最先端TSMC誘致 驚愕の真実 古賀茂明

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2022年07月05日 06:00  AERA dot.

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写真古賀茂明氏
古賀茂明氏
「無理ですね」。


 言いにくそうに私の顔色を窺いながら答えたのは、台湾のある半導体企業関係者(A氏)だ。私の問は、「日本の半導体復活プランは成功するか」だった。


 現在、半導体で世界トップを行く台湾のTSMCは5ナノメートルレベル(1ナノメートルは10億分の一メートル。半導体回路の線幅。小さいほど技術水準が高い)の半導体の量産に入り、米国などの先端企業に供給している。現在はさらに3ナノについても試験的に供給を始めるところだ。これを追いかけるのは韓国のサムスン電子だけ。2社以外に5ナノを作れるところはない。日本が作れるのは、さらに4世代前の28/32ナノまでだ。


 今後の競争は3ナノから2ナノへと進むが、A氏によれば、7ナノが作れずに5ナノや3ナノを作ることは出来ない。したがって、10年前の4〜5世代前の実力しかない日本勢が最先端半導体の世界に復帰することは最初から無理なのだ。


 ただし、これは「製造」の話で、5ナノを使った自社用の半導体の「開発・設計」には、世界のIT企業なども参入する流れになっている。アップルやメタ、テスラなどだ。日本にも、ソニー、キヤノン、ニコンなど得意分野で世界最先端を行く企業はあるが、これらの分野は主戦場とは言えないという。これからの世界を制するのは、数多くの最先端企業が、最高レベルのスパコンをとことん使いこなしAIであらゆる課題を解決できる国だが、残念ながらそうした大きな構想が日本政府にも企業にもない(ちなみに、それを実現する可能性を持つのが、あの「PEZY社」(助成金不正受給で問題となったスパコンなどのメーカー)の斉藤元章氏くらいかなという意外な話も出た。)。


 さらに彼の言葉は続く。日本企業の意思決定の遅さは、致命的だ。経営者に能力がないのだろうが、リスクを取れない企業文化も問題だ。日本企業が社内で会議を開き、稟議書を作り、役員会で決裁を取るまでに、ライバル国では1世代分の開発が終わってしまう。




 では、そんな日本なのに、世界最高水準の技術を持つTSMCがつくばに後工程を中心としたハイレベルの研究所を作り、熊本には1兆円をかけて半導体の新工場を作るのは何故かと聞くと、「日本には後工程で高い技術を持つ企業がある。その技術を使ってTSMC用の先端技術を開発するためにつくばに出るが、成果は全部TSMCに帰属する仕組みらしい。熊本で作るのは、大して儲からない2〜3世代も前の半導体だが、日本の自動車メーカー向けに確実に売れる。日本政府が巨額の補助金を見返りなしでくれるというので、それなら損はないというところではないか。経済産業省が大臣のメンツをかけて何が何でもTSMC誘致という姿勢だったので、足元を見られたんでしょう」という答えだった。


 私が推測していたとおりだったが、それにしても政府の愚かさには呆れるばかりだ。


 最後に、A氏は「すみません。少ししゃべり過ぎました。日本が馬鹿だと言っているわけではないので、気を悪くしないでください。」と深々と頭を下げた。私は苦笑しながら、「是非その話を偉そうに胸を張っている経産省に聞かせてください」と答えておいた。


※週刊朝日  2022年7月15日号から



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このニュースに関するつぶやき

  • その何世代も前の技術すら失ってしまっているのが現在の日本。その現実が今まで見えていなかったとすれば技術評論家としては勉強不足じゃないかな。技術ってのは「最新だけ」追いかければいいってもんじゃないんだよ。
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