富士山が噴火!? その時、日本は――“災害DXベンチャー”がSFで描く未来 無人航空機が果たす役割とは

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2022年06月25日 09:02  ITmedia NEWS

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写真テラ・ラボの無人航空機「テラ・ドルフィン」のイメージイラスト
テラ・ラボの無人航空機「テラ・ドルフィン」のイメージイラスト

 こんにちは。SFプロトタイパーの大橋博之です。



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 この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語ります。僕がさまざまな企業と共に実践しているSFプロトタイピングの事例はもちろんのこと、企業の先進的な事例、有識者へのインタビューなども加えてSFプロトタイピングの現状や取り組む方法、効果などをレポートします。



 今回は僕が行ったSFプロトタイピングの事例を紹介します。取り上げるのは、無人航空機を活用した広域災害システムの研究開発を推進するベンチャー企業のテラ・ラボ(愛知県春日井市)です。



●自治体の「災害対策DX」に取り組むベンチャー企業、テラ・ラボ



 日本でさまざまな自然災害が多発していることは、多くの人が知るところです。2011年3月11日に発生した東日本大震災をはじめ、地震や大型台風、豪雨など枚挙にいとまがありません。自然災害はいつ、どこで起こるか分からず、日本全国どこも安全とはいえない状態です。



 もはや災害は人ごとではなく、自然災害に対して常に備えておくことが必要です。個人でできることはもちろん、自治体の対応も不可欠といえます。自治体が効果的な対策をする上で重要になるのが、テクノロジーの活用です。



 テラ・ラボは全国の自治体に向けて「災害対策DX(デジタルトランスフォーメーション)」を打ち出し、無人航空機「テラ・ドルフィン」など災害時の情報収集に役立つ多様なテクノロジーの開発に取り組んでいます。



●災害時の情報収集、その重要性が伝わらない――取り組みを具体的に見せる方法



 精力的に活動するテラ・ラボですが、「災害時には情報収集が重要だ」と訴えても、それが伝わりにくいという課題がありました。そのため、災害時にテラ・ラボのテクノロジーがどのように稼働し、なぜ人々の役に立つのかを具体的に見せる必要がありました。



 その課題を解決すべく制作したのが、ショートムービー「空飛ぶイルカ」(監督:柴田啓佑)です。空飛ぶイルカの制作には、東日本大震災での津波および福島第一原子力発電所事故による影響を受け、復興に取り組んでいる福島県南相馬市が協力しています。ムービー本編では、大規模災害の発生時にテラ・ドルフィンが災害対策本部などと連携してどのような役割を担ったのか、地域社会にどう貢献できるのかを描いています。



●テラ・ラボとのSFプロトタイピング「災害監視用無人航空機」



 テラ・ラボと実施したSFプロトタイピングでは、僕がテラ・ラボの代表である松浦孝英氏にヒアリングしてテラ・ラボの未来構想を伺いました。そこからイメージを膨らませて、10年ほど先の近未来を想定したSF小説「災害監視用無人航空機」を作り上げました。



 災害監視用無人航空機は、次のような内容です。舞台はテラ・ラボの拠点がある静岡県富士市。事件もなく平穏な日常がすぎる日々だったが、ある日、事態は一変する。富士山が噴火したのだ。ドローンを飛ばして状況を把握しようとするが、どれも墜落。無人航空機のテラ・ドルフィンでも自然の猛威には歯が立たなかった。誰もがうなだれ絶望していたとき、テラ・ラボの本社から新型のテラ・ドルフィンが到着する――



 作品の著者名は「瀬見kaito」です。僕が小説の基本構想を作り、それをベースにセミプロ作家のkaito氏に物語を執筆してもらいました。そこからさらに僕が加筆してkaito氏が整えるといった工程で作った合作なので、僕のペンネーム「瀬見」とkaito氏の連名になっています。



 今回はテラ・ラボの松浦氏に、完成した災害監視用無人航空機を読んで頂いて感想などを伺いました。



●将来の世界観は、ストーリー化して見せないと伝わらない



大橋 災害監視用無人航空機はいかがでしたか?



