スマホとは違う、ローカル5G向けデバイスに求められる“信頼性”とは アルプスアルパインに聞く

0

2022年06月30日 13:31  ITmedia Mobile

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia Mobile

写真2021年3月に開発を発表し、サンプル出荷を進めている車載用5G NRモジュール「UMNZ1シリーズ」。車載機器に搭載されることから民生機器より高い耐久性・信頼性を実現しているのが特徴だ
2021年3月に開発を発表し、サンプル出荷を進めている車載用5G NRモジュール「UMNZ1シリーズ」。車載機器に搭載されることから民生機器より高い耐久性・信頼性を実現しているのが特徴だ

 ローカル5Gの本格的な立ち上がりに向けて拡大が求められているものの1つに端末が挙げられるが、その端末開発に新たに名乗りを上げたのが、電子部品や車載情報機器などを手掛けるアルプスアルパインだ。同社は2022年4月27日に「5G通信デバイス評価キット」の提供を開始、顧客ニーズを把握してローカル5G事業への本格参入を目指すとしている。



【その他の画像】



 一方で、なぜ自動車関連の事業が主軸の同社がローカル5Gへの参入を打ち出したのだろうか。またローカル5Gのデバイス開発に当たって、同社の強みがどのような部分で生きると考えているのだろうか。電子部品マーケティング部2グループの渡辺裕文氏と、D1技術部第4グループマネジャーの川上歩氏に話を聞いた。



●スマートフォンとは違う、車載向け通信モジュールに求められる要素



 渡辺氏によると、アルプスアルパインがローカル5Gに参入する契機となったのは、2021年3月に開発とサンプル出荷を発表した車載用5G NRモジュール「UMNZ1シリーズ」にあるという。同社はこれまでWi-FiやBluetoothなど、車載機器向けを中心とした通信モジュールを多く手掛けてきたが、一方で自動車業界全体の動向として、現在CASE(Connected、Autonomous、Shared & Services、Electric:コネクテッド、自動運転化、シェア・サービス化、電動化)というキーワードが注目されているという。



 そこで同社では今後、車載機器からクラウドに接続するTCU(テレマティクス制御ユニット)などの需要が増えると考え、5Gの通信モジュールを開発するに至った。最近はハイブリッド車や電気自動車が増え電動化が進んでいること、さらに将来自動運転車の実現が見据えられていることを考慮すれば、車載用の通信モジュールがより重要になってくるのではないかと渡辺氏は話している。



 同社でも過去にモバイル通信モジュールを開発した経験はあるそうで、2G時代にはCDMA方式による車載向け通信モジュールを手掛けていた。だが3Gで通信モジュールは手掛けておらず、4Gで開発を再開したが「鳴かず飛ばず」だったと渡辺氏は話す。



 ただ、間が空いているとはいえ、通信モジュール開発の取り組み自体は、プライオリティを下げながらも社内で継続的に取り組んできた。そして5G時代となり、コネクテッドの重要性が高まったことを受けて開発したのがUMNZ1シリーズだ。



 車載用の通信モジュールの開発に当たっては、スマートフォンなどの民生品とは大きく異なる環境で利用されることもあって、耐振動、耐温度、そして長寿命であることなど非常に高い信頼性が求められる。民生品はマイナス20度から60度の範囲で設計されている用可能温度についても、UMNZ1シリーズはマイナス40度から85度と、より厳しい環境で利用できるよう設計されており、民生品では数年程度の製品寿命も、より長く利用される車載機器向けとなると10年利用できる耐久性・堅牢(けんろう)性が求められるという。



 そうした車載向けならではの厳しい要求に応えるべく、同社では耐久性や堅牢性を実現するための製品設計や性能評価に非常に力を入れている。自動車産業ではIATF(国際自動車産業特別委員会)による国際的な品質マネジメントの基準が存在するが、同社ではそれだけにとどまらず、顧客の要望に応じた独自の条件などに対応した品質管理をする手法やノウハウを持っており、それを設計、開発、フィールドテストでの評価などに反映させているという。



