◆ 白球つれづれ2022〜第21回・二刀流再挑戦を決断した根尾の現在地
無限の可能性なのか? 首脳陣の窮余の一策なのか?
中日・根尾昂選手の二刀流が話題を呼んでいる。
21日の広島戦。1対10と敗色濃厚の8回に「投手・根尾」が実現した。打者4人に対して被安打1を許すも、後続を無難に打ち取ってマウンドを降りた。最速は150キロ。何より、敵地のマツダスタジアムのどよめきが、二刀流選手誕生の関心度を物語っている。
中日では、野手登録の選手が登板するのは実に60年ぶり。まして、根尾の場合は大阪桐蔭高時代に甲子園で二刀流選手として活躍、通算7試合に登板して5勝無敗、防御率1.93の好成績を収めて胴上げ投手にもなっている。それでもプロ入団時には、野手専念を誓い遊撃のレギュラー取りに的を絞ったかに見えた。
大きな転機は今春の沖縄キャンプだ。今季から誕生した立浪和義監督は就任当初、根尾に外野手での固定を伝えたが、その実、北谷キャンプでは投手としてブルペンにも入らせている。あらゆる可能性を探るためだった。
石川昂弥、岡林勇希らの野手と揃ってのテスト登板だったが、落合英二投手コーチが根尾に投手の資質を見出す。
「彼らの中で一番ボールを長く持てる。野手の投げ方ではなく、根尾には投手のような下半身の使い方が出来る。球持ちと“間”がある」。
“二刀流プロジェクト”はひそかに進行し、今月8日のウェスタンリーグ・阪神戦での試験登板を経て、日の目を見た。
無難な二刀流デビューを果たしたかに見える根尾に対してはネット上でも様々な意見が寄せられている。
ある者は「今後に楽しみが増えた」と賛同する一方で、「単なるネタ作り」「どう育てたいのか、よくわからない」と言った懐疑派の声もある。
敗戦処理の起用法には立浪監督も「中継ぎ陣の疲労を考慮した時、あと一人が足りなかった」と舞台裏を明かしている。要は野手として、投手として、まだ首脳陣に全幅の信頼を得られていない根尾の現在地が表れている。
◆ 結果がすべての社会では数字を残さなければ、取り残される
プロ4年目。野手として17試合出場、打率.188、本塁打0に4打点。投手として1試合登板、失点0の防御率0.00が根尾の23日現在の今季成績である。
遊撃を追われる形になった最大のライバル・京田陽太選手が成績不振で二軍降格になってもその座を奪えないでいる。内外野のユーティリティープレーヤーと言えば聞こえはいいが、控え選手としての「便利屋」に甘んじている。何かに活路を見出したい。
二刀流と言えば元祖・大谷翔平選手(エンゼルス)を思い浮かべる。根尾の場合も甲子園のスターでドラフト1位入団と共通項があるため、比較されやすいが現時点で、その開きはあまりに大きい。
ちなみに大谷はプロ1年目から二刀流を実現させて、3年目の2015年には15勝5敗の圧倒的な成績で最多勝、防御率、勝率の投手三冠に輝き、翌16年には打者として打率3割越えと22本塁打をマークして、メジャーへの道を切り開いた。これに対して根尾の場合はようやく一軍切符を掴みかけている段階、体のサイズもパワーもけた違いの大谷と比べるのは気の毒だが、まずは二刀流を目指すなら、少しでも近づける努力を続けるしかない。
人一倍の練習量は誰もが認める。だが、一方で打撃に関しては「指導者の声にもっと耳を傾けるべき」と指揮官から苦言を呈されることもあった。プライドや頑固さはプロで生き抜くうえでマイナスばかりではない。しかし、結果がすべての社会では数字を残さなければ、取り残される。
投手としても150キロの速球は魅力だが、ストレートとスライダーだけの球種の少なさでは、狙い球を絞られて痛打される。投打のすべてにもうワンランク上の技量が必要不可欠だ。
球団にとっても根尾は数少ないスター候補生である。本格的な二刀流が誕生すれば観客動員を含めた営業面にも波及効果は計り知れない。
現状は投打どっちつかずの「何でも屋」だが、それも結構。二刀流をやれるポテンシャルの高い選手はそうそういない。まずは経験を積んで、自信をつければ大きな転機はやって来る。
「いろいろ言われるけれど、何とか根尾を生かす道を探していかないと」と立浪監督は言う。
一度はあきらめた二刀流の道への再挑戦。もう根尾に後戻りは許されない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)