【GT300マシンフォーカス】耐久レースの新基準。足回りとターボ制御の進化で弱点を補うBMW M4 GT3

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2022年05月26日 12:50  AUTOSPORT web

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写真2022スーパーGT第2戦富士 Studie BMW M4(荒聖治/アウグスト・ファーフス/近藤翼)
2022スーパーGT第2戦富士 Studie BMW M4(荒聖治/アウグスト・ファーフス/近藤翼)
 スーパーGT300クラスに参戦する注目車種をピックアップし、そのキャラクターと魅力をエンジニアや関係者に聞くGT300マシンフォーカス。2022年シーズンの第3回は、BMW Team Studieが今季から投入したFIA-GT3マシン『BMW M4 GT3』が登場。先代『BMW M6 GT3』でもチーフエンジニアを務めた高根裕一郎氏にニューマシンの素性を聞いた。

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 いまなおスーパーGT GT300クラスで“主力”として走っているFIA-GT3車両は、そのほとんどが2016年に登場したモデルだ。『BMW M6 GT3』もその1台であり、当時はGT500車両よりも大きなボディで注目された。そして2022年、BMWはひと足早く、新型車の『BMW M4 GT3』をデビューさせた。その全長はM6 GT3よりもさらに45mm長く、巨体化されていた。

 M6 GT3とM4 GT3のディメンション(車両寸法)を比較してみると、M6 GT3は全長4975mm、全幅2046mm、ホイールベース2901mmだったのに対し、M4 GT3では全長5020mm、全幅2040mm、ホイールベース2917mmとなっている。ただし、BMW Team Studieの高根裕一郎チーフエンジニアによると、「下面の寸法はあまり変わらない。数値を見た限りだと、M6 GT3からはキープコンセプトだと感じます」という。大きなフロア面積でダウンフォースを稼ぐ狙いは、変わらないということだ。

「ホイールベースが延びているのは、M6 GT3のV8エンジンに対して前後が長い直列6気筒エンジンを搭載したことで、ロードカーからはフロントの車軸を前に出したということだと思います。そのぶん、フロントのオーバーハングはM4 GT3のほうが少し短いです」

 その理由を「デザイナー(車両設計者)ではないので分からない(笑)」と言うが、一般的にホイールベースが長いと直進やブレーキング時、また高速コーナーでの安定感が高くなり、反面小回りは利き難くなる。一方でショートオーバーハングによってボディ先端を軽くできれば慣性モーメントは小さくなり、回頭性を良くすることができる。つまり、低速コーナーでの旋回性は上がる方向だ。

 ロングホイールベースの弱点をショートオーバーハングによってどこまで補えているかは定かではないが、BMWはそれを“バランスさせている”のだろう。ディメンションのみで語れば不得意となるはずの開幕戦岡山で、予選7番手、決勝では残り6周というところで他車に追突され戦線を離脱してしまったが、それまでは激しい攻防を繰り広げて5番手を死守していた。低中速コーナーのサーキットでも可能性を示したことになる。

 岡山での好走は、メカニカルグリップを生み出すサスペンションの進化も大きい。M6 GT3含め、ツーリングカーの多くはアライメントや車高をネジの締め具合で調整するターンバックル式を採用するが、M4 GT3ではアライメントも車高も、すべて挟み込む板の厚みで調整するシム式となっている。

「ターンバックル式は、ネジの締め具合で伸ばしたり縮めたりしますが、ノッチがあって節度がある動きではなく自由自在。通常はシャフトを回すための六角ボルトに自分たちで印をつけて、ひとつの山を1フラットとして調整します。1回転で6フラットですね」

「でも、それはあくまで自分たち基準の“1フラット”という動かし方になる。GTカーではそこまでの影響はありませんが、フォーミュラカーになるとほんの少しの締め具合で、コーナーウエイトゲージで見るとずれが生じる場合があります。フリーで動いてしまうから整えづらいですし、繊細な調整には向きません。極端な話をすると、逆に(ネジを)回してしまって車高を下げるはずが上がっていたなんてミスを犯すリスクもあります。その点、シム式は厚みの違う何パターンかが用意されていて、その枚数、数値で管理できるのでセッティングの精度が上がります」

