終わりなき障害児育児、仕事との両立の難しさ 立ちはだかる「小1」「中1」「18歳」の壁

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2022年05月29日 08:00  AERA dot.

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写真発達障害は多種多様。必要な支援を発信するため、友美さん(左)は学校、教育委員会、福祉や医療機関を駆け回り、幸太くんが過ごしやすい環境を整えている(撮影/山本倫子)
発達障害は多種多様。必要な支援を発信するため、友美さん(左)は学校、教育委員会、福祉や医療機関を駆け回り、幸太くんが過ごしやすい環境を整えている(撮影/山本倫子)
 育児と仕事の両立支援制度は整ってきたが、それらは健常児を想定したもの。障害児は一定の年齢になったからといってケアが不要になるわけではなく、働く親たちは、もがき続けている。AERA 2022年5月30日号の記事から紹介する。


【障害児・疾患児を育てる親が仕事との両立で困ったこと】
*  *  *


 半日近く流しっぱなしのシャワー。目が飛び出るほど高い水道代。


 都内の企業で働きながら、重い知的障害を伴う自閉症の長女(14)を育てる女性(49)は、新型コロナウイルス感染症の流行で小学校が休校になった時期、心が折れそうになった。娘は流れる水の感覚が大好きで、しぶきを眺めていると心が落ち着く。止めれば自傷行為に走る。在宅勤務中は、娘が浴室にこもるのを黙認せざるを得なかった。


 長女が中学3年になった今も、登下校の付き添いは必須だ。家、学校、放課後等デイサービス、それぞれの送迎を担当する人を8人確保し、毎月シフトを組み、毎日引き継ぎの連絡を入れて送迎を依頼している。送迎にかかる費用は、毎月十数万円に上る。


 娘が3歳の頃から預け先を探したが、保育園も幼稚園も軒並み断られた。出張も残業もできない事情を伝えると、問い合わせ窓口の部署に配属してもらえた。女性はこう話す。


「知的障害児を育てる親にとって仕事との両立は死活問題。健常児の子育てとは異なる思いもよらない出費がある。私の死後も続く子の生涯の暮らしを守るため貯金もしておきたい。何としてでも働き続けなければと思っています」


■一定の年齢になっても、登下校や留守番はできない


 国や企業の仕事と育児の両立支援制度は充実してきた。だが、健常児育児と違い、障害や医療的ケアのある子どもの育児には終わりがない。育児・介護休業法に定められた短時間勤務制度や子の看護休暇などは「3歳未満まで」「就学前まで」など期間が区切られているが、障害児は成長しても、一人で登下校や留守番ができない場合も多い。


 2021年11〜12月に新聞・報道関係者でつくる「障がい児及び医療的ケア児を育てる親の会」が「障害児・疾患児育児と仕事の両立に関するアンケート」(回答数260人)を実施した。両立で困っていることとして、半分以上の人が「自分や配偶者が倒れたら家庭が回らなくなる」と回答。回答を男女別に見ると、男性の3分の2は配偶者が就労しておらず、2割弱はパートタイム。一方、障害のある子を持つ女性は配偶者の9割以上がフルタイムだった。また、障害が重く、見守りや介助が必要な子どもを育てている家庭ほど、母親のフルタイム率が低い状況がみられた。




 障害児を育てる母親には、女性、母親、ケアラーとしての「三重の壁」があると指摘するのは、佛教大学社会福祉学部教授の田中智子さんだ。


「障害のある子の親は、『ケアラートラック』を歩み、ケアと仕事の双方に不全感を長きにわたって抱く。日本では、障害のある子の親を親役割に固定化する『社会的な親役割期待』が強い。意識を変えていくことが大切です」


 厚生労働省の集計では、手助けや見守りが必要な児童を持つ母親の就業率は上昇傾向にはあるが、それらを必要としない母親の就業率と比べて低い。実際、障害児の親の就労継続を危うくする「難所」はいくつも存在する。まず、「小1の壁」。


