巨人から移籍2年目、ヤクルト田口麗斗の“圧倒的存在感” 様々な場面で「欠かせない」選手に

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2022年06月29日 18:00  AERA dot.

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写真グラウンド内外で今やチームに欠かせない存在となっているヤクルト・田口麗斗(写真提供・東京ヤクルトスワローズ)
グラウンド内外で今やチームに欠かせない存在となっているヤクルト・田口麗斗(写真提供・東京ヤクルトスワローズ)
 まだ6月というのに優勝へのマジックナンバー点灯が間近に迫るなど、歴史的な勢いでセ・リーグの首位を独走するヤクルト。その躍進を支える投手陣、特にブルペン陣にあって“切り札”的な活躍を見せているのが、巨人から移籍して2年目のサウスポー、田口麗斗(26歳)だ。


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 巨人時代は2016年から2年連続2ケタ勝利、2019年には14ホールドを挙げるなど、先発もリリーフもこなしてきた田口は、昨年3月のトレードでヤクルトに移籍。開幕第2戦の先発マウンドを任されるなど、9月初旬まで17試合に先発して4勝8敗、防御率4.11を記録すると、その後はリリーフに回って16試合で1勝1敗4ホールド、防御率3.46の成績を残した。


 日本シリーズでも3試合に登板して無失点とチームの日本一にも貢献したのだが、そこまで“無双”していたわけではない。ところが今シーズンはここまですべて救援で25試合に登板して自責点はゼロ(1失点)。チームでも唯一、防御率0.00をキープしている。


 ただし、この数字だけではそのスゴさを測ることはできない。それは今季の田口が、ピンチの場面になると颯爽と現れ、鮮やかに火を消していくという、いわばジョーカー的な存在となっているからだ。実際、今シーズンの田口は25試合のうち、13試合までがイニング途中での登板。その中の11試合は走者を置いてのマウンドである。


 圧巻だったのは、今季のセ・パ交流戦初戦となった5月24日の日本ハム戦(神宮)。1対1の同点のまま延長戦に入ったこの試合、田口は10回表、無死満塁の場面で登板すると、まずは4番の清宮幸太郎を空振り三振に仕留める。


 続く5番・万波中正に対しては、2−2から外角いっぱいに決まったかに見えたバックドアのスライダーに球審の右手は上がらず、フルカウントから万波が放ったライナーをショートの長岡秀樹がジャンプ一番グラブに収めてツーアウト。6番の宇佐美真吾には3−0と、もう1球もボールにできない状況からストレートを続けてフルカウントまで持っていき、最後もインハイのストレートで空振りを奪うと、打者に背を向けて雄たけびを上げながら、左手でガッツポーズをつくった。



「どういう状況になろうと、そこ(清宮の打席)で代えようと思ってました。ノーアウト満塁は想定してなかったんですけども、よく開き直って全力で行ったと思います。気持ちは入ってたけど、すごく冷静にしっかり投げ込めたのかなと思います」


 試合後、20球に及ぶ田口の力投をそう評したのは高津臣吾監督である。最大のピンチを切り抜けたヤクルトは、延長11回に飛び出した4番・村上宗隆の2ランでサヨナラ勝ちを収め、その後も快進撃を続けて4年ぶりに交流戦王者となるのだが、この田口の“火消し”がなかったらどうなっていたか。


「無死満塁からの火消し」ということでいえば、古くからのプロ野球ファンが思い出すのは1979年の日本シリーズ第7戦での広島・江夏豊の「江夏の21球」や、1993年ペナントレース終盤の優勝争いにおけるヤクルト・内藤尚行の「ギャオスの16球」だろう。そうした歴史的な快投に、この日の「マリモ(田口の愛称)の20球」を重ね合わせた向きも多かったはずだ。


 実は今シーズン、田口が満塁のピンチを切り抜けたのはこの試合に限らない。4月2日のDeNA戦(神宮)で1対1の6回1死、4月6日の中日(神宮)では2対1の7回無死、交流戦明けの6月18日の広島戦(神宮)でも5対4の7回2死と、僅差のゲームのフルベースの場面で登場しては、ことごとくしのいでいる。まさに“エスケープ・アーティスト”と言っていい。


