【名医対談 上皇さま執刀医×肺がん手術数20年第1位】 トップ病院の取り組みと最新治療

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2022年05月22日 09:00  AERA dot.

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写真「いい病院」ムック創刊20年記念セミナーの第1部を要約してお届けします
「いい病院」ムック創刊20年記念セミナーの第1部を要約してお届けします
 大切な人や自分が大きな病にかかったとき、限られた時間で膨大な情報の中から、適切な治療法やいい病院を見つけ出すのは大変なことです。だからこそ、もしもに備えて知っておきたいことがたくさんあります。週刊朝日MOOK「手術数でわかる いい病院」の創刊20年を記念して4月24日に開催したオンラインセミナーでは、著名な4人の医師が登壇。第1部では「名医対談“トップ病院”の取り組みと最新治療」と題して順天堂大学順天堂医院 心臓血管外科特任教授の天野篤医師と国立がん研究センター中央病院 呼吸器外科長の渡辺俊一医師が対談しました。その内容を前編後編の2回に分けてお届けします。


*  *  *


 上皇さまの執刀医として知られ、心臓手術の分野で約20年にわたり順天堂大学順天堂医院の心臓血管外科を率いてきた天野篤医師と、本誌手術数ランキングで肺がん手術数20年連続1位の国立がん研究センター中央病院で呼吸器外科長を務める渡辺俊一医師。二人が対談するのは今回が初めてです。この20年間で取り組んできたことから最新治療まで、ここでしか聞けないお話をうかがいます。(以下、敬称略)


■医師の知識不足は許されない。2人が手本とする、ある医師の教え


天野:今日はお会いできるのを楽しみにしていました。実は私の患者さんには、渡辺先生に肺がんの手術をしてもらった方がいて、よく先生の話をうかがっています。


渡辺:私も患者さんから先生の話を伺っていたので、お会いできるのを楽しみにしておりました。本日はどうぞ、よろしくお願いします。


天野:私は渡辺先生のご出身である金沢大学附属病院の元病院長で、現・名誉教授の河崎一夫先生をたいへん敬愛しております。個人的にも2度お目にかかったことがあるのですが、私が順天堂大学の教授になる直前に、朝日新聞に掲載された河崎先生の寄稿「私の視点・医学生へ 医学を選んだ君に問う」(2002年4月16日付・朝刊)を読んで、非常に感銘を受けました。記事を読んで自分の診療の見直しを迫られたというか、見直しをしなければならない動機づけとなりました。


渡辺:私の大学時代、河崎先生は眼科の教授をされていまして、恩師でもあります。実は私もちょうど国立がん研究センターに赴任した時期にこの記事に出合いまして、天野先生と同じように感銘を受けたのです。以後、研修医にはこの記事をコピーして渡すようになりました。記事は医学生に向けたものですが、当然、医師にも通じるもので、私にとっても指針となっています。




天野:「よく学び、よく遊べ」という言葉がありますが、それは許されない。医学生は「よく学び、よく学び、しかない」という記事のくだりは「ずしん」と心に重く、響きました。


渡辺:「医師は一生勉強」という教えですよね。研修医にもよく話すのですが、患者さんはもちろん、その後ろにはその方を大切に思うご家族の存在があるわけです。しっかりと勉強をした上で、自信を持って治療をしなければならないという河崎先生の教えはごもっともだと思います。


天野:この記事はインターネットが普及していなかった頃のものですので、「医師の知識不足は許されない」という言葉も非常に重いですね。患者さんに治療法などを含め、あらゆる可能性について説明することの大切さを、私は河崎先生から教わったと思っています。


■より低侵襲な手術へ。この20年で手術の技術、安全性が大きく進歩


渡辺:ところで、「手術数でわかる いい病院」(朝日新聞出版)が創刊から今年で20年ということですが、医療の現場でこの20年、大きく変わったことはありますか?


