熱中症、シューズが溶けたとの報告も「真冬でもめちゃくちゃ暑い」ラリー1カーの過酷な車内/WRC

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2022年05月26日 07:20  AUTOSPORT web

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勝田貴元によると、エキゾーストパイプを発生源とする熱により車内は非常に高温になるという
暑さとダスト(砂埃)が選手たちを襲った。5月19日から22日にかけて開催されたWRC世界ラリー選手権第4戦ポルトガルは、“WRC新時代”を象徴するラリー1カーによる最初のグラベル(未舗装路)イベントとなった。

 TOYOTA GAZOO Racing WRTのカッレ・ロバンペラ(トヨタGRヤリス・ラリー1)の3連勝で幕を閉じた同イベントだが、その会期中は日中の気温が30度を超える日もあり、ドライバー/コドライバーたちから暑さや車内に入り込んでくるダストに関するコメントも聞かれた。このことについて、今戦で総合4位となった勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1)は新しい車両規定がこの問題に「大きく影響している」と述べた。

「これはデザインとかクルマの作り方、車両規定からくる“ひとつの問題”と言うとおかしいですが、それが大きく影響している部分で、車内温度が昨年のクルマ(WRカー)と比べ物にならないくらい上がっています」と説明した勝田。

「この状況は昨年末にテストをし始めたときから感じていて、真冬のテストなのにめちゃくちゃ暑くて(笑)、『このまま行ったら夏場はヤバイ』という話は少なくとも僕たちのチーム内ではずっと話し合っていたのですが、やはり(対策として)できることには限りがあります」

■ダストの流入が増えた原因はクルマの作り方の差

 エアコンを使用せずに車内温度を下げるには、コクピット内の空気を入れ替えるために外部からエアを取り込むことが重要だが、それによるネガティブな部分のひとつに計算し尽くされた空力のバランスを乱すことが挙げられる。また、グラベルラリーにおいてはダストの流入も問題となる。

 ダストの問題では今季から導入されている新レギュレーション、ラリー1規定によるクルマの作り方の変化が影響を大きくしているという。

「昨年のクルマまでは基となるのベースの車両があって、そこからラリーカーを組み立てるという感じだったのですが、今のクルマは(スペースフレーム構造となり)カーボンパーツで作られているため、細かい部品の隙間隙間からダストが入り込んでしまいます。そういったところが多くのドライバーを襲ったダスト問題を作っていたのかなと感じています」

 夏場の戦いに向けた暑さへの対策について問われた勝田は、トレーニングなどをやっていくとしつつ、それにも限界があると述べた。

「今後より暑くなっていくと思うのでドライバーとしてはとにかくトレーニングを続けて、暑さ対策なりをしっかりやっていくしかないのですけど、やっぱり人間には限界があると思うので(笑)」

「今回、僕と僕のコドライバー(アーロン・ジョンストン)は大丈夫でしたが、他のチームで熱中症の症状が出ているコドライバーが何人かいたりだとか、レーシングシューズが溶けてしまっていたりとか、そういったドライバー/コドライバーもたくさんいたようです」

「ポルトガルは気温が30度に届くか届かないかというところでしたけど、35度とかになってしまったときにはもっと大きな問題になると思うので今後、何かしら話し合っていくのではないかなと感じています。その場合はドライバーがプッシュするというよりは、チームとFIA国際自動車連盟の間でやると思いますが」

■ベンチレーションの機能不全で集中力が低下。「ステージ後半はほとんど覚えていない」

 なお、勝田によるとコクピット内の熱源は主にエキゾーストパイプであるという。暑さの原因がハイブリッドシステムによるものか、との質問に対し、彼は「もちろんハイブリッドの部分もあるとは思いますが、(共通ハイブリッドシステムの)バッテリー以上に、クルマ自体のデザインでエキゾーストを通す配管がもろにコクピットから見てどこにあるのか分かるくらいの場所にあり、そこからの熱がものすごい」と答えた。

「基本的に車内の温度はそこからどんどん上がっていってしまって、それに対処するにはとにかく風を取り込んで空気を循環させるか、耐熱材というのですかね、そういったものをエキゾーストとクルマの間に挟むか、というところなのですが、そうしたものをつければつければ車重が嵩んでしまいますので、エンジニアやデザイナーサイドにとってはあまりしたくないことでしょう」

 しかし、車内温度の上昇はクルマを走らせるクルーたちのパフォーマンス低下につながってしまう。このことを勝田は自身に起こったことを例に挙げて説明した。

「今回のSS12“アマランテ1”という全長が37kmあるステージでのことです。それまでも暑さは感じながらもトレーニングをしてきただけあって『大丈夫だな』と感じていました。ところが、(スタートから)10kmくらい走ったところで、頭上のベンチレーターという風を取り込む配管からまったく風が入ってきていないことに気がついたんです」

「そのときはステージ開始前に間違えて閉めてしまったのだと思っていて、約10km地点で一度上を見て確認したのですけど全部開いていました。結果的にはフィルターが外から入ってくるグラベルで全部詰まり、まったく風を通さない状態になっていました」

「あのときは本当に『ちょっとやばいんじゃないか』『走りきれるかな?』というくらい暑くて、レースとラリーを全部含めた上で初めて自分の中で集中力の低下を実感しました」

「なんとか残りの27kmを走り切りましたが、最後の方はほとんど覚えていなくて、ただペースノートを聞きながらそれに従って走るだけの状態。フィニッシュからおそらく3つ手前のコーナーでコースオフしかけましたが、そのときもう完全にぼーっとして、ブレーキを掛けないといけないところでブレーキペダルを踏めていませんでした。フィニッシュ後もクルマを降りてからはフラフラして立てないような感じでしたね」

 車内に熱源を抱え従来のクルマよりも過酷な環境となっているコクピットにおいて、ベンチレーションがクルーの“命綱”になっていることを身をもって理解した勝田。彼は以降のグラベルラリーでも同様のケースが起きることを予期しつつ、今後見直していかなくてはならない部分であると感じている。

「おそらく他のグラベルラリーでもああいったことが起きるので、ベンチレーションにダストが詰まってしまうことも含めて改善していかないといけないと思いました。僕たちにとっては本当に命綱なので、そういったところが今後課題になると感じています」

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