作品の核を担い続ける岡田健史 『死刑にいたる病』は現時点の集大成が見られるものに

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2022年05月27日 10:11  リアルサウンド

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『死刑にいたる病』(c)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

 白石和彌監督最新作『死刑にいたる病』において、阿部サダヲとダブル主演を務めている岡田健史。出演する作品ごとにその中核を担い続けてきた彼の本作での演技は、2018年のデビューから4年目を迎えた現時点における集大成が見られるものになっている。


【写真】岡田健史撮り下ろしカット5点


 新作映画ランキングにて初登場5位を獲得し、非常にハードな作品ながらも話題と注目を集め続けている『死刑にいたる病』。本作は、ジャンルとしては「サイコ・サスペンス」と謳っているが、それ以外にもミステリーやスリラー、さらには人間ドラマまで、いくつものジャンルを内包している作品だ。そういうこともあってか、単純に「怖い映画」として嫌厭されているわけでもないらしい。言うなればこの、観客の興味・関心を引くポイントの大部分を担っているのが岡田なのだ。


 岡田が演じているのはごく普通の大学生・雅也。彼はある日、日本中を震撼させた連続殺人鬼・榛村(阿部サダヲ)から一通の手紙を受け取る。この榛村という男は、行方不明中の少年少女24人を殺害した容疑で逮捕され、うち9件で立件・起訴、死刑判決を受けている。しかし、最後の成人女性が殺害された事件だけは「冤罪」なのだと榛村は訴えている。彼から雅也への依頼は、“他に犯人がいるのだと証明する”こと。幼い頃、榛村が経営していたパン屋でお世話になっていた雅也は彼の願いを聞き入れ、独自の調査に着手。やがて雅也は、想像を絶する事件の真相へとたどり着くことになる。


 阿部と岡田のダブル主演とはいえ、作品を牽引するのは岡田である。彼の視点によって物語は語られていく。しかしながら能動的な演技を展開しているのは阿部の方であり、岡田は“受けの演技”に徹している。異常者である榛村に雅也が翻弄されるさまを岡田は表現し、これによって物語は先へ、そして深みへとハマっていく。雅也はどこにでもいるごく普通の青年であり、榛村と比すれば観客の共感を呼ぶのは明らかに彼の方。榛村という異常者を前にした雅也は、社会の規範内で過ごす私たちを代表するような人物なのだ。榛村の言動に狼狽したり、静かな興奮を見せたりと、岡田の的確なリアクションは、スクリーンを見上げる我々の素直なリアクションと一致するものである。


 ここで少しだけ、岡田の“これまで”を振り返ってみようと思う。2018年秋クールに放送されたドラマ『中学聖日記』(TBS系)での鮮烈なデビューから、彼のキャリアはまだ4年に満たない。デビュー作ながら主人公の相手役に抜擢され、鳴り物入りでエンタメ界に姿を現した岡田は、この走り出しに続くのに相応しい豊かな経験を積んできたといえるだろう。最新話が放送されるたびにSNSをにぎわせた『MIU404』(2020年/TBS系)ではメインキャラクターの一人に扮し、コロナ禍が到来したばかりの不安定な社会に活力を与えた。『いとしのニーナ』(2020年/フジテレビ系)など、テレビドラマでの主演も経験し、大河ドラマ『青天を衝け』(2021年/NHK総合)での好演も記憶に新しいところだ。映画に関しては2020年に『弥生、三月 -君を愛した30年-』でスクリーンデビューを果たして以降、ラブストーリーにコメディ、サスペンス、ヒューマンドラマと、彼が挑んだ作品のジャンルは多岐にわたる。今作『死刑にいたる病』について“いくつものジャンルを内包している作品”だと先に述べたが、このような作品で主演を務めていることこそ、この4年弱で目まぐるしい飛躍を遂げてきた岡田の集大成だという証明だろう。


 岡田はこれまでの出演作のいずれもで主要な人物を演じてきた。その彼が本作では作品の先頭に立ち、物語を牽引してみせている。それも、大先輩である阿部を相手取ってだ。これから彼は何を見せてくれるのだろうか。本作ではたしかに“受けの演技”に徹しているが、役の性質もあり、ときおり“攻めの演技”も垣間見える。岡田が全力で“攻め”に徹したとき、彼の新たなステージが始まるのだろう。


(折田侑駿)


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