にじさんじ・家長むぎはキュートな声で思考する。その鋭敏な感性と文才に迫る

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2022年06月04日 12:11  リアルサウンド

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家長むぎ(C)ANYCOLOR

 現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。


 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ1年ほどはエンターテインメントのフィールドで、アーティストとして日の目を見る者も増加している。


 今回は元二期生のなかでも、家長むぎの奥ゆかしい魅力について記していきたいと思う。


【動画】「人生の短さ」について哲学する家長むぎ


 2018年3月12日にMirrativにて初めて配信し、VTuberとしてデビューした家長むぎ。小柄な体格、明るいブラウンに染めたロングヘアー、ピンクと白の縞々柄の部屋着をゆるく着込み、首からも同じくピンクと白のヘッドホンをかけた姿が特徴的。


 少し内気な性格、活舌・発音がすこし甘めで舌足らずな口調と、より幼さを感じさせやすい彼女なのだが、会話を始めるとドンドンと進めていく会話好きな面も見えてくる。なによりあどけなさすら感じさせるウィスパーな声は、リスナーはおろか、彼女を知らない人にも引っかかるものがあるようだ。


 元2期生である剣持刀也、森中花咲、文野環、伏見ガクらとは仲が良く、かわいい見た目からは想像もできないほどに鋭い舌戦を繰り広げることもしばしば。同期の夕陽リリへの愛情は強く、「関係性に名前をつけて縛りたくないと初めて思った」と面と向かって語るほどだ。家長、夕陽、剣持、伏見とは「ハッピートリガー」としてファンに親しまれてきたことも特筆すべき点だろう。


 「ボカロ曲を通じて哲学について興味が湧くようになった」と語り、重度の文系気質ということも相まってかなりの本・読書好きとしての一面がある。


 とある配信内であげた好きな本をいちど挙げてみよう。


アイリス・ゴットリーブ・野中モモ「イラストで学ぶジェンダーのはなし」
青木志貴「わがままに生きろ。」
品田遊「止まり出したら走らない」
村田沙耶香「コンビニ人間」
嶽本野ばら「世界の終わりという名の雑貨店」「ミシン」
古市憲寿「平成くん、さようなら」
星野源「そして生活はつづく」「よみがえる変態」「働く男」


 ジェンダー論・小説・エッセイと幅広いジャンルからオススメの一冊この配信で紹介しており、以前にはニーチェ「善悪の彼岸」「悦ばしき知識」やエンデの「はてしない物語」などを挙げ、さまざまな学びを得てきた読書経験をリスナーに話してきた。そんな彼女は、2020年11月30日からスタートした自信のnoteを通して、さまざまな文章を残している。


 最近起こった出来事を振り返る日記の形でありつつ、その語り口は外の風景と心の風景を多彩な言葉づかいで綴られたエッセイとして完成されている。すでに起こってしまったことを振り返りながら、いまだ自分でも掴めきれていない感覚をもキャッチしようと言葉にするその様は、彼女の心理・思考の揺らぎや跡を読み手にもより深く伝えてくれるだろう。


 noteだけではなく、にじさんじファンクラブなどでも彼女の文章を読む機会がある。にじさんじのなかでは来栖夏芽がライトノベル作家としてデビューを果たしたが、家長むぎもまた一人の書き手としてイビツながらも強い輝きを持っているといえよう。


 そんな彼女が「ライバー人生で一番楽しかったかもしれない」配信としてTwitterにも書き残した配信がある。


 ストア派哲学者であり、第5代ローマ皇帝ネロの側近として支えたルキウス・アンナエウス・セネカの著書「生の短さについて」を冒頭にあげて始まったこの配信は、家長が会話をリードしつつ、リスナーがそれに合わせて応答するという内容となった。


「頭がいいっていうのは、人に合わせたレールで話ができる人じゃないかと思う」
「学歴を全てだと思って生きていくのは、寂しいことだと思いませんか?」


 リスナーとの対話は、人生とは?努力とは?VTuberの卒業・引退とは?そして「家長むぎとは?」と綿々と続いていく思考の連続。「コメント欄にカワイイとか一切ない!コメントが長い!」「こんな話ができると思わなかった!みんな!楽しいね!」と声にあげる家長むぎ。口調はウキウキとしたものであり、にじ3Dで描かれた顔には笑みが零れた。


 「知能が欲しい」と雑談中の彼女の口から零れることがあるが、その意味は単なる「頭がよくなる」という意味に留まらないのが伝わるだろうか。なにより、にじさんじにおいてここまで理性的・哲学的な思考に純粋な喜びの声をあげるのは、彼女だけかもしれない。


 デビュー当初、大小さまざまなイベントに参加していた彼女。ABEMAで放送されていた『にじさんじのくじじゅうじ』に元一期生とともに出演し、今年2月の復活配信にも登場していた。


 また、そのウィスパーボイスは元二期生のなかでも特徴的で、ソロ・コラボでも歌動画に関わらず多く配信してきていた。


 そんな彼女を過去の配信アーカイブから知ろうとすると、意外なほどにそのアーカイブが残っていないことに驚くファンもいるだろう。実は非公開・限定公開に設定されたアーカイブが多く、どこか神秘性をもった人物にも受け取れる。


 活動開始から4年のなかで彼女は何度か体調を崩して休んでしまっていたが、2021年12月14日の配信で、心身の不調から積極的な活動を控えることを発表した。


 その後は配信頻度をグっと落とし、月イチペースでの配信を届け、先述したような文才ある執筆や、TwitterやInstagramを通じて日々について報告している。


 「引退はしない」「配信などはこれからも頑張っていきたい」「過度に負荷をかけずにいきたい」と前向きに語っており、穏やかな生活とマイペースな活動を通し、繊細かつ鋭敏な感性と思考力を届けてくれる彼女。人一倍に深い洞察力とあどけなさが残った可愛さというギャップと魅力は、より多くのひとに知られていいはずだ。(草野虹)


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