駅の達人が厳選した「行きたい駅ベスト11」 小さな駅の魅力を肌で感じる旅を

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2022年06月26日 08:00  AERA dot.

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写真下灘駅 JR予讃線[愛媛県]/遮るものなく瀬戸内海を望み、夕暮れ時にホームのベンチが海に浮かび上がる光景はまさに絶景
下灘駅 JR予讃線[愛媛県]/遮るものなく瀬戸内海を望み、夕暮れ時にホームのベンチが海に浮かび上がる光景はまさに絶景
 コロナ下の行動制限がなくなった今、魅力的な駅を訪ねたい。「駅の達人」で駅旅写真家の越信行さんに聞いた「行きたい駅ベスト11」を紹介する。AERA2022年6月27日号の記事を紹介する。


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 小さな駅のホームの目の前。見渡す限りの瀬戸内海が広がり、夕暮れ時は空と海が夕焼けで染まる。


「見ているだけで癒やされます」


 JR四国・予讃(よさん)線の下灘(しもなだ)駅。駅舎前で2017年にキッチンカーを改装したテイクアウト専門のカフェ「下灘珈琲(コーヒー)」をオープンさせたオーナーの戸田英清(ひできよ)さん(47)はしみじみ語る。


 駅があるのは愛媛県伊予市。


無人駅の木造駅舎とホーム、それにベンチだけがある小さな駅だが、全国からカップルや家族連れなどが訪れる。


 JR四国によれば、駅ができたのは1935年。ピーク時の86年には1日の乗降者数は400人近くいたという。だが、マイカーの普及などで駅の利用者はどんどん減り、駅員もいなくなった。


日本で一番海に近い駅


 そんな駅に転機が訪れたのは98年冬。JRの「青春18きっぷ」のポスターに下灘駅が採用されて一躍有名に。ドラマやCMのロケ地にも選ばれ、「日本で一番海に近い駅」「日本一夕日の美しい駅」として知られるようになった。


 戸田さんは駅のすぐ近くに実家があり、幼いころから下灘の海を見て育った。高校生の時はこの駅を使い毎日通学した。


「当時は普通の駅という感覚でした」


 と振り返る。


 今は夕日を楽しみに駅を訪れる人が多い。だが、戸田さんが一番好きだというのが誰もいなくなった夕方以降だ。


「夕日を見終わったらみなさん帰りますが、そこから日が沈むまでの時間です。空と海がブルーやオレンジのグラデーションに染まり、そして真っ暗になります。本当に静かです」


 駅──。普段の生活で何げなく使っている鉄道の駅には、さまざまな魅力がある。コロナ下の行動制限がなくなった今、ゆったりと駅を訪ねてみてはどうだろう。


 駅旅写真家で『駅舎のある風景』の著書もある越信行(こしのぶゆき)さん(53)に「行きたい駅ベスト11」を聞いた。越さんは、国内約9600の普通鉄道駅のうち6割超の約5850駅を撮影している「駅の達人」だ。




「元来、駅はその土地の“顔”であり、その土地から旅立つ人、ほかの土地から訪ねてくる人にとって特別な存在です。美しい景色やオシャレなカフェを楽しむだけではなく、なぜそこに鉄道が敷かれ、駅ができたのかという生い立ちにも意識を向けてください」


「それを肌で感じるためにも現地へ出向き、その土地の歴史や風土とも触れ合うようにしたいものです。これからどのような形で駅を継承していくのかについても思いをはせ、駅に潜んでいる魅力を見つけ出してください」


 越さんが「絶景四天王」として挙げたのが、冒頭の下灘駅のほか、JR釧網(せんもう)線の北浜駅(北海道網走市)、大井川鐵道井川線の奥大井湖上駅(静岡県川根本町)、JR篠ノ井線の姨捨駅(長野県千曲市)だ。



大パノラマが広がる


 その一つ、奥大井湖上駅は突き出た半島の先にあり、まるで湖面に浮かんでいるかのような駅だ。標高490メートル。2002年に完成した長島ダムのダム湖「接岨湖(せっそこ)」にせり出した半島状の山の頂にポツンとある。


「駅の両側が接岨湖で、駅に降りて外に出るには、奥大井レインボーブリッジと呼ばれる橋を渡っていかねばなりません。そこから県道へ出て高台から湖を眺めると、その真ん中に駅が浮かび上がる様子が見られます」(越さん)


 大井川鐵道によると、駅ができたのは1990年。ファンの間では「秘境駅」として知られていた。10年ぐらい前からSNSの普及で撮影のスポットに。高台から見下ろすと、大パノラマが広がる。