松浦 とても面白く読みました。情景を思い浮かべられる内容になっていると思います。



 実は過去にもマンガやゲームを作ろうといった話がありました。その場合、きちんとしたストーリーが必要だと思っていました。というのは、例えば2050年くらいを見越したストーリーを描いて見せることで、資金調達や行政機関などさまざまな機関への協力依頼をしやすくなるからです。



 ショートムービーの空飛ぶイルカを制作したのもその意図があってのことです。ただ、空飛ぶイルカは、現代のテラ・ドルフィンがどう役に立てるかを示すにとどまっています。



 テラ・ラボでは今後10年以内に日本全国で5カ所ほどの拠点を作り、5台の無人航空機を配備して日本全体の地図を作ろうと計画しています。そうすれば大規模な災害――例えば南海トラフ地震が発生したとき、災害場所の地図を過去の地図と比較して被災状況を把握できます。また、そのデータをクラウドにアップし、さまざまな機関と連携すれば被害を最小にできます。



松浦 さらにテラ・ラボでは将来、成層圏の近くまで飛行できる無人航空機の開発を考えています。高高度で地上を撮影すると、衛星から撮るのと変わらない画像を豊富に撮れます(成層圏まで飛行できる機体を配備したとしても、高高度と低高度の機体を複数運用する必要はあります)。



 また日本だけでなく、アジア全体を飛び続けて情報収集できるシステムの開発まで発展させていくつもりです。さらに内閣府の「ムーンショット計画」に向けてもダイナミックなストーリーを描く必要があると考えています。



 ここまで紹介してきたような世界観は、ストーリー化して見せないとなかなか伝わりません。日本の国策と未来の政策提言とSFが合体したようなストーリーにできると、インパクトがあると考えていました。



大橋 災害監視用無人航空機は、そこまで壮大な未来構想を落とし込んだ作品ではありませんが、テストケースとして作成させていただきました。ヒアリングで全国に5カ所の拠点を作る計画だと伺ったので、小説内では、静岡県富士市に拠点を作ってみました。



松浦 テラ・ラボの飛行機が1機体で500〜1000kmをカバーできるので、全国5カ所の拠点で日本全土を網羅できます。富士山の場合、中部地方からでも首都圏からでも飛んでいくことが可能です。でもあえて富士市に設置したというのは、面白い視点だったと思います。



 ちなみに、無人航空機にこだわるのには訳があります。火山が噴火すると、噴煙が上がります。2022年1月28日の桜島の噴火で3000mほど、2022年1月15日のトンガのフンガ火山では20kmほどまで噴煙が上がりました。すると、より高い高度から情報収集をしなければいけません。噴煙より高い所を飛ぼうとすると有人飛行機では限界があります。どのような限界があるかというと、煙です。エンジンが煙を吸い込むと止まってしまうリスクを考えらます。そのため無人航空機の方が、例え墜落しても被害を抑えられます。



●新しい技術を社会実装する その訓練を物語でやる



大橋 ヒアリングで「日本には運用されていない空港がたくさんある」と聞いたので、僕も調べてみたら富士山の近くに三保飛行場など災害時用の空港がありました。



松浦 テラ・ラボとしてはわざわざ空港を作るのではなく、そのような空き空港を活用して、そこを拠点として整備できればと考えています。



 5機でデータを収集し、本社でコントロールしてさまざまな政府機関や行政機関、報道機関にデータを提供することを構想しています。



 また、災害が起こると、そこにある拠点は機能しなくなると思います。南海トラフ地震が発生すると中部地方の滑走路は機能が停止する可能性がある。すると他の拠点から情報を収集しに行く、後方支援をする必要もあります。そうして集めた情報はクラウドにアップして、日本国内だけでなく世界中に状況を伝えていく、そんなシステムこそテラ・ラボの将来像のイメージです。



大橋 災害監視用無人航空機でも富士市の拠点がピンチになって、名古屋本社が支援にかけつけるというお話にしてみました。実際のところ、構想の実現に向けたテラ・ラボのスケジュール感はどのようなものでしょうか?



松浦 現段階で1台が完成しています。5年以内には2〜3台が完成する予定です。



大橋 テラ・ラボの無人航空機が日本中の空を飛ぶわけですが、実際に飛行させることは可能なのですか?



