Engadget日本版はなぜ終わったのか、最後の編集長・矢崎飛鳥氏に聞く(第2回) 終わりは突然やってきた

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2022年05月23日 11:32  ITmedia NEWS

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写真Boundlessによる終了のお知らせ
Boundlessによる終了のお知らせ

 Engadget日本版とTechCrunch Japanはなぜ閉じることになったのか。Engadget日本版最後の編集長だった、矢崎飛鳥氏との対談の2回目をお送りする。長年の友人同士の対談なので、多少言葉づかいが荒いところがある点は、ご容赦いただきたい。



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 本記事はもともと、筆者(西田)と小寺信良氏が共同運営するメールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」および、そのnoteマガジン版「小寺・西田のコラムビュッフェ」に、4月4日の週から5月9日の週にかけて掲載されたもので、本記事はその短縮版の2回目となる。



・Engadget日本版はなぜ終わったのか、最後の編集長・矢崎飛鳥氏に聞く(第1回) 「矢崎Engadget」はいかにして生まれたのか



・Engadget日本版はなぜ終わったのか、最後の編集長・矢崎飛鳥氏に聞く(第2回) 終わりは突然やってきた



・Engadget日本版はなぜ終わったのか、最後の編集長・矢崎飛鳥氏に聞く(第3回) 編集スタッフの「次のフェーズ」はどうなるのか



 2回目はついに、Engadget日本版が終了することになった日の話から、どのような経緯で「終了」という流れに至ったかが語られる。



●Engadget日本版、終了告知の裏側



西田 そろそろ核心に入っていこうと思うんですけど。



 なぜ、いきなりEngadgetの日本版が終わることになったのか。



矢崎 2月の15日(サイトクローズ発表の日)に、大本営(Boundless、米Yahoo!本社)から発表があったじゃないですか。その発表を私達が知ったのは、同じ日なんです。



 その15日の午前中に言われたんですよ。



 本当に楽観的だった――というか、想像してなかったんですね。



 前日の深夜ぐらい、夜遅い時間に社長から、Engadget、TechCrunchの編集者全員に、翌日の朝、午前中に1on1のコールが入ったんです。



 私は編集長なので、たまにそういう緊急の連絡は入るんですけど、スタッフの人にそういうコールが社長から直接入る、ということはないのでね。しかも夜に。



西田 そうでしょうね。



矢崎 ちょうどタイミング的に、人事査定の時期だったので、なにかサーベイ(調査)か何かかな、と思って。



 みんなからメッセが来て、「なんなんですか、急に社長からコールが入ったんですけど」というから、「サーベイか何かじゃない?」とか、すごく呑気なことを返して。



西田 ははは。



矢崎 そんな感じで返してたら、翌朝。



 私がいちばん最初だったんだけれども、「日本に関しては、メディア事業を閉じます」と。



 ライセンスは――これは後で詳しく話したほうがいいと思うんですけど、「ライセンス譲渡はありません」。「メディアのスタッフ全員、ポジションクローズです」という話があって。