 そうした取り組みの1つ1つは「地味なノウハウ」だと渡辺氏は話すが、それらの積み重ねがUMNZ1シリーズで高い信頼性を実現するのに役立っているようだ。



●ローカル5Gでも生かせる高信頼性 あくまでデバイス開発に注力



 そのUMNZ1シリーズで培った技術を生かして、アルプスアルパインが新たに開発を打ち出したのが「5G通信デバイス評価キット」だ。だがそもそもなぜ、車載機器を多く手掛けるアルプスアルパインが、ローカル5G向けの機器を開発するに至ったのだろうか。



 渡辺氏は、ローカル5G、そして公衆回線をエリア限定で提供する、いわゆる「プライベート5G」に関する取り組みが国内外で増えていることを挙げる。アルプスアルパインは車載関連機器が事業の主体であるものの、他にも多くの民生機器の開発を手掛けており、産業向けのIoTに関する取り組みを今後強化する検討を進めていたことも、IoTと相性のいいローカル5G市場への参入に踏み切った理由となったそうだ。



 そこで同社のノウハウが生かせると判断したのが、車載向けモジュールで培った高い耐久性・信頼性であるという。ローカル5Gのユースケースは工場など産業向けが多くなるとみられており、デバイスを設置する場所も、スマートフォンより過酷な環境にあることが多いと考えられる。そこで同社が培ってきた高信頼性が、ローカル5G向けデバイスにも生かせると判断したようだ。



 川上氏は、今回のデバイス評価キットを開発するに当たって顧客企業とさまざまな話を聞く中で「耐久性や信頼性のあるデバイスがないか」という声があったことが、今回の開発の背景にあったと説明。そこで車載向けモジュールのノウハウを生かしながらも、顧客が利用しやすいインタフェースを搭載し、評価機として使いやすい構成になるよう開発を進めていった。



●5Gのパフォーマンスが出せるよう、発熱対策に注力



 中でも力を入れたのが発熱対策だと川上氏は話す。5Gの通信モジュールは発熱が大きく、それによって性能が落ちてしまうことが問題になってくる。そこでデバイス評価キットの開発に際しては放熱に力を入れ、5Gデバイスとしてパフォーマンスを出せることに注力しているとのことだ。



 一方で、公開しているデバイス評価キットに搭載しているインタフェースは、USBやイーサネットなど一般的なものに絞っている。デバイスの内部的に拡張しやすい仕組みを備えてはいるものの、現時点ではあくまで評価機ということもあって、インタフェースは絞り込んでおり、今後顧客のニーズを探りながら搭載するインタフェースの検討をしていきたいと渡辺氏は話している。



 渡辺氏は5G通信デバイス評価キットについて、より多くの実証などで利用してもらうことで、基地局やさまざまなデバイスなどとの接続性を評価し、今後よりメリットのあるデバイスを提供していきたいと話している。一方、現在はローカル5Gの黎明(れいめい)期ということもあって、ローカル5Gのデバイスを手掛ける企業が、自社工場などを活用し、直接ユースケース開拓に取り組むケースも多く見られる。



 アルプスアルパインも多くの工場を持つだけに、同様の取り組みが期待されるが、川上氏は「ユースケースやアプリケーションの開発はプレイヤーがたくさんいる」と回答。あくまで信頼性の高いデバイスを開発することに集中し、他の企業と協力して市場開拓に取り組む方針とのことだ。



●取材を終えて:評価キットから先の具体的なデバイスに期待



 車載機器からローカル5Gに参入するというアルプスアルパインはやや異色という印象を受けていたが、車載向けで培った高い信頼性が、過酷な環境での活用も考えられる高いローカル5Gにマッチしやすいことは確かだろう。かねてローカル5Gはデバイスの少なさが指摘されているだけに、従来とは異なる方面から参入するプレイヤーが出てきていることは歓迎すべきだといえる。



 ただ、現時点ではまだデバイス評価キットの提供にとどまっており、本格的なローカル5Gデバイスの展開は顧客との実証などを進めた上で進める形となるようだ。なかなか進まないとされるローカル5Gの具体的なビジネスを推進する上でも、早いうちに多くの現場で実証が進み、具体的なデバイス開発へとつながることを期待したいところだ。


    ランキングIT・インターネット

    前日のランキングへ

    ニュース設定