レジ袋有料化から早2年――万引きGメンが「大胆な犯行増えた」と警告

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2022年06月25日 19:12  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

 こんにちは、保安員の澄江です。

 レジ袋の有料化から、早2年。いまや、ほとんどのお客さんがエコバッグを持参のうえ、買い物に来られるようになりました。以前であれば、空のバッグや袋を持って来店される人は「わかりやすい不審者」として警戒するよう指導されてきましたが、いまや通用しません。

 また、レジ袋有料化と同時期に新型コロナウイルスが流行し、マスク着用もいまや常識となっていますが、かつてマスク着用の来店者を、無条件に警戒対象としていた大手スーパーチェーンでは、その方針を大きく変更して、万引き犯の顔認証登録に勤しみ、再犯防止対策に力を入れています。多数のバッグを店内に持ち込むや、顔を隠すことが不自然でない現況は、万引きをやる側にとって最高の環境といえるでしょう。

 実際に、持ち込んだエコバッグなどに、大量の商品を詰めて盗み出す手口は横行しており、それに対応する商店や警察が疲弊している側面も否定できません。また、マスクや帽子で顔を隠すことで、防犯カメラを気にする必要がないため、余計に大胆な犯行に至る人が増えているのです。

 さらにはセルフレジをはじめ、無人店舗や商品のスキャン機能がカートに付された「レジゴー」などの普及によって、万引きの手口や言い訳も大きく変化してきました。摘発する側である警察や検察も、事例や判例が充分にないため立件判断に頭を悩ませており、精算方法の多様化に法律が追いついていない実態すら垣間見えます。

 コロナ対策や環境問題、精算技術の進化が犯罪者に有利な状況を構築し、結果、万引き行為が増えてしまった現状を皮肉に思うのは、私だけではないでしょう。

 今回は、複数のエコバッグを犯行に用いて大量の商品を盗み出した犯行事例について、お話ししたいと思います。

 当日の現場は、関東郊外に位置する大型ショッピングモールA。ここ数年、勤務するたびに捕捉がある現場で、前回来た時には3件の捕捉がありました。もれなく警察に通報して全員引き渡しましたが、どの事案も点数が多かったことから処理を嫌がられてしまい、ほどほどにしてくれと警告を受けています。

 そのことから、この日は朝から正面口にパトカーが横付けされており、2人の警察官が店内を巡回していました。巡回といっても保安員の後を付け回すことが主たる目的で、私が不審者に目を止めるたび、視線の先にいる人物に対して姿を誇示して威嚇してきます。

「犯罪は、未然に防ぐのが、一番大事」

 その大義名分をもって、保安員の仕事を邪魔するようなやり口で、店内を巡回しているのです。事件が続いている時や、警察行事があるときなどに実施されることが多いようで、捕まえるなら交代後にしてくれと、疲弊した顔見知りの警察官にお願いされることもありました。

「ご苦労様です。今日は、何時までいるつもりですか」
「ああ、どうも。ほかに大きな事件が起きない限り、交代まで巡回させてもらうことになっています」
「どうせなら、私がいないときに来てくれたらいいのに」
「…………」

 どうにも仕事にならないので、事務所に戻って防犯部長に相談すると、少し意地悪気な顔で意外な指示を出されます。

「1人捕まえてみたら、どうかな。そうしたら引き揚げざるを得ないでしょう」
「そうなればいいですけど、ずっと付いてくるんですよ」
「それは、ひどいね。ストーカーじゃあるまいし。ちょっと私から話してみましょう」

 2人で売場に戻り、防犯部長が警察官たちと話している間は、その様子を気にしながら、入店してくる人たちの姿も遠巻きに眺めて過ごします。すると、10歳くらいに見える髪の長い女の子が、1人で店に入ってきました。時計をみれば、午前11時を少し過ぎたところで、通常であれば学校にいなければならない時間です。

(学校は、お休みなのかしら?)

 人着(対象者の容姿や服装のこと)を確認すれば、大きな王冠マークが描かれたピンクのTシャツと、派手な柄のスパッツの組み合わせが妙にうるさく、金色に染められた髪先と合わせて、どこかやんちゃな雰囲気を感じます。

(もしかしたら悪い子なのかもしれない)

 目が離せない気持ちになって行動を見守れば、特大サイズのエコバッグを棚から降ろした女の子は、それを引きずりながら衣料品コーナーの方に向かって歩いていきました。その目的を探るべく追尾すると、売場内の死角箇所で20歳くらいに見える肥満体の男性と合流して、手にあるエコバッグを差し出しています。

