住まいと防災2022 第8回 「資産」としての住まい - 性能や維持管理で知っておきたいこと

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2022年05月26日 10:11  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
住まいの取得は多くの日本人にとって、人生最大の投資ではないかと思います。節約に努めて頭金を準備し、多額のローンを組んで長期にわたって返済し続けていかなければなりません。そうして手に入れた住まいが災害で損失しては、人生設計が大きく狂わざるを得ないでしょう。投資した資産が資産として今後の人生にフルに機能するように、建物の性能や維持管理に配慮することが大切です。


○地域や敷地環境に見合った住まいの性能を!



「住まいと防災2022シリーズ」の第3回「知るべき『地域の災害』とは - どうやって情報収集する?」と第4回「住むのに『危ない敷地』とは?」でも、ご紹介しましたが、その地域や敷地が持つリスクを無視しては、財産を守れない事態が起きないとも限りません。それだけでなく、家族の命も危険にさらす危険もあります。当たり前のことなのですが、現実は多くの方はさほど関心が高くないと実感しています。東日本大震災の時にも、過去何度も大きな津波被害に遭い、「津波でんでんこ=津波が来たら、家族てんでんばらばらに、まずは自分の身を守るために、率先して避難せよ」という格言までありながら、多くの方が亡くなってしまいました。



過去の歴史や災害を熟知してもなお、それを上回る災害が起きないと言う保証はありません。高価な設備を考える前に、住まいがその本来の役割である家族を守る器であることを考え、地域の災害や敷地の弱点などに対して、どうすればそれを克服できるかを考えることが大切です。



災害に強い住まいは、とりも直さず資産価値の高い住まいとなります。冒頭にあるように人生最大の出費の結果である住まいは、人生設計的にも資産としてなるべくその価値を高く維持することが大切であることは言うまでもありません。

○住まいの性能は維持管理が重要



私が子供のころは、外壁や屋根の修繕を一家の主が行っている風景をよく見ることがありました。しかし、住宅の仕事をするようになり、一様に言われたことが「メンテナンスが楽」というものでした。もちろん「楽」に越したことはないのですが、心構えとしては少し違うのではないかと、常々考えていました。昔は住み手と住まいが、心情的には有機的につながっていたように思います。業者に依頼はできますが、住まいの異変を察知するのは住み手です。日々管理し、不具合を早めに見つけて改善することが、住まいを長持ちし、災害対応力の維持にもつながります。



維持管理の他に住まいは時としてリフォームが行われます。リフォームの多くは間仕切りを取り払い、より広い空間を確保したいという傾向にあります。阪神淡路大震災の際に、まったく同じ間取りで販売され、並んで建てられた古い木造平屋の建売住宅の2棟の内、その後のリフォームで柱や耐力壁をしっかり確保した建物と、それらを取り払い、耐震性を無視したリフォームを行った建物とで明暗を分けた事例がありました。耐震性を維持した建物の方は、きわめて古い建物ながら、多少の損傷だけでそのまま住み続けられたのに対して、一方の建物は全壊してしまったそうです。



大切な資産なので維持管理は当然なはずなのです。


○長期優良住宅とは



長期優良住宅とは、200年住宅構想の下、2009年6月4日より施行された制度です。認定には様々な性能基準等がありますが、様々な特典も付与されます。グローバル化がますます進むと考えられる今後、日本の若者だけが住宅取得に膨大な負担を強いられるとすれば、果たして競争に勝ち抜いていけるでしょうか。まして日本は災害の多い国で、不動産所有のリスクも大きくなります。災害に強いしっかりした住まいを次世代に引き継げれば、住まいへの投資が軽減される分、次世代の競争力は高まると考えています。



長期優良住宅は一般住宅と比較して、建築費はいくらか高くはなります。しかし長持ちすれば、結果的に大幅に割安なものとなっていきます。下図は長期優良住宅のトータルコストを示したものです。一般住宅の建て替えサイクルが50年(実際はそれよりはるかに短い)とすると、長期優良住宅の耐用年数が尽きるまでに、一般住宅は4回分の建替え費用が必要となるイメージです。


下表は、長期優良住宅の認定基準をまとめたものです。維持管理計画書の作成が義務付けられ、中古の長期優良住宅として売却された際にも、その計画書は引き継がれます。2009年制定の当初なかった災害配慮が追加されています。赤字は今回のテーマに直接関係する項目です


地球環境維持のためにも、住宅はできるだけ長持ちさせる必要があります。日本の住宅の耐用年数は、同じ木造住宅中心のアメリカと比較しても極めて短いのです。そのために普及に向けて、長期優良住宅等には様々な優遇措置が用意されています。住宅メーカーの建物を見ても、現在の日本の住宅の性能は高く、一般的に長期優良住宅仕様としても、価格は極端に高額になるわけではありません。優遇措置を上手に活用すれば、差額はより少なくなります。


住まいを資産として、家族を守る器として、しっかり維持管理していけば、災害リスクは少なくできるはずです。



佐藤章子 さとうあきこ 一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。 この著者の記事一覧はこちら(佐藤章子)

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