天野:いろいろありますが、一番の変化は「医療安全」の考え方が普及したことです。ハイリスクの患者さんがトラブルなく、元気に健康になっていただくために費用をかけるべきだという考え方に変わりました。また、2005年あたりからはコンピューターの発達とともに、「EBM(エビデンス・ベースド・メディシン、科学的根拠に基づく医療)」が登場し、偏りのない情報共有が可能になりました。この現実をかみしめながら、エビデンスが薄い新しい医療も模索しなければならないという点で、けっこう難しい20年だった気がしています。


渡辺:天野先生はこの間に、「オフポンプ手術(人工心肺装置を使わず、心臓を動かしたままおこなう手術)」を始められていますね。


天野:はい。心臓を止めてバイパスを作る従来の手術(オンポンプ手術)は治療成績としては安定していました。それをあえて技術的にリスクを負う可能性のあるオフポンプ手術に変えたわけです。このため、リスクを克服すれば患者さんは従来の手術に比べ、多くの恩恵をうけられることを示す必要がありました。80歳以上の高齢の患者さんや腎機能が低下している患者さんに対して少しずつ実施し、実績を積み上げてきましたが、振り返るとやはり、なかなか重い20年でしたね。




渡辺:肺がん手術においてはさまざまな手術器具が発達し、手術の傷がどんどん小さくなっていきました。私が赴任する前は40センチくらいだった傷が今は5センチと、8分の1くらいまでになり、筋肉も骨も切らない方法が実現しています。


手術はからだの負担が少ないだけでなく、根治性を保つことが重要


天野:からだへの負担が少ない手術は「鏡視下手術(内視鏡を腹や胸の中に入れ、モニターを見ながらおこなう)」から今は「ダヴィンチ(ロボット支援手術)」に移行してきていますね。


渡辺:はい。ただ、傷が小さい「低侵襲」というだけではなく、がんを完全に取り除く「根治性」も保たれなければいけません。当科ではこの根治性を維持しながらどこまで傷を小さくできるかということにこの20〜30年の間、取り組んできました。


 開業医の先生から紹介された多くの患者さんに、傷が小さいうえに、がんはしっかり治っている、ということを知ってもらった結果、さらに多くの方をご紹介いただけるようになりました。これが、手術数でトップを走り続けることができている理由だと思っています。天野先生はトップレベルを維持するために大切にしていることはありますか?


天野:今は20年前と違ってインターネットが普及していますので、患者さんは日本のどこに住んでいても、日本のトップではなく、世界のトップエンド(最高級)の診療レベルを求めます。


 それに対してどうこたえていくか、チームとしてどう患者さんの要望を受け止めたらいいかは大きな問題で、さきほど渡辺先生がおっしゃいました低侵襲や入院の日数が少なくすむこと、治療の予後をよくするなど、患者さんに提供できるよりよい医療をみつけること。さらに現在はいろいろな臓器に問題があるハイリスクの患者さんには、ある部分にフォーカスした医療、超低侵襲などの医療で患者さんの日常生活を作り上げるようになってきています。


■「人の命は地球より重い」という言葉を常に自分の姿勢とする 


渡辺:大きい病院では似た病状の患者さんが毎日のように、たくさん受診されますので、手術に関しても、言葉はよくないですが、流れ作業的に対応をしてしまうことがあると思います。


 しかし、患者さん一人ひとりにとっては、一生に一回受けるかどうかの手術だということを忘れてはいけません。このため、若い医師には、「常に、真摯に患者さんの訴えに耳を傾けて診療をするように」と話しています。このように大きな病院にはメリットとデメリットがあると思いますが、天野先生はどうお考えですか?




天野:流れ作業的になりがちなのはご指摘の通りです。私も病院長の経験があるのでわかりますが、病院経営や運営を考えれば、無駄がないに越したことはありません。また、病気によってはある意味定型的で効率的な対応のほうが、患者さんが早く日常生活に戻れる、というよさもあるでしょう。一方、がんなどの病気は手術をしたから終わりというわけではありませんので、同じ対応にはできないと思います。ですからこの点をいかに患者教育として、チームの課題として持ち続けることが大事だと考えています。


 私は「人の生命は地球より重い」という言葉を常に自分の姿勢としています。これは1977年、ダッカでのハイジャック事件で乗客を救う時に使われた福田赳夫首相(当時)の言葉ですが、同じように患者さんの命を救うためには、ときには一人の患者さんにコストをかけて対処しなければならないこともあると思うのです。


>>>後編に続く


(構成・狩生聖子)


※週刊朝日MOOK「手術数でわかる いい病院」創刊20年記念セミナー「医師が本音でトーク“いい治療”は病院選びで決まる!」の第1部を要約



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