 で、「これは14時に発表されるけども、それまでは社内、社外、極秘です」という話になって。



 「社内で極秘」と言われちゃったらもう手も足も出ないから、とりあえず全員の1 on 1が終わるまで待ってたんですよ。



 すると、私のあと、みんなのミーティングが終わるたびに、メッセで「!」が届くの。



西田 はははは。言えないから「!」なんだ。



矢崎 その「!」がメッセ上に6つ揃ったところで、「さあ、どうしようか!」というオンラインミーティングをしたの。



 これが、もう発表の1時間前ぐらい。



西田 13時ぐらいか。



矢崎 で、14時に発表されて。



 業界内では騒ぎになると思ってたんだけど、想像を絶する騒ぎになりましたね。



 電話は鳴りやまない、連絡は止まらない……お誘いはばんばん来る、みたいな(苦笑)。



西田 お誘いが来るのはね、ある意味ありがたいことなんだけれども。



矢崎 そうなんですけど。



西田 やっぱりそれだけメディアとしての信頼度というのもあるし、影響力というのもあるだろうけど、「潰れるメディアじゃない」と思われてた、ってことですよね。



矢崎 実際、むしろ調子良かったので。



 アフィリエイトの売上も、ブーストをかけたら広告収入を上回るぐらいで、メディアだけやってるぶんには十分黒字。



 ついでに言うならば、Engadget日本版って、USとほぼ同じ規模なのね。PVレベルが。



西田 すごいですねえ。



矢崎 USは英語圏全体で読まれてるわけだから、相当なことでしょ。



 中国語版もあるんだけど、中国語版は日本版よりも規模が全然小さい。だから、日本版のパフォーマンスとしてはUS版と並ぶぐらい多かった。



 だからまさか畳むとは、中にいる人も誰も考えていなかった。



西田 それは確かに。



●売却と社名変更が続いて麻痺した部分も



西田 「メディアが厳しい」ってよく言われるじゃないですか。でも、潰れる・厳しい、と言われるメディアは、たいてい周囲にいる人間には「ここは厳しいな」って分かってる。



矢崎 そうです。だからわれわれも、周りから見ても、中の人から見ても、誰から見ても唐突だったから大きなニュースになった。



 普通はね、なんとなく記事が減っていって、存在を忘れられて、「やめます!」と言ったら「あ、まだあったんだ?」みたくなるじゃないですか(苦笑)。



西田 そうですね。



矢崎 もう記事の数もマックス――。3月はね、クロージング発表以降はちょっと減っちゃいましたけど、発表前までは年々マックスで、一カ月に600……700記事ぐらい出てたのかな。もっと出てたのかな。もうものすごい数出してて。



 とにかくイケイケでやってて、急な終幕だった。



 私は2017年の1月に編集長を引き継ぐ前、前編集長の鷹木さんに、「今ものすごい投資フェーズにあるから、やりたいようにやれるよ!」と言われて。



 ただ、当時の運営元は「AOLプラットフォームズ」だったんだけれども、いろいろ、他の媒体と違うじゃないですか。



 GIZMODOもEngadgetもBuzzfeedも、一般の人から見たら「海外系メディア」で、違いが分からないかもしれないけれど、全部違うじゃない?



 GIZMODOはもう完全に日本のもので、運営元は国内企業のメディアジーン。日本のBuzzFeedは、BuzzFeed本社と朝日新聞、朝日放送グループホールディングス、バリューコマースの合弁(5月16日発表)。



西田 ブランドとして確かに借りてはいるけれど、メディア運営体制……どこからお金が出ていて、どう人が動いてて、誰が決断するか、という部分だと、例えばGIZMODOは完全に日本で決断されてる。



矢崎 そうなんです。



 Engadgetは本当にUSと同じシステムと建付け、同じ親会社の中でやってたから、親会社が「やめる」と言う可能性はあるよ、と。



 現に、フランス語版、ドイツ語版とクロージングしてきた経緯があるから、「その危険性だけはあるよね」ということは言われてた。



西田 うんうん。



矢崎 外資だから、良い部分もたくさんある。



 良い部分というのは、給与水準が高いこと。それに、本家と連携してること。各国のオフィスも使えるし、編集部も1つの情報を共有できるし、ドメインもすごく強かった。



 マイナス面として、カスタマイズがうまくいかなかったりとか、社内システムが全部英語だったりとか、サイトの改修がインド経由だったりとか、ちょっと面倒くさいところもいっぱいある。でも、そのくらい。



 いろいろな面を鑑みても、「(急にサービスを停められる)そういった危険性はあるよ」ぐらいに言われてて。



西田 はいはい。



矢崎 そして、親会社がすごく変わったんですよ、この5年間に。



 「AOLプラットフォームズ」から「Oath」になって、「Oath」から「ベライゾンメディア」になって、「ベライゾンメディア」から「Boundless(バウンドレス)」になって。



 で、このBoundlessというのは、Yahoo!なんですよね。



 Yahoo! JapanがYahoo!から、ベライゾンメディアからYahoo!の商標利用権を買い取ったじゃないですか。永久に。もうライセンス料は払わない。



西田 ええ。



矢崎 そのタイミングで、うちの親会社はYahoo!という名前に戻ったんだけれども、日本では「Yahoo!のヤの字も言ってくれるな」ということになって、日本だけ「Boundless」という不思議な社名になって。



