「大映ドラマ」トンデモ設定、ぶっとんだ演出&セリフでもヒットを連発!その歴史を振り返る

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2022年05月28日 16:00  週刊女性PRIME

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石立鉄男の名ゼリフ「薄汚ねぇシンデレラ!」が話題となった『少女に何が起ったか』。

 テレビにさほど興味のない人も「大映テレビ」はご存じのはず。かつて存在した映画会社・大映を源流とし、1971年に誕生したドラマ制作会社である。

 山口百恵さん(63)らが主演した全10作のTBS『赤いシリーズ』(1974年〜80年)や同『スクール☆ウォーズ〜泣き虫先生の7年戦争〜』(1984年)などをつくり、名をとどろかせた。

 最近もテレビ東京『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(チェリまほ)』(2020年)が話題になった。TBS『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』(2021年)などもヒットさせている。

「ありえない」も、視聴者を納得させる力業

 大映テレビ作品の特徴は(1)ありえない設定 (2)過剰で過激な演出 (3)人間の実像を隠さない (4)オーバーなセリフ……などである。

 たとえば『チェリまほ』の場合、主人公の冴えないサラリーマン・安達(赤楚衛二)が、30歳まで童貞だったことから、なぜか接触した相手の心が読めるようになる。

 こう文字で書くと「バカバカしい」で終わってしまうものの、安達自身の心の声を効果的に使うなどの演出が巧みだったため、ホントっぽく描くことに成功した。

 安達に秘かに思いを寄せる同期のモテ男社員・黒沢(町田啓太)は心の中で安達への胸の内を繰り返し叫んだ。安達に近づくだけで「めっちゃドキドキするんですけど!」と興奮した。いくらなんでもオーバーなのだが、作り方がうまいから、すんなりと受け入れてしまった。

 TBS『テセウスの船』(2020年)も制作している。これまた同じく、主人公の田村心(竹内涼真)が父・文吾(鈴木亮平)の濡れ衣をタイムスリップして晴らすという超ありえない話だったが、力業で視聴者を納得させた。

 それより大映テレビらしかったのは心とその家族を攻撃する人たちの醜さの描き方。心と家族は文吾が殺人を犯したことで周囲からとんでもない嫌がらせを受けた。もはや犯罪レベルだった。醜さも人間の実像なので、それも隠さないのが、同社の特徴の1つなのである。

 TBS『不良少女とよばれて』(1984年)の主人公・曽我笙子(伊藤麻衣子、現・いとうまい子)は逮捕歴6回の困った少女だったが、グレた発端は金銭問題に悩んでいた母・美也子(小林哲子)から「おまえなんか生むんじゃなかった」と言い放たれたから。ドラマはこういったセリフをオブラートに包みがちだが、大映テレビは堂々と前面に押し出す。

 ありえない話もたっぷり盛りこまれていた。笙子は不良になるまで舞楽を学んでいた。そんなことから、彼女を更正させようとする久樹哲也(国広富之)が雅楽器の笙を吹くと、ケンカ相手と乱闘中であろうが、なぜか舞を踊り始めた。理由の説明はなかった。

『スクール☆ウォーズ』のオープニング映像もあり得なかった。荒れた高校の弱小ラグビー部が7年で高校日本一になる物語ということで、まず麻倉未稀(61)の「ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO」をバックにオートバイで校舎内を疾走する生徒の映像が流れた。

 さらに金属バットで窓ガラスをバリバリと叩き割る生徒、書店で大っぴらに雑誌を万引きし、とがめる店員を殴り倒す生徒らが登場した。当時は確かに今より若者が荒れていたが、これはなかった。過剰で過激な演出だった。

主要人物の「死」に、ぶっとんだセリフ

 惜しげもなく主要登場人物を死なせるのも特徴。このドラマでは家族思いで頑張り屋だった名マネージャー・山崎加代(岩崎良美)を交通事故死させた。部員同士のケンカを止めようしたのが理由で、悲劇の死だった。なぜ死ぬのかよく分からなかった。

 『TOKYO MER』の主人公・喜多見幸太(鈴木亮平)の妹・涼香(佐藤栞里)もテロリスト・エリオット椿(城田優)のつくった爆弾で死んだ。SNS上では悲鳴が上がったが、大映テレビ作品にはこんな例が枚挙にいとまがないのである。『不良少女とよばれて』で笙子の更正に力を貸した久樹もダイナマイトで爆死している。

 セリフも非日常。TBS『少女に何が起ったか』(1985年)ではピアニストの卵の雪(小泉今日子)に対し、刑事の川村(故・石立鉄男さん)が繰り返し「この薄ぎたねえシンデレラ!」と罵った。意味不明だった。

 『不良少女とよばれて』の主人公・笙子と反目した不良少女・真琴(伊藤かずえ)は「恋は壊れやすいのよ、ビタミンCのように」という迷言を口にした。ギャグではなく、真顔で言った。

 TBS『スチュワーデス物語』(1983年)の主人公・松本千秋(堀ちえみ)に向かって村沢浩教官(風間杜夫)が言った「ドジでノロマな亀!」は平成世代でも知っているはず。今、口にしたら、間違いなくパワハラである。

 こんな個性的なドラマがどうしてつくられるようになったかというと、映画会社の大映にいた故・増村保造監督の存在が大きい。東大法学部時代から三島由紀夫の親友で、国費でイタリアに映画留学した超エリート監督である。

 1961年の同『妻は告白する』で主演に起用した若尾文子(88)を大女優に育て上げ、1965年の同『兵隊やくざ』で故・勝新太郎さんの新境地を切り拓いた。天才監督の名をほしいままにした。

 大映が経営難に陥ると、ドラマ界へ。山口百恵さんによる『赤いシリーズ』の主演作では第1作となる『赤い衝撃』(1976年)も撮った。高校の短距離走選手だった友子(百恵さん)の足を、刑事の秀夫(三浦友和)が誤って撃ってしまうという、これまたトンデモナイ筋書きだった。

 増村監督たちは、ドラマとは非日常を見せるものだと考えた一方、映画人らしく、人間の実像を描きたいと思ったという。

 故・宇津井健さんが主演だった1975年の『赤い疑惑』で百恵さん扮する娘の幸子は白血病にかかり、その闘病を恋人の光夫(三浦)が支えた。だが、のちに2人は異母兄であることが判明する。

 愛し合う2人の間に当人たちが知らぬ重大な秘密があり、壁となる。現在の韓流ドラマ風だ。ありえない展開が多いことや主要登場人物が簡単に死んでしまうところも一緒。もちろん、大映テレビのほうが先である。

 大映テレビのドラマは日本の文化なのだ。

高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立

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