■放デイの開所時間は、親の就労を前提としてない


 都内の報道機関で働く木瀬真紀さん(38)の長男は小児がんの「網膜芽細胞腫」で、生後すぐ受けた抗がん剤治療と手術の影響で弱視になった。今春、小学生になったが、事前に近所の大規模校を見学すると、児童数が多く、休み時間に廊下に人があふれたら知り合いがどこにいるのかわからず、息子がしんどいだろうと感じた。一方、遠距離の小規模校は児童が少なく、先生の目が届きやすい。そこで小規模校へ入学させることに。片道25分かかり、教育委員会からは安全上、毎日登下校時の親の送迎が必須と言われている。さらに、週1〜2回、バスと電車を乗り継ぎ、「弱視通級指導」に通う。同業で共働きの夫と交代で半休を取りながら、通級への付き添いもこなす。


「子の過ごしやすさを取った分、親が付き添う負担は増えた。第一線で働けないジレンマは、普通の子育てより少し大きい感じですね」(木瀬さん)


 2016年に障害者差別解消法が施行され、「合理的配慮」を国や自治体の義務とした。だが実態は地域や学校によって対応に差があり、障害児育児と仕事の両立は難しいのが現状だ。



 都内の制作会社でフルタイムで働いていた友美さん(44)の長男の幸太くん(11)は、4歳で知的障害はない自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠陥・多動性障害(ADHD)だと診断された。


 癇癪(かんしゃく)もあった。夜は寝ず、朝は起きない。登園できる服を着せ「寝せたまま」保育園に連れていった。年中から幸太くんに加配の保育士がついた。だが、年長の夏休みから登園しぶりが強まり、登園が困難に。職場で期限付きのプロジェクトを統括していた友美さんは、「これ以上、仕事の継続は難しい」と判断。保育園は年長の夏で途中退園し、15年続けてきた仕事を辞めた。




 幸太くんが小1の6月頃から教室で過ごせなくなった時、教育支援センターで学校外の居場所がないか相談し、通所の手続きをした。学校の先生とのパイプ役を友美さんが担い、細々と学校とつながり続けたことで、幸太くんは徐々に学校に行ける日が増えていった。


「私が対処する時間を持てなかったら、子どもが支援を受けられず困り続けたと思う。母親が仕事で忙しいと学校の合理的配慮をもらえないなら、障害児の家族が困り続けてしまう。実質的に学内外の教育や支援と家庭とを『つなぐ存在』が欲しいです」(友美さん)


 預け先がなくなる「中1の壁」や「18の壁」もある。


 シングルマザーの女性(44)は、都内でダウン症がある息子(7)と二人暮らし。現在は制限付きながら、フルタイムで働いている。父母は他界し日常的に頼れる親族はいない。週2回残業のため、ベビーシッターを頼んでいる。


 障害のある中高生は、当面の居場所として放課後等デイサービスを使う場合もあるが、夏休みなどの長期休暇は午後4時までなどと開所時間が短く、フルタイムとの両立が厳しい。ベビーシッターも、通常想定されているのは小学6年生までだ。女性は言う。


「息子は小学生になったばかりなのに、今の心配事は、息子が中高生以降になった時の居場所の確保なんです」


■成人期の居場所少なく、フルタイムでは働けない


 高校卒業後の「放課後」の居場所問題はさらに深刻だ。都内に住む男性(45)は非常勤の公務員で、看護師の妻と共働き。双子の息子たち(19)は2人とも障害児。今春、学習障害のある長男は大学生になった。次男は軽度の知的障害と身体障害があり、週に5日就労継続支援B型に通う。施設で過ごすのは午後3時半まで。男性は言う。


「次男の通う就労施設が、青年・成人期の余暇活動を週1回開いてくれる。施設の『持ち出し』だと聞きます。どこの法人もやりたがらないそうです」


 障害児保育や特別支援教育に詳しい鎌倉女子大学児童学部教授の小林保子さんはこう指摘する。


「成人期を迎えた障害のある方が家庭外で過ごすアフター5の居場所がないのは、余暇の場所が福祉制度でカバーされていないから。就労後も余暇を楽しめるよう福祉サービスとして事業所利用が延長できるようにしたり、安全な余暇の居場所を作ったり、制度化が必要です。余暇のあり方は、本人のQOL(生活の質)に一番影響しますし、家族全体のQOLにもつながります」


(ノンフィクションライター・古川雅子)


※AERA 2022年5月30日号


このニュースに関するつぶやき

  • 長男が自閉症だけど産まなければよかったとは思ったことない。 今年は発達障害アドバイザーの資格取ることにした。
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