「普通です。良くも悪くもありません」…完全復活へと歩む山岡泰輔の現在地

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2022年05月31日 06:50  ベースボールキング

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オリックス・山岡泰輔 [写真=北野正樹]
◆ 猛牛ストーリー 【第19回:山岡泰輔】

 連覇と、昨年果たせなかった日本一を目指す今季のオリックス。監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第19回は、右肘手術から完全復活を果たした山岡泰輔投手(26)です。2年連続してケガのため不本意な成績に終わり、昨年は25年ぶりのリーグ優勝にほとんど貢献できませんでしたが、6年目の今季は3勝1敗で防御率1.08と抜群の安定感を誇っている右腕。悔しさをバネに、ケガなくフル回転を誓います。




◆ 自己評価は「普通です」

 「2年間、ケガでチームに貢献できなかったので、シーズンをフルに戦えるように投げていきたい」

 意気込んで臨んだ2022年シーズンは、ここまで中継ぎ1試合を含む9試合に登板して3勝1敗。規定投球回数には2イニング足りないものの、防御率は1.08と好調を維持している。



 しかし、本人の評価は「普通です。良くも悪くもありません」と素っ気ない。

 13勝4敗で最高勝率のタイトルを獲得した2019年の9試合登板時は4勝1敗。当時と遜色ない数字だが「19年は、自分の中では(調子が)あまり良くなくて。勝ち負けはチーム状況にもよりますし」と、単純に比較は出来ないという。


 好調を裏付ける数字がある。四球の少なさだ。今季は50イニングで6つ。与四球率は1.08と、19年の2.38を上回る。

 ストレートの球速は150キロ前後だが、100キロ台のナックルカーブに“伝家の宝刀”となっている縦のスライダーなど、制球よくボールを操っていることを物語っている。

 「去年と比べても、僕の中で特に変わったところはありません。結果として、打者と勝負が出来ているというところじゃないですか」と山岡。

 「普通」とは、いつも通りに自身の思い描く投球が出来ていることの、裏返しの言葉なのだろう。


◆ 日本シリーズの登板は“収穫”

 広島・瀬戸内高校、社会人野球・東京ガスを経てドラフト1位で2017年に入団。172センチの小柄な身体ながら、全身を弓矢のようにしならせる躍動感あふれるフォームで打者に立ち向かい、2019年には最高勝率のタイトルを獲得した。

 2019年と2020年には2年連続で開幕投手を務め、同期入団の山本由伸と並ぶWエースとしてチームの勝利に貢献。しかし、コロナ禍で開幕が遅れた2020年は、2度目の先発登板となった6月26日のロッテ戦(ZOZOマリン)で左脇腹を痛め、1回・打者2人目の途中で降板。その後の体調不良もあり、復帰は8月下旬までかかってしまった。

 さらに昨年も、6月22日の日本ハム戦(京セラD大阪)で1回途中、右肘の違和感を覚えて降板。その後、優勝争いをしていたチーム事情もあり、ファームでリリーフとして登板するなどして調整を続けていたが、痛みは取れず9月に右肘のクリーニング手術を受け、11月の日本シリーズ第5戦で復帰した。

 シリーズでは、同点にされた直後の8回一死から5番手として登板。ヤクルト打線を無安打・無失点に抑え、勝利投手に。1勝3敗の崖っぷちからチームを救い、「神戸に戻る」というファンの期待に応えた。


 肘にメスを入れてから69日。「たくさんのファンの方が待っていてくれたことを、肌で感じた。あの場面で使っていただいた監督、コーチに感謝している」と振り返る。

 寒さが増す時期での復帰だったが、「(逆算して)シリーズで投げることが出来る状況だったので、そこだけを目指してリハビリに専念した」といい、決して間に合わせようと無理をしたことはないそうだ。

 それでも、シリーズに登板することができたことは、今季につながる大きな収穫だった。

 「向こうに行きかけた流れを、何とか自分の力で変えたいと思ってマウンドに立った。ああいう場面で投げられる、投げられないでは、経験として全然違う。また(シーズンの最後に)打者に投げて終われたことは大きかった」という。


◆ 「教えられることは、教えています」

 髪の毛を金髪に染めるなど、やんちゃなイメージもある山岡だが、考え方はいたって真面目。意気に感じて投げる投手だ。

 2019年には、就任1年目の西村徳文監督が開幕前のミーティングで選手に語りかけた「信は力なり」の言葉を忘れないようにと、登板時に「信」の字をマウンドのプレートに書いて臨んだ。

 2016年のドラフト指名直後には、福良淳一監督(現・GM)の「チームを変えてほしい」との伝言を牧田勝吾スカウトを通して聞き、入団が合意した際には「1年目からチームを変えられるような投球をしたい」と語っている。

