながら、なぜ刃ではなく薬が、戦いの決定打になるのか」と一部のファンの間で物議をかもしたこともある。しかし、この物語において、「毒と薬」の開発は必然だった。「毒と薬」と鬼との関係をひもとき、開発者である2人の女性キャラクターの共通点、物語上に張られた“伏線”について考察する。


【写真】「上弦の鬼」のなかで最も悲しい過去を持つ鬼
*  *  *


■「毒と薬」と鬼との関係


『鬼滅の刃』は“鬼”という魔物と人間との戦いをテーマにしたバトル漫画である。しかしながら、日本古来の物語に数多く描かれてきた“鬼”を登場させながら、鬼滅には“独特の設定”がみられる。


 主人公である竈門炭治郎の妹・禰豆子が鬼になった理由について、第1話で水柱・冨岡義勇がこんな説明をしている場面がある。物語における「鬼」の設定がよくわかるセリフだ。


<簡単な話だ 傷口に鬼の血を浴びたから鬼になった 人喰い鬼はそうやって増える>(冨岡義勇/1巻・第1話「残酷」)


 さまざまな『鬼滅』の考察で、鬼と病の関係が話題にのぼることがあるが、鬼化の原因が「血液を媒介とする感染」をイメージさせることもその要因であろう。「遊郭編」で炭治郎たちが対峙した、「上弦の陸」との戦いにおいても、妓夫太郎の「血鎌」の毒が音柱・宇髄天元たちをむしばんだ。鬼の総領・鬼舞辻無惨の血液も毒として作用する場面があり、『鬼滅の刃』において、物語冒頭から結末まで、「毒」は重要なモティーフとして描かれていることがわかる。


■「毒と薬」は表裏一体


 そもそも、現実世界においても「毒と薬」は表裏一体の関係にある。ある生命体にとっては毒として作用するものが、他の何かには薬としての役割を果たす事例は数多くある。



 そして、鬼滅の世界に“鬼”が出現したのは、病弱だった鬼舞辻無惨を延命するための「治療」が原因だった。ある善良な医師が、「青い彼岸花」から薬を作り出したが、その薬が鬼舞辻無惨を鬼へと変貌させた。


 それ以降、無惨は人間の血肉しか欲せず、日光におびえるようになる。「鬼の始祖」の誕生だった。延命と治癒のための薬が「人間の鬼化」という毒となって作用した、悲劇の事例である。


■珠世によってもたらされた「薬」という希望


『鬼滅の刃』には鬼を滅殺するために「太陽の光か特別な刀で頸を切り落とさない限り殺せない」(1巻・第4話)という設定が語られている。この「特別な刀」こそが、太陽のパワーを刀身に秘めた「日輪刀」である。


 しかし、コミックス2巻で医師の鬼・珠世が登場した際に、“新しい方法”が示される。「鬼を人間に戻す薬」の概念だ。


<鬼を人に戻す方法は あります>(珠世/2巻・第15話「医師の見解」)


 この時、珠世は、医療行為によって「人間を鬼にする」方法をすでに確立していることを炭治郎に明かしている。鬼化の解明のために調べたデータを「逆に」活用することで、「鬼を人間に戻す」ことができるのはないか、と考えたのだ。珠世の言葉は、鬼を殺す方法以外に、世の中にはびこる「鬼の被害」を無くすための新しい希望となった。


■蟲柱・胡蝶しのぶがもたらした鬼を殺す「毒」


 珠世の出現によって、鬼を人間に戻す「希望」が見いだされたが、その一方で、鬼の滅殺のために毒を開発している人物がいた。蟲柱・胡蝶しのぶだ。


<私は柱の中で唯一鬼の頸が斬れない剣士ですが 鬼を殺せる毒を作ったちょっと凄い人なんですよ>(胡蝶しのぶ/5巻・第41話「胡蝶しのぶ」)