 駅周辺には一軒の人家もない。なぜこのような場所に駅をつくったのか。同鐵道広報室の山本豊福(とよふく)さんはこう話す。


「長島ダムができるまでは周辺には集落があったのですが、ダムができることによって集落は立ち退き、線路も水没する区間ができました。その区間に『犬間(いぬま)』という駅があり、水没の補償として新たな駅をつくらなければいけなくなり、つくったのが奥大井湖上駅。水や風の音、鳥の声も聞こえ、静かな時間を過ごすことができます。のんびりするのもオススメです」


「ベスト11」の中で一番


 今年は1872(明治5)年に新橋〜横浜に日本で初めて鉄道が開業してから150年。JR肥薩線の嘉例川(かれいがわ)駅(鹿児島県霧島市)、JR鹿児島線の門司港駅(福岡県北九州市)、JR東海道線の美濃赤坂駅(岐阜県大垣市)──の3駅は、越さんが「歴史的な駅舎」として挙げた駅だ。特に関門海峡を望む門司港駅は、今回挙げた「ベスト11」の中でもナンバーワンだという。




「日本の鉄道が発展してきた当時の、ターミナルとしての駅本来の様子を今なお色濃く残す駅です」(越さん)


 左右対称の外観デザインが大正時代をほうふつさせるネオルネサンス様式。2019年に6年近い修復工事を終え、1914(大正3)年の竣工(しゅんこう)当時の姿に復元された。88年、鉄道駅舎として日本で初めて国の重要文化財に指定された。



 越さんによれば、同駅は九州の玄関口として、関門連絡航路と九州各地を結ぶ列車の出着駅だった。ホームの起点・終点側で他のホームとつながり、その端のところに駅舎がある構造は貴重な文化遺産だという。


「こうした形態が残る駅はほかに上野駅、函館駅、阪急梅田駅などがありますが、プラットホームの構造や重要文化財である駅舎の価値など、昔ながらの鉄道駅としての様子を今に一番残していると思います」(越さん)


 ほかに越さんが「個人的にオススメ」と言うのが、JR山陰線の飯井(いい)駅(山口県萩市)、JR紀勢線の二木島(にぎしま)駅(三重県熊野市)、由利高原鉄道鳥海山ろく線の曲沢駅(秋田県由利本荘市)、JR米坂(よねさか)線の羽前小松(うぜんこまつ)駅(山形県川西町)──の4駅。とりわけ二木島駅は、旅情を誘う駅ナンバーワンという。駅は、1996年春の青春18きっぷのポスターの撮影地にもなった。



「駅は、かつて鯨漁で栄えた小さな漁師町にあります。熊野三山へと通じる熊野古道の入り口でもある切り立った谷の脇には、小さな入り江に寄り添うように集落が形成されています。駅へは、名古屋駅から列車を乗り継いで約4時間半かかりますが、時間をかけてでも訪ねてみたい駅本来の素朴な原風景が広がっています」(越さん)


 近年は「猫駅長」も話題だ。羽前小松駅も猫駅長がいる駅として知られる。



猫駅長の名はしょこら


 猫の名前は「しょこら」。本名は「ショコ・ラ・ダリヤ」で推定4歳、雄の雑種だ。


「見た目が高級そうな猫だったので、おしゃれな名前がいいかなと思って」


 と、同駅を管理・運営する地元のNPO法人「えき・まちネットこまつ」事務局長の細谷絵里子さん(41)は明かす。


 同駅は、町が旧国鉄から委託を受けた全国初の「町民駅」としても知られる。2010年からは地元住民らで構成する同法人が中心となって管理し、駅を拠点とした街づくりが行われている。


 そんな駅にしょこらが来たのは19年5月。駅前で鳴いているのを細谷さんが見つけて保護した。飼い猫のようだったので保護を知らせるチラシをあちこちに貼ったが飼い主が現れない。


 かくして、駅舎で飼うことになると、そのうち駅の窓口カウンターに乗って乗客を出迎えるようになった。「猫駅長にしたらどう」との多くの人の声に押され同年10月、駅長に就任した。


 するとSNSで話題となり、しょこらを一目見ようと県外からのお客も急増。利用者の増加や、駅の知名度向上に一役買っているそうだ。


「しょこらも、癒やされに来てニャンと言っています」(細谷さん)


(編集部・野村昌二)


※AERA 2022年6月27日号


このニュースに関するつぶやき

  • 東北だと只見線七日町駅、三鉄宮古駅、釜石線遠野駅が良かったですね。
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