高校入学時は最速107キロの投手、大学時代に引退勧告を受けた強打者…BC群馬からNPB入りを目指す非エリートの挑戦

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2022年06月28日 11:01  webスポルティーバ

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 電光掲示板に「154」という数字が表示されると、CAR3219フィールド(西武第二球場)のスタンドだけでなく選手のいるベンチからもどよめきが起きた。

 この日は西武のファームチームとBCリーグ選抜の交流試合が行なわれていた。154キロものスピードボールを投げたのは、西武の投手ではない。BCリーグ所属の独立リーガー、それも19歳の若者である。




飛躍のきっかけは動画サイト

 西濱勇星(にしはま・ゆうせい)。群馬ダイヤモンドペガサスに所属して2年目になる右投手だ。

 ドラフトに興味のある野球ファンなら、西濱の存在を知っているかもしれない。2年前の9月に東京ドームで開かれたプロ志望高校生合同練習会で最速147キロをマークしたのが、当時関東学園大付に所属した西濱だった。ダイナミックな腕の振りと、オールストレートで勝負する気っ風のよさ。同年のドラフト指名は逃したものの、西濱は鮮烈な爪痕を残した。

 西濱は恐ろしいまでの成長曲線をたどっている。本庄ボーイズに所属した中学時代は3〜4番手の控え投手で、関東学園大付に入学した直後の最高球速は107キロ。紅白戦ではめった打ちに遭い、西濱は「アウト2個をとるまでに8点を取られて、そのイニングを強制終了されました」と振り返る。

 そんな西濱が変わるきっかけになったのは、動画サイトで見た「レジー・スミスベースボール:ジャパン」がアップロードした速球派投手の動画だった。レジー・スミスベースボール:ジャパンとは、MLB式の技術とトレーニングを伝える育成機関のこと。西濱は同機関の動画を参考にし、時には福島県にある施設まで指導を受けに出かけた。そんな努力を経て、西濱は徐々にスピードを出すためのコツを体得していく。

「最初はヒジから上げてヒジから出す腕の振りだったんですけど、小さい筋肉しか使えないしケガのリスクが増えるなと。胸郭周りや肩甲骨周りのもっと大きな筋肉を使うようにして、腕は力を入れずに『勝手に振られる』感覚を身につけていきました」

 時には陸上部のやり投げ選手と一緒にトレーニングをして、ヒントを得ようと取り組んだ。高校3年間で西濱の最高球速は40キロ、卒業後も含めれば4年強で47キロも伸びている。そんな選手がいまだかつて存在しただろうか。

将来の夢はMLBでサイ・ヤング賞

 西濱は高校時代、「24歳までに161キロを出して、将来はMLBでサイ・ヤング賞を獲りたいです」と壮大な夢を語っていた。

 地元の独立リーグ球団である群馬ダイヤモンドペガサスに入団後は、牧野塁監督のもと基礎づくりに励んだ。自身も投手としてオリックスなど4球団を渡り歩き、NPB通算222試合に登板した牧野監督は言う。

「段階を踏んで、少しずつステップアップしています。まだ試合で球数を多くは投げていませんが、徐々に球数を増やして経験を積んでいます」

 ダイヤモンドペガサスと言えば、今季で37歳になったベテラン強打者の井野口祐介が在籍。昨季育成2位指名を受けて日本ハム入りした速水隆成など、筋力トレーニングに熱心な選手が多い。当初は「ウエイトトレーニングをやらずに成功したい」と考えていた西濱だったが、自身の力不足を痛感してウエイトトレーニングに取り組むようになった。昨季終了時に77キロだった体重は、一時87キロまで増えた。シーズン中の現在は82〜83キロまで減っているが、「増やしても体は重く感じないし、もっと増やしたい」と西濱は言う。

 そして、西濱は語気を強めてこう宣言した。

「今年は絶対にNPBに行きたいんです。高校時代も昨年もNPB球団から調査書すらもらえなかったので、今年はまず調査書を1枚もらいたいですね」

 牧野監督は西濱がさらにレベルアップするための課題をこのように語る。

「モノはいいので、あとはムラを小さくできるか。今日も154キロが出たと思ったら、次のボールは144キロだったり。いいボールの再現性が出てくれば、評価はさらに上がるはずです」

練習生からドラフト候補に

 BCリーグ選抜でアピールに成功したのは、西濱だけではない。同じくダイヤモンドペガサスの外野手・奥村光一も持ち前の強打で存在感を示した。

 奥村は東海大静岡翔洋に所属した高校時代、右のスラッガーとして静岡県内では知られた存在だった。だが、東海大では出場機会に恵まれず、大学3年の進路相談時に「就職したほうがいい」と引退勧告を受けた。奥村は「リーグ戦のベンチに入る見込みがなかったんです」と振り返る。




 だが、「プロに行きたい」という夢はあきらめきれなかった。知人のツテをたどってダイヤモンドペガサスのトライアウトを受験し、練習生からスタート。前出の井野口、速水ら屈強な右打者の影響を受け、長打力に磨きをかけた。選手契約を勝ちとると、昨季はBCリーグで打率.372をマーク。首位打者に輝いている。

 西武ファームとの試合では、3番・ライト(途中からセンター)で出場。打席に入る前、奥村はルーティンとして素振りを2回する。「ブン!」と豪快な風切り音がすると、三塁側の西武ベンチから「おぉ〜」と驚きの声があがった。ほかの打者からはそのような音は聞こえず、明らかに異質なスイング音だった。客観的に見ても西武ベンチの反応は純粋な驚嘆に思えたが、奥村はそうとらえていなかった。

「なめられてるな......と思って、あれで自分のなかで火がつきました」

 第1打席は赤上優人から強烈なレフトライナーを放つと、空振り三振を挟んで3打席目に左中間フェンス直撃の適時二塁打。瞬発力とパワーを兼ね備えた打撃を見せつけた。今季リーグ31試合で18盗塁(6月20日現在)の俊足、馬力を生かした強肩もあり、ただ打つだけの選手ではない。

「今年は速水さんと自主トレをしてフォームもマネしたんですけど、開幕戦でホームランを打ったあとは対策されたこともあってタイミングが合わなくて。『自分に合う形があるな』とフォームを変えて、調子は戻ってきました。でも、変化することは怖くないので、自分が伸びると思えばこれからもどんどん変えていきます。昨日の自分よりよくなっていきたいんです」

 奥村に対する牧野監督の期待も大きい。

「もっとうまくなりたいという探究心があって、素直です。体のパワーとスピードはあるので、あとは柔らかさが出てくれば。プレーに軽やかさが出て、今よりも見栄えがよくなるはずです。簡単なことではありませんが、追求してもらいたいですね」

 虎視眈々とドラフト指名を狙っているのはエリートだけではない。今年で西濱は20歳、奥村は23歳を迎える。群馬で光を放つ若馬たちは、空高く舞い上がる日を心待ちにしている。

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