ホンダの新型「ステップワゴン」で「エアー」を推したい理由

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2022年05月26日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
ホンダがミニバン「ステップワゴン」の新型を5月27日に発売する。「AIR」(エアー)と「SPADA」(スパーダ)という2つのタイプがあるが、私が「コレだ!」と引きつけられたのはエアーの方だ。試乗してみた印象を含め、エアーを推したい理由を説明していきたい。


○ドヤ顔が苦手なら「エアー」一択?



国内外を問わず、新車販売で近年人気を集めているのは、「ドヤ顔」などと形容される押し出しの強い顔つきのフロントグリルだ。軽自動車では、標準車種の派生として「カスタム」などのグレードを設定するメーカーが多い。力強さやいかつさを強調したカスタムは実際に、ユーザーから人気を集めている。人気の高級ミニバンであるトヨタ自動車「アルファード」も、当初は兄弟車種である「ヴェルファイア」の方が人気があったが、それを上回る大きなメッキグリルを採用すると販売台数でヴェルファイアを逆転し、圧倒的販売台数を得るに至った。



海外ではドイツ車を中心に押し出しの強い顔つきが増えている。BMWの「キドニーグリル」が大型化しているのは見ての通りだし、メルセデス・ベンツのマスコットである「スリーポインテッドスター」も、かつてはラジエターグリルの上に品よく飾られる程度だったが、いまやラジエターグリル中央に大きく構え、まるで「メルセデス・ベンツ様のお通りだ」といわんばかりだ。そもそもそれは、「SL」のために与えられた象徴的なグリルであったのだが。


クルマの顔ともいえるフロントグリルの大型化や押し出しの強さは、自らの存在を周囲へ知らしめる効果がある。軽自動車は小柄な車体であることによって、交通の中で登録車や大型トラックなどから存在を無視される傾向があり、運転に不安を覚えることがあるが、押し出しの強いグリルなら目立つ。幅寄せなどの嫌がらせをされずに済むとの安心を覚えるのではないか。



速度無制限区間のあるドイツのアウトバーンでは、超高速で追い越し車線を走る高性能車や高級車に対して人々が道を譲るのは暗黙の了解となっている。ところが、近年では二酸化炭素(CO2)排出量の低減が強く求められ、高速での空気抵抗を減らすため車両全体の造形が似る傾向となり、目立つグリルで区別しなければ高性能車や高級車が迫っていると気づきにくくなった。



さまざまな背景から、強烈な顔つきのクルマばかりが道路を走るようになったのである。

そうした傾向を好まない消費者もいるはずだが、標準車的な車種ではあまりに存在感が薄かったり、内装や装備などに不足があったりして、選びたくても選べない状況もあったのではないだろうか。そこに外観の造形で挑戦してきたのが、新型ステップワゴンのエアーである。


エアーは顔にメッキの装飾をほとんど使っていないが、他社のミニバンとは明らかに異なる存在感を持つ。これこそ、デザインの力だろう。その姿からは清々しさが伝わる。訴求色となる淡い青(フィヨルドミスト・パール、エアーの専用色)も爽快さを印象付ける効果をもたらしている。


○軽さが奏功? 「エアー」の乗り味は

正式な発表を前に、敷地内という限定された状況ではあったが、市街地を模したテストコースで新型ステップワゴンを運転する機会を得た。エアーとスパーダのハイブリッド車(HV)に試乗したのだが、乗ってみてもエアーが私の推しであることに変わりはなかった。



スパーダはステップワゴンの上級車種という位置づけ。内装もより豪華な仕様となっていて、上質な雰囲気が伝わってきた。運転感覚としては手応えも確かで、これまで人気を得てきた車種として十分な仕上がりだった。


私が期待したエアーは、座席に座ったときから体にやさしいファブリックシートの柔らかさが心に響いた。足腰の輪郭にそって包み込むような座り心地が快い。スパーダの座席もしっかりと体を支えてくれたが、合成皮革を使う部分がやや硬い印象もあった。ファブリックの生地は足腰が確実に座席に留まるので、乗車中に姿勢が崩れにくく、正しい着座姿勢を保つことができる。


エアーの座席の快さは3列目も同様だ。クッションの柔らかさにより座席に腰が落ち着く。ミニバンで最も乗り心地が悪くなると敬遠されがちな3列目だが、エアーの最後部は居心地のいい空間になっていた。


運転して気づいたのはエアーの軽やかな動きと操作の通りに走ってくれる親近感だ。当初はタイヤ寸法がスパーダに比べやや細めだからかと思ったが、同乗した技術者は「スパーダより車両重量が30kg軽いからでしょう」と助言してくれた。



わずか30kgと思うかもしれないが、この差がスパーダとは明らかに異なる乗り味をエアーにもたらしている。この乗り味なら、日々の市街地での運転でハンドルを切ったり、発進と停止を繰り返したりするとき、操作することを嫌に思わなくて済むのではないだろうか。暮らしに自然に溶け込み、日々役に立ちながら、乗る人の心に潤いをもたらす。エアーの運転感覚は肩肘張らない内外装の雰囲気とも合致する。


4月の終わりごろに聞いたところによると、ステップワゴンの予約の内訳はスパーダが53%、プレミアムラインが31%で、エアーは16%にとどまるという。ただ、この時点では実車を見たり乗ったりしていない人からの注文が大半なはずで、正式発売後はエアーの人気が上がっていくのではないかと私は思うし、そう期待してもいる。押し出しの強さを売りとしていないエアーの魅力は、すぐには多くの人に伝わらないかもしれない。しかし、私はその内外装を見ただけで魅了された。そしてわずかな距離の試乗で、その直観に間違いはないと確信した。



「エアー」とは言葉通り「空気」の意味だと開発責任者は説明する。人が生きるために不可欠でありながら、普段は意識されることが少ない存在だが、郊外で深呼吸したときの清涼感は空気のありがたみを実感させてくれる。不可欠な存在でありながら、心を動かす快さを併せ持つミニバンを目指しての命名なのだそうだ。



御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)
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