ウクライナ停戦への道 自民・石破元幹事長「このままでは独ソ戦の再現に…」

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2022年05月25日 06:00  AERA dot.

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写真石破茂元自民党幹事長
石破茂元自民党幹事長
 泥沼化しつつあるロシアによるウクライナ侵攻。ウクライナ軍の各地での奮闘は称賛に値するものの、かといって、国際社会はこのまま双方の命が失われ続けることを容認していいのか。本当に停戦という選択肢はないのか、今一度考えてみたい。


【写真】ロシア軍の砲撃で破壊されたウクライナの集合住宅
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 戦闘が長期化しつつあるウクライナ情勢だが、日本はNATO(北大西洋条約機構)諸国と歩調を合わせ、ロシアへの経済制裁を実施している。


 岸田文雄首相は19日、ウクライナを支援するためにこれまで3億ドル(約380億円)の借款を行っていたが、倍増してさらに3億ドルを追加支援することを表明。記者団にこう語った。


「わが国は祖国のために奮闘するウクライナとともにある。今後もG7、国際社会と連携しながら強く支援していく」


 岸田首相は23日の日米首脳会談でもこうした方針を打ち出す。ウクライナを支援するムードが高まるなか、当初あった「即時停戦」という選択肢は遠のいているようにも見える。


 自民党の石破茂元幹事長は、このような状況に警鐘を鳴らす。


「このままでは、無辜(むこ)の市民がどんどん犠牲になっていきます。国際社会の責務は、一刻も早く戦闘を停めさせ、これ以上の犠牲者を出さないということに尽きます。ロシアに対しても、命令で戦場に駆り出された若い兵隊たちがこれ以上、死なないで済むようにすることを優先すべきではないでしょうか。日中戦争当時、中国を懲らしめるという意味の『暴支膺懲(ようちょう)』というスローガンがありましたが、いま永田町ではロシア非難一色で『暴露膺懲』の様相になっています。ロシアの行為は厳しく非難されるべきですが、それは人命が失われる事態を防いでからでも可能です」


 戦局は転機を迎えている。最大の激戦地となったウクライナ南東部の要衝、マリウポリが事実上、陥落。現地の製鉄所に立て籠もって抗戦していたアゾフ連隊を中心とする戦闘部隊の多くは投降し、ロシア側の拘置施設に移送されたとみられている。



 2014年にロシアが併合したクリミア半島は飛び地であり、東部の親ロ派支配地域とつなぐ回廊を確保するためにも、ロシア側にとってマリウポリの制圧は欠かせなかった。港を再開し、ロシアからの海上輸送の拠点にする意向だ。さらに攻撃対象として視野に入れるのが南部のオデーサだが、ロシア軍はドンバス地方全域で戦闘を続けているものの、ウクライナ側の強い抵抗に遭い苦戦を余儀なくされている。


 国連職員として世界各地で紛争処理に当たってきた、東京外国語大学教授の伊勢崎賢治氏はこう力説する。


「いまならば、ロシア、ウクライナ両国が戦闘をやめる口実が成り立ちます。即時停戦を実現するべきです。ロシアはクリミアにつながるマリウポリを陥落させ、プーチン大統領はネオナチと名指ししていたアゾフ連隊を降伏させたことで『非ナチス化』の大義名分になる。国内向けに軍事作戦の成果があがったと言えます。ウクライナは各地でロシア軍を押し返し、ゼレンスキー政権を転覆してウクライナ全土を占領しようとしたロシアの野望を阻止したと言えます。このまま戦闘を続けても、死者が増えるばかりです」


 もっとも、伊勢崎氏はロシアにウクライナ一国を占領統治するほどの軍事力があるとは見做していなかった。プーチン氏にも当初からその意図はなく、だからこそ首都キーウから撤退したと見る。


「米国ですら、20年もかけてアフガンの占領統治に失敗し、撤退したのです。ロシアに異国を征服する力はありません。ロシアの狙いは、オデーサまで落とし、黒海沿岸を制圧してウクライナを内陸国にしてしまうことです。ウクライナは小麦など穀物の輸出大国ですから、黒海を通じた航路が使えなくなるので経済的にもダメージを与えることができる。また、この一帯はすごい量の原油が眠っているのです。しかし、いまの戦況を見ればその目的も難しくなっています。厭戦気分も高まっているはずです」


■国連が機能したスエズ動乱停戦


 戦局は今後、さらにロシアに不利になっていくとみられる。米国のバイデン大統領は「武器貸与法」を成立させ、長期的なウクライナへの軍事支援を可能にした。すでに米国は対戦車ミサイルや地対空ミサイルなどを供与。ドイツも対空戦車50台を提供している。