 ここが運命の分かれ道だったんです。



 「Boundless」になってApollo Managementという投資会社が、新しいYahoo!の事業部と利益率を見直した時に、「日本のメディアは必要ない」と判断しちゃったんですよね。



 それはもう利益が出てる、出てないじゃなくて、規模の問題ですよね。



 鷹木さんに最初に「そういう(いきなりメディアがなくなる)危険性はあるよ」と言われたのに、親会社がころころ変わるたびにのらりくらりと続いてきたから……。



 危機感って麻痺するじゃないですか。



西田 麻痺しますね、確かに。



矢崎 だから、今回も別に、続くんだろうとも思わず、普通に。



西田 また社名変わった、と。



矢崎 また社名が変わった、ぐらいにしか考えてなくて。



西田 編集部としての体制を変えてください、と、社名が変わった時とか経営体制が変わった時に言われてるんだったらともかく……。



矢崎 普通は、予算から減らしてくじゃないですか。利益率を上げろ、と言われるとか。



 何にもなくて、いきなりカット、というのがね。



 で、1 on 1で社長から「クローズします」と言われた5分後にはもう退職のメールが来た。



●スタッフは今後どうなるのか



矢崎 まあ、私自身はね、会社にそもそも長くいるつもりはなかったんですけど。



 編集長候補をね、またどこかから連れてくるんじゃなくて、後輩にバトンタッチしたかったんですよ。



 誰だかは分からないですけど。



西田 Engadgetの伝統というとアレだけど、中身というのをきちんと分かってて、育ててくれそうな後輩に引き継ぎたかったと。



矢崎 そうですね。



 まあ、こういうことがあって、みんながすごく心配してくれてて、それはすごく嬉しいんです。



 でも、……なんていうか……「どうしよう」と落ち込んでるかというと、けっこうね、この稀有な体験をみんな楽しんでる感じ。



西田 ああ、そうなんだ。



 それは、逆に楽しめるぐらい、次の可能性、自分たちのキャリアの次の可能性があるって感じてるから楽しいと思えるのか。



 それとも、そもそもある種「笑っちゃってる」状態なのか。



矢崎 それはね、両方あって(笑)。



西田 両方かあー。



矢崎 両方あって。



 私自身も西田さんにお話ししましたけど、私自身も、あらゆる可能性を探りたくて。



 新しい後継媒体をやる、という話についても「支援したいです」と言ってくださってる方がけっこういらっしゃる。だからその可能性もある。



 ただ同時に、各自がどこかの既存のメディアに入って活躍する、という機会もまたあると思う。



 私はもうほとんどの媒体の知り合いに、編集部全員のリストを送ってるんですよ。



 日経さんもアスキーもITmediaもImpressも、ほとんどの媒体に。人手が足りてないと聞くし、「もしいい機会があったらお願いします」って。お節介なぐらいまでに、みんなの次のキャリアに対して世話を焼いてやっている感じ。



 まあ、けっこうね、みんなこの状況を楽しみながらやっています。



ただ、唯一、Ittousaiだけは温度感が違いますね。



西田 そうか。自分が作ってきたものの看板が外れるわけだから。



矢崎 それと、彼は、この17年間のすべてがEngadgetしかないんですよ。他で一切書いてないし(注:Ittousai本人によれば、「そっと別名で他に書いて、バレてないものもある」そうだが)、すべてがここにしかないから、すべてを奪われることになるわけですね。



 17年間。記事のアーカイブは残らないから、今回。これもね、またちょっと物議をかもしていますけど。



●媒体売却・ログ引き継ぎは実現しなかった



西田 そこをちょっと確認しておきましょう。



 2つポイントがあって。



 まず、編集部をそのまま後継する、他のところに移行する、という話は、もちろんそういうお声がけはあったと。



矢崎 めちゃくちゃありました。



西田 でも、これはできなかった。



矢崎 できない。



 私がまずその権利を持っていないんです。雇われ編集長なのでね。



 とはいえ、私のところに問い合わせは来るじゃないですか。コーポレートに直接問い合わせがあったものも含めると、Engadget/TechCrunch合わせて、20以上あるんですよ。