 スーパーの衣料品コーナーで販売されている感じの派手な柄がプリントされた黒いTシャツに、膝までのショートパンツをはいた男性の脇には、商品であろう衣類を満載したカゴを上下段に載せたカートが置かれていました。それを見た瞬間、着手に至ると確信したのは、言うまでもないでしょう。

 案の定、まもなくして洋服が並ぶ陳列棚の陰にしゃがんだ男は、エコバッグを床に広げてカゴにある衣類を乱雑に投げ込んでいきました。その間、女の子は売場を行ったり来たりして、見張りの役目を立派に果たしています。

(これは、悪いわ。親子ではなさそうだけど、どんな関係なのかしら)

 体格のいい男が相手なので、すぐに防犯部長に電話をかけて応援を頼むと、まだ警察官たちと一緒にいるとのことで、すぐに電話口を代わられました。現在までの状況を説明しているうち、パンパンに膨らんだエコバッグをカートに載せた男が、女の子を引き連れて売場を離れていきます。

 しきりと後方を振り返る女の子の目を避けるため、相当な距離を取りつつ、2人が向かう方向を電話口の警察官に伝えながら追尾すると、正面口を避けてフードコートの隙間にある通用口から外に出ていきました。

 その進路を塞ぐ形で、2人の前に立ちはだかった警察官たちは、すぐに職務質問をはじめて単刀直入に切り出します。

「こんにちは。お店の警備員さんから通報があってね。その商品、お金払った?」
「…………」
「黙っていたら、わからないよ。これ、お金払ったの?」
「すみません……」

 まさか、警察官に声をかけられるとは思っていなかったのでしょう。ひどく動揺して、なすすべなくうなだれた男は、その場に呆然と立ち尽くしています。

「この子は、あなたの娘さん?」
「いえ、妹です。こいつは関係ないんで、家に帰してやってください」

 警察官の問いかけに、そう答えた男でしたが、確実な現認がとれているのは、女の子が棚取した特大サイズのエコバッグだけなので、帰すわけにはいきません。

 2人を事務所に連れていき、警察官による身体捜検が実施されると、男のポケットから財布のほか、2つのおにぎりが出てきました。財布の中にあった運転免許証によれば、男は21歳。店の近所に両親と4人で住んでいるそうで、今日は小学4年生の妹と一緒に、食事を買うつもりで来たと話しています。運転免許証をもとに男の犯歴照会がかけられると、半年ほど前に刑務所から出てきたばかりであることが判明してしまい、現場の雰囲気は一気に急変して引き締まりました。

「おい、〇×くんよ。あんた、出てきたばっかりじゃないか。まさか、今日はやってないよな。ちょっと、腕を見せてみな」

 どうやら前刑は窃盗と覚醒剤使用によるもので、より細かい身体捜検があらためて実施されましたが、特に不審な点は見つかりませんでした。上から股間を触ったり、その周囲の臭いを嗅ぐなど、変態行為と見紛う調べ方を目の当たりにして、とても嫌な気分になったことを申し添えておきます。

 今回の被害は、計27点、合計で3万6,000円ほど。

 財布にあった男の所持金は2,000円足らずで、すぐに商品を買い取ることはできません。このままいけば逮捕されるに違いなく、気になって女の子に話しかけたところ、特に動揺した様子も見せずに平然としていました。

「お兄ちゃん、今日は一緒に帰れないかもね」
「あたしは帰れる? また児相(児童相談所のこと)に行くの?」
「親が迎えに来てくれたら帰れるよ。お父さんかお母さんは、おうちにいるかな?」
「2人とも仕事で、夜遅くに帰ってくるの。それまでは、児相に行く?」

 以前にも、同じようなことで捕まった経験があると話した女の子は、児童相談所に行くことを恐れてはいないようです。その一方、年齢の離れたお兄さんである男は人目を憚ることなく涙を流して、悲劇の主人公のごとく大声で叫びました。

「逮捕するなら、早くしろ! 金もないし、早くパクれ!」
「どうしてそんなに金ないんだよ?」
「覚醒剤! そんときの借金が、まだいっぱいあるんだよ!」

 妹の存在には構うことなく、言葉を選ばず警察官に八つ当たりして泣き叫ぶ男に、同情の余地はありません。しかしながら、いつにも増して警察官は消極的で、衣類の現認がないことを理由に、被害届の受理に難色を示しています。

「今回は、現認のあるエコバッグ(980円相当)のみ、被害届を受理します。あとの商品は返しますので、それでお願いできますか」

 結局、微罪処分とされた2人は、ガラウケ(身元引受人)を用意することで帰宅を許されました。エコバッグを使い、大胆な盗みを働いても、目撃者の現認がなければ、少し怒られるだけで済むこともある。とてもやりきれない気持ちになった1日でした。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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