星野源『SPY×FAMILY』EDテーマ抜擢の背景に、無視できない「Netflixの破壊力」

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2022年05月21日 20:00  週刊女性PRIME

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TVアニメ『SPY×FAMILY』本予告、主題歌解禁(『TOHOanimationチャンネル』より)

『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』など、従来のファンの枠を超えて大ヒットするテレビアニメシリーズが増えている。

 2022年春の新作アニメシリーズで注目を集めるのは、2022年4月より放送されている『SPY×FAMILY(スパイファミリー)』(テレビ東京系列ほか)だ。

 原作は、『少年ジャンプ+』にて連載中の遠藤達哉によるアクションコメディ漫画。赤の他人だったスパイの男、殺し屋の女、超能力者の少女が「仮初めの家族」を築き、「家族としての日常」を送るために奮闘する、スパイアクションとホームドラマコメディを融合した異色作だ。

アニメタイアップは音楽ヒットのキーワードに

『SPY×FAMILY』は音楽でも注目を集めている。オープニング主題歌はOfficial髭男dism『ミックスナッツ』、エンディング主題歌には星野源『喜劇』を採用。しかも、両アーティストとも作品の世界観を熟知したうえで新曲を書き下ろしている。

 日曜の朝や夕方に放送されるいわゆるキッズアニメやファミリーアニメではなく、深夜アニメに大別されるテレビアニメシリーズは、昨今の音楽ヒットの震源地になっていると言えるだろう。

 以下は、ビルボードジャパンが発表した2021年の年間総合ランキング。年間トップ10のうち、深夜アニメ系の関連楽曲が3曲ランクインしている(4位のLiSAは劇場版)。10位以下に目を向けると、13位にテレビアニメ『東京リベンジャーズ』オープニングテーマのOfficial髭男dism『Cry Baby』、16位にはテレビアニメ『鬼滅の刃』オープニングテーマのLiSA『紅蓮華』がつけていることがわかる。

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■Billboard JAPAN HOT 100 of the Year 2021(総合ソング・チャート)
1位『ドライフラワー』優里
2位『Dynamite』BTS
3位『夜に駆ける』YOASOBI
4位『炎』LiSA
 ※アニメーション映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』主題歌
5位『怪物』YOASOBI
 ※テレビアニメ『BEASTARS』第2期オープニングテーマ
6位『Butter』BTS
7位『うっせぇわ』Ado
8位『群青』YOASOBI
9位『虹』菅田将暉
 ※アニメーション映画『STAND BY ME ドラえもん 2』主題歌
10位『廻廻奇譚』Eve
 ※テレビアニメ『呪術廻戦』第1クールオープニング主題歌
11位『勿忘』Awesome City Club
12位『Step and a step』NiziU
13位『Cry Baby』Official髭男dism
 ※テレビアニメ『東京リベンジャーズ』第1期オープニングテーマ
14位『猫』DISH//
15位『Permission to Dance』BTS
16位『紅蓮華』LiSA
 ※テレビアニメ『鬼滅の刃 竈門炭治郎 立志編』オープニングテーマ
17位『Stand by me, Stand by you.』平井大
18位『踊』Ado
19位『きらり』藤井風
20位『Pretender』Official髭男dism
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 これまで深夜アニメ系の主題歌やエンディングテーマといえば、アニメソングを多く担当する歌手や、新人歌手が担当することが多かった印象がある。例えば、年間ランキングで10位に入ったEveは、ニコニコ動画の歌い手として活動をスタートし、2019年にメジャーデビュー。メジャーデビューから4曲目のデジタルシングル『廻廻奇譚』が初の大ヒット作となった。

世界の視聴者に楽曲を覚えてもらうチャンス

 そのような状況で、『SPY×FAMILY』のエンディング主題歌に選ばれたのは、日本を代表するアーティストの1人ともいえる星野源であった。過去には、映画『ドラえもん のび太の宝島』の主題歌などを担当した経歴を持つが、いわゆる深夜アニメ系への楽曲提供は初挑戦だ。

 近年、星野源が発表したタイアップソングをみると、NTTドコモのCMソング、NHK連続テレビ小説『半分、青い』の主題歌、TBS系ドラマ『着飾る恋には理由があって』の主題歌、映画『CUBE 一度入ったら、最後』の主題歌、UCC上島珈琲のCMソングと、いずれも深夜アニメよりも多くの人に目が触れる可能性があるものばかり。この背景について、音楽業界関係者は次のように語る。

