ホンダは「週5出社」でNTTは「原則在宅」――テレワークやめる企業と続ける企業の「分岐点」

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2022年06月28日 06:00  AERA dot.

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写真「週5出社」に戻すホンダの本社(左)。右はNTTドコモ代々木ビル(GettyImages)
「週5出社」に戻すホンダの本社(左)。右はNTTドコモ代々木ビル(GettyImages)
新型コロナウイルスの感染状況が落ち着ついてきた今、停滞していた経済活動も元に戻りつつある。それに伴い、テレワークをめぐる企業の対応も大きく分かれている。ホンダは5月から全従業員を対象に原則的に週5出社となった。一方で、NTTは7月から国内グループの従業員3万人を対象にテレワーク(在宅勤務)を原則とする勤務制度となる。出社とテレワークを組み合わせた「ハイブリッド型」を含め、企業は従業員の働き方を模索しているが、それぞれの企業で抱える“課題”は異なる。テレワークを続ける企業とやめる企業では、どのような判断の違いがあるのか。また、従業員の満足度や採用にはどのような影響があるのか。識者に取材した。


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「今はちょうど、コロナ下でテレワークを実施した企業にとって、“良い面”と“悪い面”がみえてきた時期です。その結果をふまえて、各企業は『ウチはどんな方針にしたらいいのか』と悩んでいます。経営側からすれば、完全テレワークはやはり生産性やイノベーションへの不安がある。その一方、従業員はテレワークを継続してほしい人が多く、人材確保にも影響が出る可能性がある。その板挟みで、思い切った決断に踏み切れない状態にある企業も多いはずです」


 パーソル総合研究所の小林祐児・上席主任研究員はこう語る。


 今年2月、同研究所が全国約2万5000人を対象に行った調査では、正社員のテレワーク実施率は全国平均で28.5%。「第5波」があった昨年7月末が27.5%だったので、ほぼ横ばいだった。


 そんな中、ホンダも在宅勤務を推奨していたが、5月のGW明けからは、原則週5日出社に方針転換した。工場や研究所なども含め、すべてのオフィス、部署が対象となる。ただし、育児や介護などの事情があれば、引き続き在宅勤務できるという。


 企業がテレワークを導入してからおよそ2年。この間に“課題”も浮き彫りとなった。小林さんはメンタルヘルスの問題を一番に挙げる。


「職場に出勤していた時は、パワハラやセクハラが大きな問題になりましたが、テレワークになったことで、直接的な被害は減りました。その一方で、『誰も助けてくれない』とか『何のためにこの仕事をしているのかわからなくなる』など、孤独感に苛まれる人が増えた。ハラスメントとは別の問題で、メンタルに不調をきたす人が出てきてしまったのです」



■長時間労働と孤独の問題


 働き方評論家で千葉商科大学准教授の常見陽平さんは、その問題を最もよく知る一人だ。実は、常見さんの妻は、テレワークにより「心と体のバランス」を崩してしまったのだという。


「妻がコロナ下でテレワークを始めてから1年で適応障害と診断されました。いくつか要因はあったと思いますが、仕事の時間と密度で疲弊してしまったのです」


 妻の会社は「極めてホワイト」な企業だった。コロナ前は、午前10時に出社して午後6時には退社できた。出勤が適度な運動になり、家から解放されることもいい気分転換になっていたようだ。


 だが、テレワークが始まると、始業が午前9時に早まり、夜は8〜9時を過ぎるまで仕事する毎日に変わった。営業担当や取引先とのやりとりも、以前は1日くらいかかっていたのが、リモートですぐに返事が来るようになった。効率は上がったが、次から次へと仕事をこなさなければならず、心身に不調が出始めた。適応障害と診断された後は、業務量を調整してもらい、運動をするなど健康管理に気を使い今は回復している。常見さんは言う。


「テレワークゆえに、仕事が逼迫(ひっぱく)して病む人が出てしまったことも忘れてはいけません。こうした長時間労働を防ぐためにフランスでは、2000年代はじめから『つながらない権利』が議論され、2016年に改正労働法に盛り込まれました。その結果、企業ごとに労使で合意した上で、例えば、原則週末など勤務時間外にメールの返事や電話はしてはいけないなどのルールを設けるようになったのです」(常見さん)


■テレワーク先進国アメリカは出社回帰へ


 前出の小林さんは、テレワークでは仕事の細かい調整が行き届かないことが長時間労働につながってしまう、と指摘する。


「日本の職場は、上長が部下の様子や仕事の進捗を見ながら仕事を振り分けるのが一般的です。そこにテレワークを導入すると、突発的な業務によるサービス残業が増えたり、優秀な人に仕事量が偏ったりしたりと、柔軟な仕事の割り振りができなくなってしまう。日本企業でテレワークを定着させるには、仕事の割り振りにかなりの工夫が求められます」(小林さん)



 では、海外ではどうなのか。コロナ以前からテレワーク先進国だったアメリカでは、現在は対面コミュニケーションの重要性が見直され、いかに社員を出社させるかが議論となっているという。


「アメリカ、そして日本でもIT企業は、これまで何度もテレワークと出社の間で“揺り戻し”が起きています。頭の切れる優秀な人材がリモート会議をすると、通信の遅延による声の被りがあったり、悪気はないのに必要以上にきつく伝わったりして、その場の空気感がつかみにくくなる。対面の方が、活発に議論を交わしやすいですし、それによって斬新なアイデアが生まれやすい。それゆえ、今はまた対面コミュニケーションの価値が高まっています」(常見さん)


 だが、対面コミュニケーションが重要だとわかってはいても、テレワークが定着した企業が「週5出社」に戻すのは容易ではない。従業員からの反発も大きいだろう。そこで、アメリカでは出社とテレワークを組み合わせた「ハイブリッド型」が増えつつある。


■折衷案は週2〜3出社の「ハイブリッド型」


 4月からはグーグルとアップルが「ハイブリッド型」の勤務制度をスタートさせている。


「テレワークを希望する人が増えている中で出社を強制すれば、優秀な人材に離職される恐れや、採用力が落ちる懸念があります。そこで、週2〜3日出社で“落としどころ”を探しながら、(アメリカの)企業は幅広く採用候補者を集めようとしています。日本でも、バランスの取れた『ハイブリッド型』が、ほとんどの企業にフィットする働き方だと思います」(小林さん)


 そんな中で、NTTは国内の主要グループ会社の従業員3万人を対象に、7月からは「原則在宅勤務」にすると打ち出した。その背景ついて、常見さんは「外資系企業に優秀な人材を取られないようにするためだろう」と推察する。


「NTTや日立を日系IT企業としてみると、人材確保で競合となるのはアクセンチュアやデロイト トーマツなどの外資系コンサル企業になります。日系IT企業に在籍する若手で、ちょっと優秀な人であれば、給与が1・5倍以上で、かつ労働環境がいい外資に転職できます。NTTは『原則リモートワーク』という新制度を打ち出すことによって、労働環境の充実をアピールしたのでしょう。ただ、やはり対面で接することによる化学反応が起きにくくなるリスクはある。そこは今後のトップと現場管理職の腕の見せどころになるでしょう」


 ポストコロナの「働き方」は、今、過渡期を迎えている。(AERA dot.編集部・岩下明日香)


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  • カーディーラーのお店に行ったら誰もいなくて、テーブルやカウンターにモニタが置いてあってリモート商談をするというシュールな絵面が思い浮かんだ。
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