 「力のある選手だから、ですね。1年目からチームを変えてほしい、と直接会った時にも話しました」と福良GM。就任1年目、4年ぶりの最下位を受け、チームを活性化してほしいとの思いを込めた指揮官の言葉でもあった。


 普段から「周りは気にしない」というから、意識的にチームを変えようとしたわけではないだろう。

 「チームが変わって良かったなとは思いますが、僕が変えたわけではない。(そうしたことは)周囲が判断すること」というが、野球に対する考え方や練習への取り組み方などは若手投手たちの目標となり、夏場の練習方法を聞きにくるなど慕う選手は多い。

 「教えられることは、教えています」。飾らない性格で若手投手の兄貴的な存在が、若手投手陣の結束力も含めてチームを変えていったことは間違いない。


 「野球を始めた中学から、本格的に投げ方を教えてもらったことはないんです」という。

 試行錯誤の末、自分で作り上げたものだから、フォームの微妙なズレも自分で気付ける。「周りの人からのアドバイスもあるので、そこは参考にして当てはめるという感じ」という。

 ベースがあるから、調子を崩しても迷い込むことなく、すぐに修正することが出来る。そんな技術的な信念があるからこそ、後輩からも頼りにされるのだろう。


◆ 「続けることが大切」

 立ち上がりにも、独特の考えがある。そのひとつが奪三振。初回に三振を奪うことは、山岡にとってあまり良いことではないそうだ。

 「序盤に三振が取れるのは、状態が良いと言えますが、自分の中でイケイケになってしまうのが好きじゃなくて。徐々に自分のペースでやりたいというのがあって、狙っていってるわけでないのに三振が取れるのは自分のピッチングではないんですね。いつもと違うことなんで、打者が違うのか、自分が違うのか、修正が必要なのかと考える必要が出てくる。それが嫌なんです。予想外のことが起きてほしくないというだけです」

 緻密に配球を組み立てて打者と勝負をする山岡にとって、立ち上がりはそれほど繊細になっているということなのだろう。


 身体能力の高さにも定評がある。昨年の開幕カードの西武戦でのこと。ブルペン脇のグラウンドで、後ろ向きの山岡が高さ1メートルはあるラバーフェンスにフワッと飛び乗った。

 軽業の秘密は、地元・広島の「Mac′s Trainer Room 」での自主トレにある。積み重ねた四角い箱に飛び乗るボックスジャンプや、パイプの上を忍者のように渡っていくパルクールトレーニング。瞬発力に加え、パルクールではバランス感覚も求められ、体幹を鍛えて自分の体を思い通りに動かす練習にもなる。

 今年の自主トレから参加した2年目のドラフト1位右腕の山下舜平大は、「見た目以上に難しい。スイスイとこなしていく山岡さんの身体能力は本当にすごい」と驚いた。

 「(高校から)続けてきたから、今の自分がある。(合う、合わないは)人それぞれで、続けることが大切。続けられない人は、何をやっても……。自分の信念じゃないけど、これっていうものを、何を言われても続けることが出来るかどうかが、プロの世界で活躍できるかどうかだと思っている」と語る。

 ボックスジャンプやパルクールは自費で購入。普段は本拠地・京セラドーム大阪のトレーニングルームに置いてあるが、キャンプ地にも運んでもらい、他の選手にも使ってもらっている。


◆ 「肘は何ともない」

 切磋琢磨し、開幕投手を競った山本由伸とは数字の面で差がついてしまった。

 それでも、「同期として入った時から、このくらいはやる選手だと思っていた。やっぱりな、という感じ。なんとかそこに食らいつきたいと思わせてくれる選手かな」と語る。

 「追いつきたいと思う選手が多ければ、チームは上に行くと思う。そんな選手の一人になりたいと思う」とも。

 その言葉からは、東京五輪でも活躍を見せるなど日本のエースにまで登り詰めた年下の山本に気を遣わせたくないという思いも感じさせた。


 ダイヤモンドの出入りに、ひとつの“儀式”がある。

 マウンドに登る時は一塁側に向かって体を横にして、スキップするように軽くジャンプをしてファウルラインをまたぎ、ベンチに戻る際は本塁側を向いて同様にラインを飛び越える。リズミカルな動きから、SNS上でファンの話題になったこともある。

 「いつからやっているのか覚えていませんが、プロになってからかな。自分が気持ちよくマウンドに上がれればいいだけなんで、歩いてリズムよく投球ができるのなら歩けばいいし。無意識にやってます」という。


 「肘は何ともないですね」

 不安なく迎える今季10試合目の登板は、31日のDeNA戦(横浜)。リズムよく投げ込んで、チームに勢いをつけたい。


取材・文=北野正樹(きたの・まさき)
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