日々の生活の悲鳴「もう限界」が届かない 介護離職、深まる貧困に苦しむ女性たち

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2022年07月02日 10:00  AERA dot.

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写真AERA2022年7月4日号より
AERA2022年7月4日号より
 防衛費の大幅な増額を訴えるなど、政治家からは勇ましい声も聞こえてくる。一方で、日々の生活に苦しんだり悩んだりする人が増えているのが日本の現状だ。そうした人たちの声は参院選で届くのか。AERA 2022年7月4日号の記事から紹介する。


【グラフ】「介護・看護」を離職理由に挙げた人の推移
*  *  *


「もう限界」


 関東地方に暮らす女性(50代)は、悲鳴を上げる。


 離れて暮らす母親(80代)に昨年あたりから認知症の症状が出てきた。女性はテレワークで仕事ができることもあり、実家で介護を始めた。しかし、じきに仕事との両立は無理だとわかった。


 幻聴、妄想、ひとり歩き……。母親はデイサービスやショートステイに行きたがらず、女性が24時間ついていなければいけない。実家近くには兄が住んでいるので協力してほしいと頼んだが、「俺には無理」と言って何も手伝ってくれない。寝不足とストレスで倒れそうだというモヤモヤした気持ちを、女性はこう吐き出した。


「結局、介護は女性がするんですよね」


介護は女性の固定観念


 日本では「介護の担い手は女性」という固定観念が残っている。2017年の総務省の就業構造基本調査では、親などを介護している介護者は627万6千人いて、そのうち63%を女性が占める。実践女子大学の山根純佳教授(ケア労働論)はこう話す。


「介護は女性がするべきだという強い規範はなくなっていると思います。しかし、家事や育児と同様、家族介護も介護サービスも女性に任せておけば何とかなるというジェンダーバイアスが社会に根強く残っています」


 働き盛りが家で介護をする結果、待っているのは介護離職だ。


 厚生労働省の調査によれば、介護離職は10年以降、増加傾向にあり、女性が大半を占める。20年に「介護・看護」を離職理由に挙げた人は約7万1千人いて、女性は約5万3千人と75%近くを占めた。


 15年9月、当時の安倍晋三政権はいわゆるアベノミクスの「新三本の矢」の一つに「安心につながる社会保障」を掲げ、「介護離職ゼロ」を20年代初めに達成することを目指した。続く菅義偉、岸田文雄各政権にも引き継がれたが、達成のめどは立っていない。山根教授によれば、いったん家庭で介護が始まった場合、今の介護保険制度では介護離職しなければ介護できない設計になっているからだ。




 00年に始まった介護保険制度はその後、要介護3以上でなければ特別養護老人ホームに入居できなくなった。そのため要介護1や2では家族介護が基本となったが、認知症や脳梗塞(こうそく)などを患っている人の介護はデイサービスを利用するくらいでは仕事との両立が難しく、離職せざるを得なくなっている。


 だが、自らキャリアを諦めた女性たちの声は政策に反映されていない。山根教授は政策としてまず介護離職した人たちをバックアップする就労支援が必要だと説く。


「その上で、訪問介護の賃金を保証して人材を確保するなど、女性が介護しながら仕事もできる循環をつくっていかなければいけません」


介護報酬の低さが原因


 介護を支える職場も女性が低賃金で担っているのが現状だ。厚労省の21年の調査では、介護職員の平均月収は約25万1千円で、全産業平均の約35万5千円と比較すると10万円以上も下回る。


 日本介護クラフトユニオン(NCCU)の村上久美子副会長は、介護報酬(介護保険サービスの公定価格)が低いことが原因だと語る。


「その結果、起きているのは人材不足です。介護業界に人が入ってこず、入ってきても昇給もあまり望めないため生涯設計を描くことができず、若い職員は辞めていきます」


 政策として求めるのは処遇改善。全産業平均までの賃上げだ。


「賃上げをして介護従事者の数を増やさなければ、いずれ介護崩壊も考えられます。すでに施設をつくっても人手が足りず、一部の階を閉鎖するところもあります。処遇改善は喫緊の課題です」(村上副会長)


 コロナ禍では、それまでも指摘されていた貧困や格差の問題が顕著に現れた。岸田政権も発足当初は富や所得の再分配を訴えた。だが、6月7日に閣議決定した新しい資本主義実行計画では「資産所得倍増」を掲げ、株主至上主義からは転換しそうにない。


「家賃も払えなくなるかもと考えると、不安でしかたありません」


 関東地方で中学生の娘と暮らすシングルマザーの女性(40代)は、心境を吐露する。


 コロナ禍で失業しスーパーで週5日のパートで働くようになったが、昨年の年収は約200万円。いわゆるワーキングプア(働く貧困層)だ。


 生活費を切り詰め、自身の食事は1日2食。物価高も追い打ちをかける。この状態が続けば生きていけなくなるという。


「国は私たちを助けてくれないのでしょうか」(女性)



 国税庁の調査では、06年に200万円以下の給与所得者が1千万人を超えた。それ以降、ほぼ毎年増え続け、20年は全体の約22%に当たる約1160万人になった。


 放送大学の宮本みち子名誉教授(生活保障論)が説明する。


「01年に誕生した小泉純一郎政権による規制緩和によって企業は人件費を抑えられる非正規雇用を増やす雇用構造への転換を進めました。非正規雇用が絶対的にいけないのではありません。ただ、日本は海外の福祉国家と比べ、正社員と非正規社員の賃金や福利厚生の格差を大きくする差別的な処方を続けてきました。その結果、貧困層が増えたと考えています」


女性の割合多い貧困層


 02年に約29%だった非正規雇用は21年には約37%まで増えた。年収(21年)は、フルタイムで働く正社員は約323万円で、非正規社員は約217万円と正社員の3分の2の水準にとどまっている。


 貧困層は女性の割合が多いのも特徴だ。20年に約1160万人いた貧困層のうち、女性は約840万人と約7割にもなる。この点について、宮本名誉教授は女性が働く職種と男女間の賃金格差が関係していると考える。


「まず、女性が多く働く職種は小売りやサービス、外食、福祉関係など、他の業種より賃金が低い傾向にあります。男女間の賃金では日本は男性を100とした場合、女性は75.2と、先進国の女性の80から90と比べ、大きく開きがあります。政治の役割として中小企業への支援も必要。特に女性にとって、中小企業はもっとも身近な働く場。大企業が少ない地方では、男性の雇用の受け皿にもなっています。中小企業の生産性を高め、優良な雇用の場となるよう国が強力に支援していくべきです」


 先行きが見えない中、老後を支える年金は国民の最大の関心事の一つだ。中でもフリーランスの悩みは深刻で、受け取れるのは「基礎年金」と呼ばれる部分だけ。額は、満額で月約6万5千円(21年度)。しかも現在の制度では、年金の水準は将来的に下がっていく見通しだ。


「財源の問題もありますが、基礎年金の水準を上げて月10万円はもらえるようにする。iDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)のような、年金を補う老後の資産形成ができる仕組みも必要です。住宅問題も大きいと思っています。家賃が払えない人も出てくるので、公営住宅や空き家を活用した低家賃住宅の提供や家賃補助が必要です」(宮本名誉教授)


(編集部・野村昌二)

※AERA 2022年7月4日号


このニュースに関するつぶやき

  • こういう時、男性と自称男っぽい女性はダンマリを決め込む。
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