「今後につながる投球をしないと」…オリックス・増井が口にした覚悟

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2022年06月09日 06:30  ベースボールキング

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「悔いの残らない投球をしたい」と今季初登板に臨む増井浩俊 [写真=北野正樹]
◆ 猛牛ストーリー 【第20回:増井浩俊】

 連覇と、昨年果たせなかった日本一を目指す今季のオリックス。監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第20回は、9日のヤクルト戦で今季初登板・初先発する増井浩俊投手(37)です。プロ13年目のベテランはすでに12球団からセーブとホールドを挙げており、ヤクルト戦で勝利すればNPB史上初の「12球団勝利・セーブ・ホールド」を達成します。




◆ 6月の初登板は「初めての経験」

 「自分にとっての開幕戦。今後につながるピッチングをしないと、最後の一軍のマウンドになってしまうので、悔いの残らないように投げたいと思います」

 いつも通り穏やかな表情、優しい口調から飛び出した「最後の一軍のマウンド」という言葉。一瞬ドキッとさせられたが、それほどの覚悟を持って臨むマウンドになる、という意味だろう。



 ゼロからスタートする決意で臨んだ2022年の春季キャンプだった。

 前年はキャンプ中盤に左太ももの大腿二頭筋の筋損傷で離脱。オープン戦終盤には間に合わせたが、チーム事情もあって先発・中継ぎと目まぐるしく役割が変わり、登板はプロ1年目の13試合に次ぐ15試合で、3勝6敗にとどまった。

 「先発か中継ぎか分からず、自分が投げる場所を勝ち取っていかなければならない、という感じ。アピールしていかなくてはいけない」と、戸惑いがちに自身の立ち位置を表現して臨んだ今春のキャンプ。

 第3クールまでは、「本当に順調。でも、年齢も年齢なので張り切り過ぎないように無理しないというか、張り切ってやるほどのことでもないのかな」と、仕上がりを抑えるほど順調な調整を続けていた。


 しかし、中盤の第4クールで右肘に違和感が。「イメージと体の動きにギャップがあり、筋肉がついてこない時がある。自分の動きを頭で理解して、その中で全力を出したい」と常にギャップを意識していたが、出力を上げた結果、炎症が起きてしまった。

 幸い大きな故障ではなく、キャンプ中には投げられる状態になったが、「(キャンプ中に)一回出遅れると(積み上げてきたものが)ゼロになってしまい、時間がかかってしまう」ことから、2年連続の出遅れに。
 
 ウエスタン・リーグでは、主に先発で8試合に登板し、1勝1敗。長いイニングを任されるということで、直球とフォークボールで抑える投球から、緩い変化球を交えて打たせて取る技巧派に変身。防御率5.50は、「調子が良いと感じて、調子任せにストライクゾーンの甘めにボールを集めてしまったり、マウンドが合わずに苦しんだりしたこともあった」からだという。


 一軍先発陣の充実もあり昇格機会は巡って来なかったが、ローテーション再編によって交流戦の対ヤクルト第3戦で先発登板のチャンスがやって来た。

 「先発陣が安定し、なかなか(昇格の)チャンスもなく、僕自身もファームでピリッとしなかったこともあった。もらったチャンスかもしれないが、2度とないかもしれないんで、一生懸命投げたい」と増井。

 悲壮感の漂うコメントになってしまうのは、そこまで追い込まれていたということなのだろう。

 「プロに入って13年。6月まで一軍のマウンドがなかったことはないんで。初めての経験なので、焦りというか、これまでとは違うなというのは感じますよね」と吐露した。


◆ 「12球団完全制覇」の大偉業へ

 プライベートではキャンプにハマっているという。コロナ禍で“密にならないアウトドアレジャー”として注目を浴び、YouTubeなどで公開されている動画をキッカケに関心を持ち、昨年3月から始めた。

 テントを張り、タープの下で肉や野菜を調理する。ランタンなど道具へのこだわりはないが、朝のコーヒーは手回しのミルで豆を挽き、風味を味わうのが至福の時間だ。


 休日前の夕方に出発する1泊2日の日程。インターネットで検索した大阪・北摂方面の能勢町や豊能町、京都府城陽市などのキャンプ場で一人の時間を過ごす。

 小鳥のさえずりで目を覚まし、時間の流れに身を委ねる。日本ハム時代から続く、長い単身生活。焦りや不安から、心と身体を開放してくれる何よりも大事な時間なのだろう。

 キャンプ仕様に、愛車も替えた。「BMW i8」からコンパクトながら荷室が広い「ミニクーパー」に。「アウトドアの荷物が乗らなくて、スポーツカーはいったん止めました」という徹底ぶりだ。

 出身地の静岡には、「キャンパーの聖地」ともいわれる富士山の麓に広がる「ふもとっぱらキャンプ場」がある。「行ってみたいですね」と目を輝かせた。


 直近では、チームメートの澤田圭佑投手を誘い「キャンプデビューをさせました」。

 それを聞いた山本由伸も「朝、鳥の声で起きるとか。誘ってもらえるように近くに寄っていって、アピールはしています」と関心を示しており、体を鍛える「キャンプ」から体を休める「キャンプ」がチームで流行るかもしれない。


 FAでオリックスに移籍して5年目。調子の良い時、悪い時に関わらず、どんな取材、質問にも真摯に対応する。その姿に、担当記者だけでなくメディアにファンが多く、復活を願う声は多い。

 今月26日で38歳。東京のマンションでは、妻と小学5年の長男、3年の二男と幼稚園年少組の長女が、父の活躍を待つ。

 昨年のヤクルト戦では先発で5回を2失点と好投したが、降板後に逆転されて“偉業”は持ち越した。

 1年ぶりに整えてもらった舞台。「12球団完全制覇」を、さらなる飛躍のきっかけにしてほしい。


取材・文=北野正樹(きたの・まさき)
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