AI桜鯛に養殖クラウド、進む「スマート養殖」 海・川がなくても可能な「陸上養殖」の時代が到来

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2022年05月26日 08:02  ITmedia NEWS

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 海に囲まれた日本で魚を陸地で育てる「陸上養殖システム」の開発が加速している。



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 海産物のニーズは世界で拡大傾向にあり、1人当たりの食用水産物の消費量は過去半世紀で2倍以上に増加し続けている。漁船による漁業生産量は横ばいだが、養殖市場は急激な伸びを見せ、成長産業として中国やインドネシアを中心に力を入れる傾向にある。



 海に網で囲んだ生け簀を作り、魚を育てる「海面養殖」ではノルウェーが早くから大規模化に取り組み、最新テクノロジーによるスマート化を国家事業としても推進している。穏やかで豊かな海に巨大な生け簀を作り、管理はIoTやロボティクス技術を活用して沖からリモートで行う。水中ドローンで撮影した魚の画像をAIで健康増進を分析する技術は、農業にも応用されている。



●AIが育てた魚をブランド化



 対する日本は海の環境の違いから海面養殖に適した場所が限られ、大規模化が難しい。方法も昔ながらの経験に頼ることが多く、台風や海水温の上昇といった問題もあり、2019年の水揚げ量は前年から9%も減少している。さらに、エサの食べ残しや排泄物による環境汚染が問題視されており、コストの多くを占めるエサ代を減らし、稚魚をどう確保するかなど課題は山積している。



 こうした状況に対し国は70年ぶりに漁業法を改定し、資源管理から流通に至るまでICTを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)を行うスマート化を推進している。水産庁が養殖業を成長産業にする「養殖業成長産業化総合戦略」を策定したことで、異業種や民間企業からの「スマート養殖」への参入が活発化している。



 スマート化の例では、水産養殖に関わるあらゆるデータを収集し、持続可能な水産養殖コンピュータモデルを構築するスタートアップのウミトロンが開発したスマート給餌機「UMITRON CELL」が知られる。



 生け簀で泳ぐ魚の映像をスマートフォンなどでリアルタイムに確認しながら、給餌機をリモート操作し、魚が食べるエサの量も測定する。UMITRON CELL で育てられた真鯛は「AI桜鯛」と名付けられ、2022年3月にくら寿司で期間限定販売された。



●ICTと相性が良い陸上養殖システムの研究開発が進む



 さらにスマート化が加速しているのが「陸上養殖」だ。地上に設けた施設で魚を育てる陸上養殖は、海の知識や経験が必須となる海面養殖よりも新規アイデアが取り入れやすく、ICTを活用したイノベーションを起こせる可能性も高い。



 海や川の水をそのまま利用する「掛け流し式」に対し、汲み上げた水を循環して利用する「閉鎖循環式」は場所の制限も少なく、環境汚染や病気対策のためのトレーサビリティがしやすいなど、安全で安定した品質の魚の供給が期待できる。



 前述したウミトロンは開発したスマート給餌機を陸上養殖向けにも展開し、NECグループのNECネッツエスアイと共同でサーモンの生育試験を行っている。24時間稼働する循環型陸上養殖プラントにおいてエサの管理をAIで自動化したところ、約20%の無駄を無くすことができたという。



●海と縁が無い業界からも新規参入が相次ぐ



 これまで水産業とは縁がないような異業種からの新規参入も続々と始まり、今年に入って国内に陸上養殖プラントを建設するニュースが続いている。



 例えば、プラント大手の日揮は福島県浪江町の北産業団地で、サバの陸上養殖プラントを今冬に着工すると発表している。大和ハウス工業はアトランティックサーモンを生産できる国内最大級の陸上養殖施設を富士山麓に建設する計画を2023年度完成予定で進めており、プラントの建設はノルウェーの養殖事業者が請け負う。



 福岡のRKB毎日ホールディングスのような放送事業を中核とする全く畑違いに見える企業もサーモンの陸上養殖事業に参入し、地域の経済活性化につなげようとしている。養殖クラウドと名付けられた最新の陸上養殖技術を持つネッツフォレスト陸上養殖とパートナーシップを結び、フランチャイズスタイルでの事業展開を目指す。



●パッケージ化されたシステムを国内外に販売



 陸上養殖に関してはIMTエンジニアリングが国内外で需要が高いバナメイエビの陸上養殖の研究開発を10年前から国と行い、自然環境に左右されず、どこにでも設置できる屋内型エビ生産システムをすでに事業化している。



 新潟県妙高市にあるプラントは、妙高の雪解け水と富山の海洋深層水に人工海藻を入れた巨大な水槽があり、水を造波装置で動かして育てる活きの良いエビは「妙高ゆきエビ」の名前でブランド化されている。加えてIoTとAIを駆使して自動化された養殖システムはパッケージ化され、国内外への販売を目指している。



 同じバナメイエビの陸上養殖では、次世代水産養殖システムの開発に取り組むスタートアップのリージョナルフィッシュとNTTドコモ、岩谷産業、奥村組の4社が共同で、ICTを活用した最適パッケージ化の実証実験を行っている。



 NTTドコモは海面養殖でも使用されているICTブイをベースにした水質遠隔監視システムと、リモートで養殖環境を管理できる「ウミミル」アプリをセットで開発し、各種センサーと連携できるAPIも提供している。



 陸上養殖の分野では以前から注目されている岡山理科大学が研究開発する好適環境水を用いた完全閉鎖循環式陸上養殖のシステムについても、NTT東日本との連携による世界初のベニザケの養殖事業化が進められている。生産だけでなく加工から流通販売まで含めたビジネス化を目指している。



 陸上養殖システムの研究開発は海外でも始まっているが大量生産を前提としたものが多い。食の課題を解決する上で大きな役割を占めると見込まれるが、海面養殖に比べて設備投資やエネルギーコストの負担が大きく、再生可能エネルギーと組み合わせるなど新しい発想がまだまだ必要と言える。日本の研究開発が未来の陸上養殖を支えるものになるよう期待したいところだ。



(野々下裕子)


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