 ここまで来たらウクライナ側の「勝利」を目指すべきだという声も出てきているが、前出の石破氏はこう指摘する。




「ロシアが怖いのは、いつも総力戦で膨大な死者を出しながら戦争に勝ってきたことです。ナポレオンのロシア遠征の時もそうだったし、第2次世界大戦の独ソ戦では2500万人もの死者を出しています。人命が損なわれることに対する抵抗感が低いと言わざるを得ず、だからこそ、今回の紛争でも自分たちが『勝った』と言えるまで、戦闘を続ける恐れがあるのです」


 では、具体的にどう停戦を促すのか。ここで考慮すべきは国連の活用だ。


 今のところ有効な手を打てていない国連だが、本来はもっと大きな役割を果たせるはずだという。石破氏が好事例として挙げるのが、1956年の第2次中東戦争時の国連の対処だ。エジプトのナセル大統領が突如として、スエズ運河の国有化を宣言し、運河で利益を得ていたイギリスが怒り、フランス、イスラエルとともにエジプトに侵攻した(スエズ動乱)。


「イギリスもフランスも常任理事国ですから、国連安保理は機能不全になりました。そこで当時、カナダのピアソン外相の働きかけで国連のハマーショルド事務総長が緊急総会を開き、停戦、撤兵決議を行った。国連が本腰を入れたことでイギリスとフランスも従わざるを得ず、停戦が成立したのです。国連は国連緊急軍を現地に派遣して、停戦監視を行いました。国連は無力でないことがわかります。では、いま日本がなすべきことは何か。こうした歴史的経緯や国際法を精査して、国際社会とともに、まずは停戦状態をつくることに尽力すべきです。口を極めてロシアを非難しても何も解決しません」(石破氏)


 スエズ動乱時の国連緊急軍が今日の国連平和維持活動(PKO)の原点になっているわけだが、今回は停戦をより困難にする要素がある。ロシア軍にはシリアの傭兵が投入されているし、チェチェン共和国のカディロフ首長の私兵組織「カディロフ部隊」はキーウ近郊のブチャでの民間人虐殺に関わったとされる。ウクライナにも傭兵や志願兵が多く存在する。前出・伊勢崎氏が説明する。


「こうした正規軍ではない人たちは、軍法の管轄下にないから戦争犯罪を起こしやすいのです。停戦合意が成立しても命令を聞かない恐れがあります。戦争が長引けば長引くほど、両国政府の指揮命令系統が利かなくなる。どんなに心情的に納得できないにしても、停戦合意を進めるにあたっては、戦争犯罪はいったん棚上げするのが定石です。早急に停戦監視団を投入する必要があります。講和後、速やかに中立性のある捜査機関によって、戦争犯罪の証拠集めをするのです」




■停戦交渉難航にアメリカの影?


 ところで、日本にできること、という点に関しては、東京大学名誉教授の和田春樹氏(ロシア史)をはじめとする14人の歴史学者が3月、「日本はロシアと安定的な関係にある中国、インドと協力して、ロシアとウクライナに戦闘停止を呼びかけ、公正な仲裁者になること」を要請する声明を発表した。


 和田氏らは駐日ロシア大使館のガルージン大使を訪ね、即時停戦の必要性を訴えている。


 和田氏はこう話す。


「大使はプーチン氏の忠実な代弁者であり、軍事作戦の正当性を主張しました。けれども、『停戦交渉がまとまってくると、誰かがウクライナのスカートの裾を踏むのだ』という言い方をしました。明らかに米国のことを指しているのですが、停戦交渉に応じる考えはあると感じました」


 和田氏が悔やむのは3月末の停戦交渉が合意に至らなかったことだ。ウクライナ側の条件は、NATOに加盟しない代わりに新たな集団的な安全保障の枠組みを構築すること、クリミアの主権については今後15年間協議するというものだった。


「ロシアはその条件を歓迎したから、キーウから撤退したのです。G7はクリミア併合に対して経済制裁をしていたから、この条件は妥協的すぎると米国が反対したと考えられます」


 まもなくブチャの民間人虐殺が発覚して、戦闘はますます激化していく。


 和田氏が続ける。


「ロシアは途方もなく広い国境を持っているので、他国から侵略を受けることを過剰に恐れている国です。ソ連崩壊後、NATOが東方に拡大したことは正しかったのか、ということも検証しなければなりません。ロシアとウクライナは300年以上、一つの国でした。30年前に分離しましたが、これからも隣どうしで存在していかなければならないのです」


 欧米は武器提供するから戦えという。停戦は積極的に呼びかけない。血を流し続けるのは、ウクライナの国民だ。それは残酷ではないのか。(本誌・亀井洋志)

※週刊朝日  2022年6月3日号


このニュースに関するつぶやき

  • どちらも負けない停戦はありえない。どう考えているのかね?両方負けにすることは外圧でできるけれど。
    • イイネ!1
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