IT革命と投手優位の時代【球界の「投高打低」現象を読み解く】

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2022年06月23日 18:42  ベースボールキング

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ベースボールキング

西武の山川(右)とオリックスの山本(左) (C) Kyodo News
◆ 第4回:ITの活用によって飛躍的に進歩した投手の技量

 投手力と打撃力。言葉の響きから言えば投手力とは「守り」を思い浮かべる。打撃力は「攻撃」のイメージで、攻めるもの。だが、昨今の「投高打低」は改めて、投手が攻めて、打者は受け身であることを再認識させた。

 つい数年前まで、150キロの投球は「剛速球」と言われた。だが、今はどうか? 高校生のドラフト候補生の多くは150キロのストレートを記録する。プロの世界では甘いコースに投じられた150キロをいともたやすくスタンドまで叩き込む。投手の進歩に合わせて、打者が研究と進化を遂げたからである。


 しかし、今また、投手が著しい進歩を見せている。その最大の要因はITの活用にある。

 エンゼルスの大谷翔平選手やパドレスのダルビッシュ有投手が日頃の練習から活用しているのがトラックマンと言う動作解析の機器だ。日本では2014年に楽天が初めて採用、今では12球団すべてで活用されている。プロどころか、アマチュアでも採用するチームは少なくない。

 トラックマンとは、元々は軍事用のレーダーを野球やゴルフに転用したもの。MLBでは、さらにデータ解析が進みグラウンド上の選手の位置や打球方向まで数値化する「スタットキャスト」の一部としてトラックマンを活用している。メジャーでよく目にする極端な守備シフトも、ITから弾き出されたデータによるものだ。

 MLBで言えば数年前に「フライボール革命」によって本塁打数が飛躍的に伸びた時代がある。打者が遠くに飛ばすためのスイングスピード、ボールにバットが当たる時の入射角、さらには打球の飛ぶ角度などが数値化されて行った。

 これが「打高投低」現象とすれば、今は真逆の時代に突入したことになる。投手たちの研究がトラックマンによって、大きく進んだからである。

 日本では、西武・平良海馬、オリックス・山本由伸投手らが早くから導入したトラックマンによる動作解析は、今では多くの投手が取り入れている。

 投球時のリリースポイントの位置から球速、回転数やボールの変化する軌道までを可視化、それを見ながら改善を加えていくのだから投手全体の技量は上がる。


◆ 投手と打者が互い攻略ポイントを探し出す「いたちごっこ」

 あるテレビ番組でダルビッシュはこう語っている。

 「メジャーでも手元で微妙に動くボールが有効な時期があった。しかし、打者も研究してくると少しの横の変化では通用しなくなる。個人的には高めのフォーシームと低めに沈むスライダーを意識して投げている」

 フライボール革命によって、打者のスイングはアッパー気味になれば、高めの速球が有効になる。そして高めに「目付け」をさせて、低めのボールゾーンに伝家の宝刀を投じるのがダルビッシュの料理法だ。日本でも捕手が中腰で高めのボールを要求するケースが増えている。トレンドは、またたくうちに広がる。

 これまでは比較的、経験則で伝えられてきた投手へのコーチングだが、トラックマンのようなIT機器の採用によって大きな変革の時を迎えている。

 より良い動作解析によって、ロッテの佐々木希投手が170キロの快速球を投じる日も夢ではない。個人がスピン量の改善をすることで「決め球」を習得すれば、先発ローテーションに入って来る確率も高くなるだろう。

 逆に言えば「受け身」である打者は、これからの研究次第で打ち取られているボールを攻略することも可能だ。投手と打者は互いに相手の攻略ポイントを探し出すことの繰り返し。「いたちごっこ」と言ってもいい。

 6月18日の西武戦ではオリックスの山本由伸がノーヒットノーランを記録。開幕から3カ月で完全試合を含めて4度の快記録は異常なほどの「投高」ぶりだ。

 投手に疲れの見え出す夏場は打撃戦の多くなる時期だが、果たして今年の「投高」はどこまで続くのか? 打者の反撃もまた見ものである。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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  • 千葉ロッテの超低打の原因は、現役時もまともに撃てなかったくせに、打撃コーチをしてる河野亮、その補佐伊志嶺の過失は重大。さっさとクビにしろ、で、お前も責任取れ無能井口。
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