松浦 日本における無人航空機の機体認証のテストモデルを、テラ・ラボが果たそうとしています。こうした取り組みが評価され、政府の関係機関もテラ・ラボに期待してくれています。このようなことも2〜3年前までは夢物語でした。



大橋 災害監視用無人航空機では、10年先を描いてみました。本当に富士山が噴火するかどうかは別にして、スケジュールよりも早く10年以内に理想的な対策が取れるようになるかもしれませんね。



松浦 そうです。そのためには、社会実装も大切ですが、夢を描くことも大切です。ゴールを見せてそこからバックキャスティングする。実装化するための訓練をストーリー(物語)でやる必要もあります。



大橋 SFプロトタイピングはまさに、バックキャスティングの手法です。どのような未来を描き、そのために、今、何をすれば良いのかを考えることが大切だと思います。



 SFプロトタイピングは、ただの夢物語ではなく、テクニカル的なことも重視しないといけないことです。テラ・ラボの事例では、無人航空機の最大飛行速度はどれくらいで、飛行距離はどれだけかといった情報を把握してないとリアリティーは出てこないと考えています。



松浦 災害も同じです。SF作家・小松左京の小説「日本沈没」が現実に起こるかは疑問ですが、南海トラフ地震や災害監視用無人航空機で描いた富士山の噴火はいつ起こっても不思議ではない状態です。



 災害が起きるとさまざまな事故が誘発される可能性があります。そのような事故や危機対策を、市町村の危機対策部署の在り方から考えなければなりません。将来的には日本全国の危機対策部署のシステムを統合する必要があるし、情報収集や発表の仕方を抜本的に変えていかなければならないと思っています。



 テラ・ラボでは実際に、中部地方で社会モデルを作る動きを始めようとしています。リアルとSFが融合した物語が求められているとも言えます。



●誰も知らないシチュエーションのシナリオを形にするそのとき、SFプロトタイピングが有効になる



大橋 日本全国の危機対策部署のシステムを統合することは、日本政府が取り組むべき課題ですよね。



松浦 アメリカには「アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁」(FEMA)があります。これは、大災害に対応するアメリカの政府機関です。日本でも危機管理を担う新しい省庁を作らないといけないと考えます。



大橋 それもヒアリングで聞いたので災害監視用無人航空機では「防災庁」を作りました。物語だけを読んだ人は「こんな庁はない」と思うでしょう。



松浦 日本では災害が起きたとき、災害本部は自治体と自治体の長が本部長を担うと定められています。これは「自分達の街は自分達で守ろう」という意味合いでとてもいいことです。



 しかし一方で、市町村が手を挙げないと国としては支援体制が取れないという欠点もあります。市町村が災害対策の軸になりつつ、一方で国を挙げて支援できる体制にするべきだと思います。



大橋 災害監視用無人航空機では、新しいテクノロジーとしてテラ・ドルフィンを登場させました。いつ起きるか分からない自然災害を前に、テラ・ラボでは今後スピード感を持って開発することは可能ですか?



松浦 はい、十分可能です。開発スピードはさることながら、良いものを安定した形で運用することも大事だと思います。



大橋 テラ・ラボが今後歩んでいく中で、今回作ったSFプロトタイピングの災害監視用無人航空機は少しは役に立ちそうですか?



松浦 多くの人は、本当に富士山が爆発したらどうなるかといった事態について、具体的なシチュエーションが見えないと身に迫る危機を想像できないと思います。そうした中で想定することが大切です。想定シチュエーションを作って、こういうときはどうする、誰がどう動くとシナリオを組み立てる必要があります。その意味では、今回のSFプロトタイピングは有効だと思いました。



大橋 ありがとうございました。



 テラ・ラボのようなベンチャー企業は、未来を描くことが求められます。その夢をSFで描くことが、SFプロトタイピングでは可能です。



 テラ・ラボが推進する災害対策DXによる未来構想がこの先どうなっていくのか、今後もSFプロトタイピングで描いていきたいと考えています。同社は今後活躍するでしょう。その取り組みは、SFプロトタイピングがイノベーションのためのツールとして認識される世の中の実現に大きく貢献すると思います。


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