「深夜アニメの主題歌やエンディングテーマは、日本でのヒットが見込めるようになっているのはもちろんですが、世界にアピールできる場としても注目が集まっているんです」

 深夜アニメのビジネスモデルは、かつては放送後にDVDやBlu-rayを発売して制作費を回収するのが一般的であった。しかし、動画配信サービスの普及で状況は一変。視聴数に応じた収入を得ながら、海外を含むテレビ放送のないエリアに住む人に作品を届けられるようになった。

 そこで、放送終了を待たずに、テレビ放送とほぼ同じタイミングで最新話を配信するアニメ作品が増えている。なかでも、『Netflix』など海外のファンに直接届く配信サービスとタッグを組む作品が多い。

 もともと日本のアニメは海外でもファンが多いが、動画配信サービスの登場で日本アニメは人気ジャンルとしての地位をさらに確固たるものにしつつあるのだ。

『SPY×FAMILY』も、テレビ東京系での放送が終わった直後にNetflixなどで配信。コミックが人気を得ているもののアニメとしては新作である同作が、Netflixの視聴ランキングでは、香港、マレーシア、インドネシア、フィリピン、台湾、ベトナムなどでトップ10入りを果たしているのだ。

 一方、昨今の日本の音楽シーンは、世界的にみるとK-POPとの差をつけられている印象がある。世界進出に挑むアーティストも多いが、なかなかハードルは高いのが現状と言えよう。そんななか、深夜アニメの主題歌やエンディングテーマを担当するということは、世界各国の視聴者に楽曲を覚えてもらう絶好な機会になるというわけだ。

 実際に、深夜アニメ系ソングは海外の人々に届いているというデータもある。以下は、ビルボードジャパンが発表した「2021年に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲」。先に挙げた、日本での年間ランキングとは趣ががらりと変わる。

 1位に輝いたのは、日本での年間ランキングで10位だったEveで、これにLiSAが続く。4位のTK from 凛として時雨『unravel』は、2014年に放送されたアニメ『東京喰種トーキョーグール』第1期のオープニングテーマ、5位のLinked Horizon『心臓を捧げよ!』は、2017年に放送されたアニメ『進撃の巨人』第2期のオープニングテーマだ。このように、TOP10の中で8曲はテレビアニメのタイアップである。

 ちなみに、『unravel』は2021年にはSpotifyが発表した『過去5年間に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲』ランキングにて、1位を獲得している。世界的にみて、日本を代表するヒット曲になっているのだ。

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「2021年に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲」
1位『廻廻奇譚』Eve
 ※テレビアニメ『呪術廻戦』第1クールオープニング主題歌
2位『紅蓮華』LiSA
 ※テレビアニメ『鬼滅の刃 竈門炭治郎 立志編』オープニングテーマ
3位『夜に駆ける』YOASOBI
4位『unravel』TK from 凛として時雨
 ※テレビアニメ『東京喰種トーキョーグール』第1期オープニングテーマ
5位『心臓を捧げよ!』Linked Horizon
 ※テレビアニメ『進撃の巨人』第2期オープニングテーマ
6位『Tokyo Drift (Fast & Furious) – From “The Fast And The Furious: Tokyo Drift” Soundtrack』Teriyaki Boyz
7位『Black Catcher』ビッケブランカ
 ※テレビアニメ『ブラッククローバー』第10クールオープニングテーマ
8位『シルエット』KANA-BOON
 ※テレビアニメ『NARUTO -ナルト- 疾風伝』第16クールオープニングテーマ
9位『ブルーバード』いきものがかり
 ※テレビアニメ『NARUTO -ナルト- 疾風伝』第3クールオープニングテーマ
10位『怪物』YOASOBI
 ※テレビアニメ『BEASTARS』第2期オープニングテーマ
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世界進出を狙えるアニメタイアップ争奪戦に?

 星野源は、2019年に上海、ニューヨーク、台北をめぐる海外ツアーを開催するなど、世界進出へ積極的な人物でもある。

 5月19日には、『喜劇』のミュージックビデオがYouTubeにて再生回数500万回を突破しており、その報告をTwitterで日本語・英語・中国語で投稿している。また、同曲のコメント欄を見ると日本語以外の投稿がずらり。確実に、日本以外のリスナーに届いていることがわかる。

 世界的人気を誇るアニメという場をきっかけに、音楽系アーティストが世界進出を図るーー。ある意味、日本の音楽業界にとって正攻法ともいえる戦略だろう。

 深夜アニメ系のタイアップは、今後、大物ミュージシャンを交えての争奪戦になっていきそうだ。

(取材・文/千歳康一)

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