“ハイブリッド打法”で一軍復帰へ猛アピール!オリックスの「失敗しない男」渡部遼人

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2022年07月01日 06:34  ベースボールキング

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能見篤史兼任コーチに助言を求める渡部遼人 [写真=北野正樹]
◆ 猛牛ストーリー 【第26回:渡部遼人】

 連覇と、昨年果たせなかった日本一を目指す今季のオリックス。監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第26回は、慶応大時代に東京六大学リーグで通算24盗塁を記録し、成功率100%で「失敗しない男」の異名をとったドラフト4位の新人・渡部遼人外野手(22)です。新人野手でただ一人、開幕一軍をつかみましたが、安打を放てず二軍落ち。しかし、自ら工夫した“ハイブリッド打法”で活路を開き、6月30日のウエスタン・中日戦では4安打の固め打ち。一軍昇格に向けて強烈なアピールをしました。




◆ 浮上の兆しが見えた6月

 「(一軍から)呼ばれないのは仕方がない。もっと目立つというか、違うところを見せないといけないと思います」

 そんな秘めた思いを口にした翌日に、さっそく自身初の4安打。



 杉本商事Bs舞洲で行われたウエスタン・リーグの中日戦。「2番・左翼」で出場した渡部は、左腕の福島章太から第1打席に中前打、2回の第2打席は二死一・二塁から三遊間を破る左前適時打。5回の第3打席でも中前打を放つと、6回は一死一・二塁から4打席連続安打で、続く太田椋の逆転満塁本塁打の舞台を整えた。

 6月12日・中日戦以降の13試合で、安打がなかったのは24日のソフトバンク戦だけ。ほぼ毎試合安打を重ね、打率を.269まで押し上げた。


◆ 「図太いというより楽観的でポジティブ」

 小学2年で野球を始め、甲子園出場はないが慶大では1年春からリーグ戦に出場。4年秋には打率.359でベストナインを獲得。全日本選手権では「2番・中堅」で打率.563をマークして首位打者に輝き、チームの日本一に貢献した。

 プロ入り後も俊足好守でアピールし、オープン戦初戦のソフトバンク戦では千賀滉大と和田毅から4打数3安打・1打点。新人野手ではただ一人の開幕一軍をつかみ、西武との第2戦には「9番・中堅」で先発出場も果たした。


 しかし、その後は9試合で8打数無安打・3三振と打撃不振。4月23日に登録を抹消されてしまった。

 「一軍を目指してやって来て、初めての抹消でだいぶメンタルにも来ました」と明かす。

 ファームでも結果が出せず、5月初旬には打率.120まで落ち込んだ。

 ここで「どちらかというと、図太いというより楽観的でポジティブ」という性格が、迷路から抜け出させてくれた。

 「一軍ではどうしても結果を求められますが、ファームでは新人でもありがたいことにたくさんの打席がいただけるので、練習だけではできないところを試合の中で試すことができます。いろいろな引き出しを増やしたいという思いがあるので、(カウントを)追い込まれた後や初球の打ち方を変えたりしています」


 二軍にいるからこそ、できることがある。そう考え方を変えるのに時間はかからなかった。

 打撃フォームも見直した。大きく上げていた右脚を、すり足に。

 「ちょっと長くボールを見ていたいというのがあって。すり足にすることで、しっかりと脚を使う意識が持てました。また、ちょっと(タイミングを)ずらされても、何とか脚で我慢して耐えられるのもすり足の良いところです」

 担当コーチではない能見篤史投手兼任コーチにも助言を仰いだ。

 自身の調整なども兼ねて試合前の打撃練習に登板した能見には、「僕に投げてみて、どういう印象を持たれましたか」と質問。

 「内容は言えませんが、投手から見て僕の打撃をどう思ったのか、参考になりました」という。


◆ 「自分の形が変わらないような作り方を」

 効果はすぐに表れた。

 5月20日から6月4日まで11試合連続安打。この間、マルチ安打も3試合で記録し、打率は.190から.247に上昇した。

 今は脚を大きく上げるフォームに戻している。

 「すり足で状態が上がって来たので、もう一度、しっかりと強く振れるように、脚を上げるフォームに戻しました」と渡部。

 見た目は脚上げだが、打撃の内容は大きく変わっているという。

 「元の脚を上げるのが8割で、すり足で得たものが2割。タイミングが合わないなと思ったら、最初からすり足でいったり、同じ打席の中でも両方を使ったりしています」

 つまり、双方の良い点を合わせた“ハイブリッド打法”なのだ。


 この日も、左腕に対し中堅より左への打球を意識。

 2打席目は外角低めへの127キロのスライダーを強くたたいて左前へ。3打席目は124キロの外角低めのスライダーに対し、バットをちょこんと当てる柔らかい打撃で中堅左へ運んだ。

 タイミングを外されても、脚で我慢するすり足打法でつかんだバットコントロールに見えた。

 「だんだん形としては残って来ているとは思います。だから状態が悪くても毎日1本打てたり、四球を選べたりしているんですが、まだまだ上から呼ばれないということは、もっともっと求められているのかなと思います」


 松井佑介外野守備走塁コーチからは「次に上がった時には、打も脚も守備も生かしてファームに戻ることのないように」とアドバイスをもらっている。

 「一軍の投手のボールだからといって、自分の形が変わらないような作り方をしたい」

 悲観も楽観もすることなく、自分を高めることだけに向き合う。呼ばれたその時に輝くために。


取材・文=北野正樹(きたの・まさき)

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