“ドライバーズファースト”は「ファンにとっても幸せ」。スーパーフォーミュラ改革の真意を聞く【JRP上野社長インタビュー/前編】

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2022年05月26日 13:00  AUTOSPORT web

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写真2022年全日本スーパーフォーミュラ選手権第4戦オートポリス スタートシーン
2022年全日本スーパーフォーミュラ選手権第4戦オートポリス スタートシーン
『SUPER FORMULA NEXT50(スーパー・フォーミュラ・ネクストゴー)』を掲げ、この先の50年も持続可能なモータースポーツ業界を目指し、次世代に向けた技術開発や、新たなコンテンツ発信などに力を入れ始めている全日本スーパーフォーミュラ選手権。今回は、シリーズプロモーターである日本レースプロモーション(JRP)の上野禎久社長に、改革の真意や現在の課題、目指している『フォーミュラレース像』など、多岐にのぼる話題について聞いた(取材は第3戦予選前に実施)。

 この前編では、すべての取り組みのベースとなる“ドライバーズファースト”というスローガンと、アプリや動画配信などを通じた取り組みについて触れる。

■年間10戦開催で「賞金額も純増」
──JRPが掲げる“ドライバーズファースト”という言葉の真意を教えてください。

上野:ドライバーズファーストというのは、行動要件です。ドライバーの価値を上げるためにはどうしたらいいんだと、すべての意思決定のなかに“ドライバーの価値を上げる”というひとつの要件を加えることによって、ちゃんとみんなで同じ方向を向こうということなんです。

 いろいろと要件はあると思います。メーカーさんが喜ぶとかファンが喜ぶとか。でも、とにかくドライバーの価値を上げることがすべての価値向上につながる、というひとつの表現です。やはり目標はシンプルにしないと、みんながバラバラになってしまい、そちらに向かなくなってしまう。

 そうしたときに年間7戦で正しいのかというと、僕はやっぱり足りないと思っています。なぜかというと、まずドライバーにとって勝つ機会が少ない。お客さんの見る機会も少ない。勝者が7人と10人ではやはり違います。あとはヨーロッパも含めてさまざまなカテゴリーを見ても、F1が23戦、サポートレースのF2も14戦(全14大会28レース)、Wシリーズも年間8戦を開催していて、我々は圧倒的に少ない。

 いまの我々の体力、サーキットのリソースを考えたときに『年間14戦やります』とは言えませんが、大会数を変えずにレースを増やすことはできる。当然チームやドライバーの負担も増えますが、しっかりと連動して賞金も増えるから頑張って下さい、と。

 実際、賞金は7戦分の総額を10で割ったものではなく、3戦分純増しています。それは当然我々プロモーターの負担になるのですが、まずはそこをしっかりといろいろな部分でマネタイズして、賞金を仕払うようにしようと。プロスポーツとして勝った人に賞金を与えるということは大事なので、それをちゃんとやろうということです。

 また、ルーキー・オブ・ザ・イヤーに関しても、今までは内規で『3台以上の場合』となっていましたが、2台であってもそこに競争が存在している以上はしっかりと讃えられるべきだということもあり、2022年は(内規を変更して)佐藤蓮選手と三宅淳詞選手が同じチーム内で争えるようにしました。ルーキー・オブ・ザ・イヤーは一度しかチャンスがないので、そこはガチガチにやってもらい、とにかくドライバーたちの戦える環境を作ろうということです。

──“ドライバーズファースト”という字面だけを見ると、「ファンのことは考えられてないのか」と感じる向きもあるようですが、そうではない、と。

上野:はい。中嶋悟さんが1988年のF1日本GPのスタートでエンストして、かかった瞬間に、ほぼ全員がそこを見ていました。あのときは(直前に逝去されたお母様が)「背中を押してくれた」というコメントもありましたが、そういったドライバーの喜びはファンの喜びではないでしょうか。ドライバーが勝って喜ぶことは絶対ファンにとっての喜びなので、ドライバーが讃えられる環境を作ることはファンにとっても幸せな環境なのです。

