新田真剣佑、なぜ“ラスボス”に? 『ハガレン』『るろ剣』で見せるキャラクターの深み

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2022年06月20日 08:01  リアルサウンド

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新田真剣佑『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー/最後の錬成』(c)2022 荒川弘/SQUARE ENIX (c)2022 映画「鋼の錬金術師2&3」製作委員会

 顔に“十字傷”のある者を探していた男が、今度は自らの顔に“十字傷”をつけてスクリーンに帰ってきたーー。


 そう、『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』に出演の俳優・新田真剣佑のことである。1年前に公開された『るろうに剣心 最終章 The Final』で雪代縁役として、仇である十字傷の男・緋村剣心(佐藤健)を追い詰めた彼が、現在は鋼の錬金術師のエドワード・エルリック(山田涼介)を追い詰めているところなのだ。新田とは、“ラスボス”の役を見事に体現してみせる俳優である。


【写真】雪代縁を演じた新田真剣佑


 『復讐者スカー』で新田が演じているのは、タイトルロールであるスカーという男。とはいえ「スカー」は本名ではなく、額に大きな十字傷(スカー)があるために周囲がこう呼んでいるだけだ。タイトルに「復讐者」とあるように、彼の行動原理は強烈な復讐心のみ。主人公のエドたちが生まれ育ったアメストリスの軍部に殲滅されたイシュヴァールの民の生き残りであり、この大戦で戦果を上げた国家錬金術師らの命を狙っているというわけだ。さすがは新田真剣佑。マンガを原作としたこれまでの出演作と同様に本作でも見事な肉体づくりはもちろんのこと、作品世界に没入し、徹底してスカーというキャラクターのリアリティを追求しているように思う。彼の存在こそが私たちを物語の世界へと引きずり込むのだ。


 2017年に初めて『鋼の錬金術師』が実写化された際、さまざまな厳しい意見が飛び交ったことを鮮明に覚えている。原作ファンやアクション映画ファンのこだわりは強く、出演している俳優たちのファン、この手のCGを多用した映画のファンなどはまた違う視点を持ち、それらを愛していればいるほど見方は厳しくなって当然だ。しかし何より難しいのは、西洋人らしきキャラクターたちを日本の俳優が演じていること。そうなるとやはりどうしてもコスプレ感が生じてしまうわけだが仕方がない。例えばこれが舞台だったとすれば、いわゆる2.5次元作品の一つとして、演者と観客は積極的にこの“嘘”をともに楽しむことができるだろう。しかし実景が登場する映画だと多くの場合、この“嘘”はネガティブな要因にしかならない。いかに真実らしい作品に仕立てられるか、これがカギだ。そのために演じる俳優たちは全力である。観客にできることは信じることだけだ。


 本シリーズへの新田の参加は、観客の“信じる”という行為を肯定し、私たちの期待に十二分に応えるものになっていると断言したい。先述しているように肉体づくりによる見た目のリアリティはもちろんだが、特筆すべきは内面の表現だ。スカーはアメストリスの錬金術師たちの手によって、大切なものをすべて奪われた。そこで彼の内に生じた悲しみや憎しみが今作で描かれる物語の主軸であり、この感情が露呈すればするほど、作品は太く大きくなる。つまり、“スカー=新田真剣佑”がどのようにあるのかが、本作の手触りを決定づけるのだ。過去の記憶を訥々と語る際の虚ろな瞳と冷たく震える声は、スカーが内に抱えている底知れぬ喪失感を示し、エドたちに向けた鋭い眼光と咆哮は、彼の怒りの大きさを訴えている。設定上でもスカーはただの悪役ではないが、新田の一つひとつの表現が、キャラクターに多面的な深みを与える。アクションシーンがあるためスカー役にはフィジカルの強さも求められるが、それ以上に重要なのは、あまりにも重いものを一人で背負う彼のメンタリティなのである。


 本稿の冒頭でも触れているように、新田は『るろうに剣心 最終章 The Final』でもラスボス的ポジションを担った。同作で演じた雪代縁も復讐のためだけに生きる男であり、スカーに近しい役どころだっただろう(ただし、錬金術師だけを狙うスカーに比べ、目の前のすべてを破壊する縁の方が圧倒的に残虐性は上である)。スカーにしろ縁にしろ、演じる役の背景までを新田が物語ることができなければこのキャラクターたちはもちろんのこと、作品そのものの手触りがまったく違うものになっていたはずだ。両作が単なる勧善懲悪モノに陥っていないのは、シナリオ上そうなっているだけでなく、新田がラスボスを演じているという事実がもっとも大きい。フィジカル面、メンタル面、ともに演じるキャラクターが背負っているものを彼は体現してみせる。原作キャラの再現ではなく、体現だ。キャラクターの持つエッセンスをベースとしつつ、彼は新たに縁とスカーを生み出した。新田真剣佑は、若くして総合力の高い俳優である。同世代の俳優で、彼ほどラスボスを演じるのに相応しい俳優はそういないだろう。


(折田侑駿)


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