 もっとも、それだけが田口の価値ではない。ヤクルトの“勝利の方程式”の一角を担う今野龍太が、6月24日のニッポン放送『ショウアップナイタープレイボール』に出演した際にブルペンのムードメーカー的な存在は誰かと問われ「やっぱり田口さんですかね」と話したように、持ち前の明るい性格でチームの盛り上げ役を担う。


 さらに試合に勝ってグラウンドを去る前には、ファンから「勝利の舞」と呼ばれる独特のパフォーマンスでスタンドを沸かせ、SNSではチームメイトの素顔を積極的に投稿するなど、プレーのみならずさまざまな手段でファンを楽しませている。



 それでも一番の魅力は、やはり颯爽とピンチを切り抜けるマウンドでの姿だろう。先に「今季の田口のスゴさは防御率だけでは測れない」と書いたが、メジャーリーグにはそれを測る「IS%」という指標がある。


「IS」とは前の投手が残した走者を生還させた数(Inherited Score)のことで、「IS%」はその割合を示す。走者を塁に置いてマウンドに上がった投手がその走者をかえしても、自身の自責点にはならず防御率には響かない。だが、ピンチの場面で送り込まれる投手に求められるのは、そうした走者をホームにかえさないことだ。


 つまり、この「IS%」こそが田口のようなピッチャーの、防御率に表れない価値を示す指標ということになる。そこで今季の田口のIS%を調べてみると、6月18日までの22試合の登板で、前の投手から受け継いだ20人の走者のうち、生還を許したのはゼロ! IS%は驚異の0%である。


 その後は6月21日の中日戦(バンテリンドーム)の10回裏、2死満塁の場面でマウンドに上がって代打の三ツ俣大樹にサヨナラ打を浴びると、26日の巨人戦(神宮)でも同点の7回表、2死一、二塁から適時打を許し、2試合連続でホールドに失敗。その借りを返すように、6月28日の広島戦(マツダ)では3点リードの8回裏、2死一、二塁の場面で登板し、スライダーの連投で野間峻祥を3球三振に斬って取り、キャリアハイを更新する15個目のホールドを手にした。


 これで今季の田口のIS%は7.4%。ちなみに昨年のメジャーリーグ全体の平均は34.6%で、シーズンで30人以上の走者を引き継いだ投手の中でベストだったのがシカゴ・ホワイトソックスのクローザー、リアム・ヘンドリックスの10.0%。日米の記録を単純に比較することはできないし、今シーズンもまだ半ばではあるが、これらの数字からは今季の田口がいかに傑出しているかがわかるはずだ。


 田口の起用に関し、高津監督は「本当は楽な場面(で使いたい)というか、もう1人2人左ピッチャーがいればまた違ったことになるとは思うんですけども、今は彼しかいないので。どうしてもピンチのところで『お願いします』というような感じで送り出してます」と話している。



 6月25日には4年目の左腕、坂本光士郎が一軍に昇格したものの、その日の試合に救援して2イニングで8失点。翌日には再びファームに降格し、ヤクルトのブルペンでサウスポーは、また田口1人になった。


 現時点で貯金25、2位の巨人とは11ゲーム差と余裕を持って戦えるヤクルトだが「困った時の田口頼み」は、今後もしばらく続きそうだ。


(文中のメジャーリーグの「IS%」はBASEBALL REFERENCEによる)


(文・菊田康彦)


●プロフィール
菊田康彦
1966年生まれ。静岡県出身。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身。2004〜08年『スカパーMLBライブ』、16〜17年『スポナビライブMLB』出演。プロ野球は10年からヤクルトの取材を続けている。


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  • ジャイアンツ時代から先発でもリリーフでも活躍していた。それだけにトレードと聞いたときは、ジャイアンツファンでなくても目を疑っただろう。
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