宮沢氷魚から目が離せない 『エール』と『ちむどんどん』での演技を比較

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2022年07月03日 06:01  リアルサウンド

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『ちむどんどん』(写真提供=NHK総合)

 ヒロイン・比嘉暢子(黒島結菜)の幼なじみの和彦役として、朝ドラ『ちむどんどん』(NHK総合)に出演中の宮沢氷魚。幼い頃も大人になった現在も、和彦と暢子はつねに影響を与え合う関係であり、彼の一つひとつの言動から目が離せない。演じる宮沢が朝ドラに顔を見せるのは2度目。演じ手である彼自身の変化も、注意深く見つめてしまう。


【写真】結婚の挨拶に訪れる宮沢氷魚ほか


 宮沢が演じる和彦は、東京の新聞社に勤める記者だ。幼い頃に父親の仕事の都合で暢子たちが暮らす村に滞在。そこで比嘉家と家族ぐるみでの交流を持った経験が、後の和彦に影響しているようだ。現在は、沖縄の文化を後世に残そうとしていた父の遺志を継ぐように、新聞記者として沖縄にまつわる記事を書くべく横浜・鶴見の「あまゆ」に下宿している。奇しくも、下宿先が暢子と同じである。


 2017年に俳優デビューを果たして以降、宮沢は幅広い活動を展開してきた。『トドメの接吻』(2018年/日本テレビ系)や『映画 賭ケグルイ』(2019年)といった同世代の俳優が勢揃いするエンタメ性の高い作品に出演する一方で、男性同士の切実な関係を描いた人間ドラマ『his』(2020年)や、喪失の苦しみに立ち向かう女性の姿を描いた『ムーンライト・シャドウ』(2021年)などの文学性と芸術性の高い作品にもマッチ。いまの演劇シーンを牽引する藤田貴大のような気鋭の演出家の下でオルタナティブな演技術を身につけたかと思えば、公演中止から1年の延期を経て上演された大作『ピサロ』では渡辺謙を相手に手堅い新劇的な演技を実践していた。


 宮沢の演劇経験は、朝ドラの場での強みになっていると思う。演者の誰もがオーバーアクトを展開するのは朝ドラの特徴の一つだが、このさじ加減は非常に難しそうだ。物語の中心人物であるヒロインを軸に、共演者らの演技は小さくてもマズいし大き過ぎてもマズい。声量にしろ所作にしろ、各シーンごとに最適なバランスでの演技を展開しなければならない。宮沢が演じる和彦は暢子と影響を与え合う関係なのだから、互いに引っ張り引っ張られ、演技における力関係はシーンによって変わってくる。朝ドラ3度目の出演にしてヒロインを務める黒島の方がキャリア的には上だが、宮沢の持つ柔軟性が大きな支えになっているように感じるのだ。


 先に触れているように、宮沢の朝ドラ出演はこれが2度目。2020年放送の『エール』(NHK総合)では、主人公の娘の結婚相手・霧島アキラというこれまた重要なキャラクターを演じた。しかもテンションの高いロカビリー歌手の役である。登場してきたのは物語も終盤に入ってのことで、暗い気分になりがちなコロナ禍一年目、彼の存在に元気をもらった方は少なくないはず。そう言ってしまえるほどに『ちむどんどん』の和彦とは違う直線的な性格のキャラクターで、宮沢の演技もそれを体現するストレートで力強いものだった。それに比べると和彦は複雑なキャラクターだ。彼には婚約者の愛(飯豊まりえ)がおり、暢子との関係や、新聞記者という社会的な立場もある。


 本作の公式ガイド『連続テレビ小説 ちむどんどん Part1』(NHK出版)にて宮沢は、「和彦、暢子、愛の3人のシーンでは、不器用な和彦の心模様を演じるのがとても難しいです。自己中心的な人物に見えないよう、あえて演技プランを立てずに、和彦のピュアな部分をしっかり表現していきたいと思います」と語っている。


 “演技プランを立てずに”という言葉に、「なるほど」と思わずうなずく。『エール』のアキラ役ではパフォーマンス性が際立つ演技に徹していたのに対し、和彦はもう少し自然体。宮沢の演技について“柔軟性”という言葉を用いたが、現場での素直な反応を大切にするスタイルがそう感じさせるのだろう。『ちむどんどん』を経た後の彼の演技が早くも楽しみだ。さて、ドラマは早くも折り返し。和彦が物語の主軸に関わることも増えてきた。暢子と同じく鈍感で不器用な和彦を表現する宮沢の、素直な反応を見守っていきたい。


(折田侑駿)


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