 これだけ問い合わせがある、ということは、(本社は)売ろうとしてない、ということじゃないですか。売ろうとしたらここまで問い合わせがあるわけないから。



西田 問い合わせがあって、売却の可能性があるんだったら、動いていますよね。



矢崎 動いている。



西田 問い合わせがあるけど動かなかったわけでしょ。



矢崎 動いてないし、問い合わせには社長から既に返信があって。



 その文言は私も見ましたけれども、「これこれこういう事情で、譲渡・売却は考えていません」って、一括でお断りしたんです。



 普通はね、この規模のサイトをね、常識的には売らないでクローズする、というのはありえないんですよ。



 一からこれをやろうとしたらものすごい大変だし、「喉から手が出るほど欲しい」と言うところがたくさんあって。



 Engadget以上に、TechCrunchに関してはそうで。日本のスタートアップの歴史みたいなものが詰まっているメディアで、他にはないんですよ。



西田 TechCrunch Japanに取り上げられる、というのが、日本のスタートアップにとってすごく特別な意味を持っていたから。



矢崎 もう、なんとかして残さなければいけない! というムーブメントみたいなのが起こっていて、支援者を募って、クラウドファンディングみたいなのが立ち上がる、みたいな話も聞いています。



 両媒体とも、なんとかして継続させたい、という強い思いを受け止めていて……本当に嬉しかったのと同時に、申し訳ない。



 もし、本当に買うんだったら、これはもう米Yahoo!のメディア事業ごとドルで買う、という話になりますよね。



西田 なるほどね。USのメディア事業を、Engadgetごと全部買え、という。



矢崎 切り売りはたぶんそもそも考えてない。そのリソースも割かない。



 なかなか……常識的にはちょっと考えられないんだけれども、この規模のサイトを売らずに畳む、というのは、すごいなと思いましたね。



西田 そこで売らないことに何のメリットがあるのか。



矢崎 これはもう単純に、交渉やライセンスのリソースを社内で割けない、ということ。過去にもクローズした国もあるけれど、同じやり方だった。



 交渉する人はUSにいない、ということなんじゃないですかね。



西田 なるほどね。



 継続媒体がない、というのもあるけれど、アーカイブが残らない、というのがやっぱり、ちょっとね。



矢崎 そうなんですよ……。アーカイブだって、残しておくだけで、やらしい話、お金がちゃりちゃり入るんですよ。それすらしない、というのは、お金の問題じゃない! という考えですよね。



西田 あと、すごく細かい話ですけど。いわゆるブロガー契約、というのを我々しますよね。執筆に際して。



矢崎 ええ。



西田 あの時に、著作権譲渡の条項ってありましたっけ。



注:日本の著作権法では、著作者人格権は法律上譲渡できない権利とされている。そのため、正確には記事の利用権などについての条項の話と解釈していただきたい



矢崎 一応、契約書を交わしているライターさんに関しては、権利が米Yahoo!にある、という条項があるんですよね。で、米Yahoo!が著作権を放棄しない限りは、仮に(米Yahooの日本法人である)Boundlessが倒産しても関係ない。



西田 いやあ、これは本当に申し訳ないことなんだけど、僕が契約書を交わす時に、他のところは、著作権譲渡の条項があったら全部蹴ってるんですよ。たぶん、僕も信頼してそこを見なかったんだろうな、今回。



 Engadgetの時には。記憶が実はなくて。



矢崎 いろいろ調べたライターさんもいて、聞いたんだけれども、やっぱり、権利があくまでライターさんと米Yahoo! Inc.の間で結ばれてる、という状態になってて……。



 記事も、ネットから削除してるわけじゃないんですよ。



 リダイレクトしてるだけで、アクセスできなくなってるだけ。存在はしてるんですよ、見えないだけで。



 でも直打ちでも見られないし、検索にもかからない。



西田 そうか……。そこはどうしようもないですね。



(西田宗千佳)


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