 しのぶの毒は、鬼の弱点である「藤の花」から生成される。薬学に精通しているというしのぶは、彼女なりに「鬼のいない世の中」を取り戻す方法を研究した。しのぶの両親と姉は、かつて鬼に殺害されており、ほかの鬼の被害者家族の悲嘆を目撃するたびに、心を痛めていた。悲しみが激しい怒りへと変わる。戦闘には不向きな小柄できゃしゃな体であるにもかかわらず、「毒」の使用という自分なりの闘い方を模索することで、鬼殺隊の「柱」にまでのぼりつめたのだった。



 しかし、しのぶは鬼への復讐を心に秘めながら、姉の遺言を契機に、鬼との共存方法も模索していた。


<でもそれが姉の想いだったなら私が継がなければ 哀れな鬼を斬らなくて済む方法があるなら 考え続けなければ>(胡蝶しのぶ/6巻・第50話「機能回復訓練・後編」)


 鬼への怒り、鬼への同情。「殺す」ことは解決になるのか。珠世としのぶが鬼殺隊にもたらした、「毒と薬」という対極の方法は、かわいそうな鬼・残虐な鬼に対する葛藤ともあいまって、複雑な思いをかき立てていく。


■なぜ開発者が女性2人だったのか


『鬼滅の刃』の物語において、「毒と薬」の開発者が、しのぶと珠世という、2人の女性の手に委ねられたのはなぜか。鬼を殺すための毒を作る人間・しのぶ。鬼を人間に戻すための薬を作る鬼・珠世。この2人の女性は一見すると対照的な存在であるが、共通点も多い。


 まず、彼女たちにはそれぞれに「宿敵とする鬼」が存在した。しのぶは実姉を殺した上弦の弍・童磨の滅殺を願い、珠世は自分に子殺し・夫殺しをさせた鬼舞辻無惨の消滅をもくろんでいた。


 さらに彼女たちは、単なる「開発者」ではなかった。彼女たちはもっとも過酷な戦闘の最前線に身を置いた。しのぶと珠世の強い信念は、“捨て身の方法”を彼女たちに選択させる。


<鬼を一体倒せば何十人 倒すのが上弦だったら何百人もの人を助けられる できるできないじゃない やらなきゃならないことがある>(胡蝶しのぶ/17巻・第143話「怒り」)


<そうだ自暴自棄になって大勢殺した その罪を償う為にも 私はお前とここで死ぬ!!>(珠世/16巻・第138話「急転」)


 無惨も童磨も彼女たちの非力さを侮るが、強い2体の鬼に決定打を打ち込んだのは、この美しく“か弱い”2人の女性だった。


■「薬と毒」が戦いに用いられる意味


 鬼の珠世と、鬼殺隊の胡蝶しのぶが開発した「毒と薬」は、最終決戦において大きな役割を果たした。「人間を喰ったことがない鬼」を人間に戻し、彼らに日常を取り戻させた。鬼の始祖・鬼舞辻無惨と、実力者の童磨との戦いでは、彼女たちが作った毒によって、鬼殺隊側を勝利へと導く契機が生まれる。



 だが同時に、「薬と毒」にいかなる劇的な科学的効果があったとしても、「人喰い」がもたらした悲劇を解決しきれないという“揺らぎ”も浮き彫りにする。


 罪は何をもって償いへと向かうのか。殺害された者の救済は何によって達成されるのか。『鬼滅の刃』が単純な勧善懲悪の物語ではなく、葛藤する人間の心の動きそのものを描き出した名作であるといわれるゆえんがここにある。


 これから続編が期待されるアニメ版『鬼滅の刃』において、何に対して彼女たちの「毒と薬」が使われるのか、注目して見てほしい。それはこの稀有な物語の楽しむひとつの鍵になるだろう。


◎植朗子(うえ・あきこ)
1977年生まれ。現在、神戸大学国際文化学研究推進センター研究員。専門は伝承文学、神話学、比較民俗学。著書に『「ドイツ伝説集」のコスモロジー ―配列・エレメント・モティーフ―』、共著に『「神話」を近現代に問う』、『はじまりが見える世界の神話』がある。AERAdot.の連載をまとめた「鬼滅夜話」(扶桑社)が好評発売中。


このニュースに関するつぶやき

  • 胡蝶しのぶが何故毒を…。それは『アサギマダラ』だからでしょ。
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