■“玄人ウケ”するアプリの活用法と課題。将来的には「投げ銭もあり」
──現在開発中の『SFgo』アプリに代表される取り組みも、ファンに対するこれからの新しい施策ということでしょうか。

上野:そういうことです。(オンボード映像やロガーのデータで)ドライバーひとりひとりのすべてを見て頂いて、ドライバーのすべての頑張りがファンに届くようなコンテンツが欲しいと言ったら、本当に半年で作ってくれました。

──少し拝見しましたが、情報量の多さがすごいと思います。我々メディアを含め、それこそ関係者が重宝するようなものになるかもしれません。

上野:なるかもしれませんね。でもこの後、我々はこのアプリの面白さをしっかりと、分かりやすく伝えることが必要です。これはみなさん(メディア)にもお願いしたいところです。

 僕ですらこのあいだ(第1・2戦富士)気が付きましたが、タイヤの温度でだいたいのグリップが分かる。なぜ野尻(智紀)選手の方が余裕があるのかと言われたら、彼の方がフロントタイヤが10度低い。クルマが決まっていてタイヤがグリップしているから。無理して追いかけるとハンドルをこじるので、タイヤの温度はどんどんと上がっていってしまいます。

 そういった情報をファンに伝えられたら、後方で速いクルマもわかる。そうなるとバトルが想像できるわけで、なるほどなと可能性を感じました。

 また、このアプリ開発では、将来的にチームとドライバーたちに対して、しっかりと利益が循環することを目的にしています。ドライバーがファンを喜ばせたり、ドライバーにファンが付いたり、チームがファンを増やしたりしたときに、そこでうまくドライバーやチームにお金が入る仕組みが、日本のレースにはないんです。やっぱりファンの多いドライバーが頑張ったときに、ちゃんとドライバーやチームにお金が入る仕組みを作りたい。

 たとえばドライバーたちがファンに訴えかけて、ファンを増やし、ひとりのドライバーが2万人のファンを抱えたとします。そういった方々がアプリに登録してレースを見に来てくれたら、そのお金がちゃんと(チーム/ドライバーに)支払われるようにならないと、彼らの努力が形にならない。そういったマーケティングの仕組みを作りたいなと思っています。この業界がサスティナブルに進むために、しっかりとこういった部分のマネタイズをして、それがドライバーやチームに還元されるようにしたい。

 たとえばクラッシュしてしまったチームに“投げ銭”とかも、ありだと思います。『ウイングが飛んで可哀想だから500円!』とか。もしかしたらYouTuberみたいなドライバーが出てきて、成績はポイント獲得ギリギリだけどファンは3万人もいるから、毎年JRPから多額の還元を得られる、といった形も面白いとは思います。

──今季はYouTubeでのライブ配信も力を入れられていますが、『サーキットに来ないと楽しめないもの』と、『サーキットに来なくても楽しめるもの』、これは今後どういったバランスで取り組んでいかれるのでしょうか。

上野:まずはやはり、この会場の雰囲気ですよね。音や振動、エンジン音、緊張感というのは、やっぱり現場と映像では違います。

 だからといって日本のモータースポーツファン全員を集められるかと言ったら集められない。そういった意味では、そういうことも楽しみながらサーキットに来たい人はちゃんと来るというように、両方楽しんでいただきたい。現場の雰囲気とか音、周辺のイベント、ここでしか手に入らないモノ・コトをちゃんと整理することで、僕は両立できると思っています。

 そのうえで、アプリやライブ配信が入口となって、『見に行ってみようか』と思っていただけるように、つなげていかないといけない。サーキットさんには『こんなものを出されても、観客は増えない』というようなことを言われるのですが、全然そんなことはないと思っています。
(後編へ続く)

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