 M4 GT3となり、エンジンの仕様が大きく変わったのもトピックだ。M6 GT3では4.4リッターのV8ツインターボだったが、M4 GT3では3リッターの直列6気筒直噴ツインターボを搭載する。実際の排気量は2993ccで、これは現行のFIA-GT3車両のなかで最小排気量となる。

 シェイクダウン前の高根エンジニアは、排気量が小さくなったことに対して、「同じパワーを出すにも過給圧に頼る部分が大きくなるので、それがどう作用するか」と不安も口にしていた。現在のFIA-GT3車両について、GTワールドチャレンジなどの主催者であるSRO(ステファン・ラテル・オーガニゼーション)が決定するBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)では、ターボ車に対して過給圧を絞ることでマシン性能が調整されている。M4 GT3では、これまで過給圧を絞られても、大排気量のトルクで補えていた部分が期待できなくなる。だが、開幕戦岡山を終えて、「良い(パワー&トルク)カーブでした。いまのところネガティブにはなっていません。ターボの制御が進んでいるのだと思います」とのこと。

 第2戦富士では、過給圧がGT300参加条件によってさらに絞られた。予選Q1のB組で出走したStudie BMW M4の最高速は2番手タイとなる270.677km/h、Q2では3番手の272.040km/hを記録。順位を見れば好結果といえるが、トップからはQ1で4.833km/h落ち、Q2では7.753km/h落ちだった(予選結果はQ1 B組7番手、Q2は12番手)。

 SROのBoPはパワーウエイトレシオを基準としたパフォーマンスウインドウを設け、たとえばコーナリング性能に優れる車両はエンジンパワーを落とすことでバランスさせている。エンジンパワーがあるから必ずしも速い、強いというものではない。今年がデビューイヤーのM4 GT3は、FIA-GT3車両のBoPに紐付くファナテックGTワールドチャレンジでのリザルトによって、今後も微調整が繰り返されるだろう。その調整によるところも大きいが、高根エンジニアは得意そうなサーキットを「鈴鹿とSUGO。たぶん、オートポリスも悪くないと思う」という。

 第2戦富士はステアリングギヤボックス系のトラブルにより早々のリタイアとなってしまい、2戦連続でチェッカーを受けることができなかった。新型車として初期のトラブルは常である。セッティングもタイヤの合わせ込みも、まだこれからという状況だ。だが、チームもファンも、M4 GT3には大きな期待を寄せる。

 ル・マン24時間レースを含むWEC世界耐久選手権では、2024年からGTクラスを現行のGTE車両ではなく、GT3をベースとした車両に切り替えるとしている。M4 GT3はそれを見越しており、M8 GTEの“継承車”でもあるのだ。WECではガムテープなどでのボディ補修は許されておらず、レース中のアクシデントにはカウルを交換する必要がある。そのため素早い作業を可能とするべく、カウルはすべてファスナー留めとなっておりボルトは1本も使われていない。

 また、コクピットのメーターディスプレイでは、エンジニアがパソコンなどを使わずに直接各種設定ができるようになっている。その横にあるメーターと同じBOSCH製のディスプレイはバックモニターで、これはオプション設定になるが、後続車との距離や速度差を表示する。GT500が後方に迫ってきたとき、GT300同士のバトルで役立つはずで、開幕戦岡山でアウグスト・ファーフスが繰り広げた攻防戦でも実際に貢献していたようだ。エアコンもドライバーのヘルメットとシートバックからの送風だけでなく、車内全体を冷やせるようになっている。

 まさに耐久レースのための新基準となるGT3マシン。今季のスーパーGTは450kmのレースが3戦あり、M4 GT3が得意とするサーキットもまだこれから。本領発揮を目にするのはもうすぐだ。

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