保阪正康が語るウクライナ侵攻 停戦への近道は市民社会化だが「独裁を許容する」現実

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2022年07月05日 08:00  AERA dot.

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写真保阪正康(ほさか・まさやす)/「昭和史を語り継ぐ会」主宰として延べ4千人の声を記録してきた。『昭和陸軍の研究』『太平洋戦争への道 1931-1941』(編著)など著書多数
保阪正康(ほさか・まさやす)/「昭和史を語り継ぐ会」主宰として延べ4千人の声を記録してきた。『昭和陸軍の研究』『太平洋戦争への道 1931-1941』(編著)など著書多数
 ロシアのウクライナ侵攻に世界は揺れ続けている。この先どこへ向かうのか。『歴史の予兆を読む』(朝日新書)の共著者・保阪正康さんに聞いた。AERA 2022年7月11日号の記事を紹介する。


【写真】ロシア軍が攻撃し、煙が上がる要衝セベロドネツク
*  *  *


 ウクライナに侵攻したロシア軍は今、親ロシア派支配地域がある東部ルハンスク、ドネツク両州の完全支配を目指し、要衝セベロドネツクを制圧するなど攻勢をかけている。


「侵攻には驚きました。1939年のナチスドイツによるポーランド侵攻のような、まさに20世紀型の帝国主義的侵略戦争が、これほど露骨な形で行われるとは思っていなかった。めくれていた人類史のカレンダーが元に戻ったような、非常に奇妙な感じも抱きました」


 侵攻はなぜ起きたか。保阪さんはロシアのプーチン大統領の「意識」によるところが大きいと見る。


「かつてはロシア帝国があり、その後のソ連も社会主義の総本山として支配体制を作り、その空間自体が一つの帝国でした。そういう『大ソ連帝国』を再び作りたい──。そんな思いが、侵略を強行したプーチンの『力の論理』の根源にあると思います。プーチンの中ではウクライナは『大ソ連帝国』の一つであり、侵攻の何が悪い、という開き直りもあったでしょう」


KGB出身の大統領


 プーチンは、旧ソ連の独裁者スターリンとの類似性も指摘される。保阪さんは「似ている部分はある」としつつ、異なる点に着目する。西側諸国からの視線だ。


「スターリンは、社会主義を世界に拡大していくことが一つの目標でした。当時、西側の特に知識人たちは『社会主義の先駆性』をまだ信じていましたから、その目標を比較的好意的に見ていたと思います。スターリンによる粛清も、社会主義の持つイデオロギーによってある意味、相殺されていた」


「しかし、今や社会主義幻想はすっかり崩れてしまった。プーチンがスターリンと似たことをやっても、スターリンなら『社会主義の先駆性のためだろう』と思ってもらえたけれども、プーチンの政治は『帝国主義の、世界を支配下に置くための悪質なシステムに過ぎない』という捉え方をされ、批判を浴びる。そこは大きく違います」




 では、どうしてプーチンはその意識を持つに至ったのか。大きな理由は「(情報機関の)KGB出身であること」だと保阪さんは言う。


「私は91年にソ連が崩壊した後、元KGB職員に話を聞く機会がありました。彼らが言うには、体質としてKGBの人間には三つの病があると。一つは激務の影響によるアルコール中毒。二つ目に離婚の多さ。そしてもう一つが、民主主義に対する抜きがたい不信感などの『妄想』です。70年代半ばからの十数年間、スターリンが作り上げたソ連の中でKGBとしてシビアな仕事をこなし、その体質を強く受け継いだ人間が大統領として政治を担うことの危険性は指摘できると思います」


「『妄想』について、プーチンを最も的確に理解していたのは(ドイツの前首相)メルケルでした。彼女はプーチンと話すとき、まず30分ほどはプーチンに一方的に話をさせ、その後で諄々(じゅんじゅん)と説得する。プーチンはそれを『理解』しつつも信じることはなかったそうですが、一目は置いていた。侵攻はメルケルが退陣して3カ月足らずのこと。プーチンにとって、西側に自分の気持ちをうまく話せる人がいなくなった。それが原因の一つだったと思います」


独裁を許容する市民


 侵攻から4カ月経った。だが、停戦への道筋は見えない。


「停戦への一番の近道は、ロシアの市民社会化が進み、デモなどで『こんな戦争やめろ』と主張してプーチンを引きずり下ろすことができるかどうか。(旧ソ連共産党の書記長)ゴルバチョフの時代に西洋型の市民社会に近づいていった流れが、成熟しているかどうか。その道筋が今、試されているはずです」


「しかし、現状はプーチンの独裁を許容する市民の弱さがウクライナとの戦争を遂行するバネになってしまっている。市民からの反戦・非戦の声で停戦が実現する可能性はない、と見るしかない。かといって、西側の市民社会でベトナム戦争のときのような反戦の波が起き、プーチン政権に影響を与えていく可能性があるかというと、その素地もない。国連と、ロシア、ウクライナ両国から距離を置く第三国が仲介に入る形での停戦、休戦という方法しか見えません」



 第3次世界大戦を危惧する声もある。保阪さんは「世界大戦を意図的に起こそうなどとは誰も思わない。ただ、第1次世界大戦もそうでしたが、偶発的なきっかけから起きてしまう可能性は内在している」としたうえで、中国について指摘する。


「中国は、チベットや新疆ウイグル自治区での人権弾圧に対しても『民主主義はそれぞれの国に独自の発展性がある。我々の民主主義に米国が介在する必要はない』などと言っています。『開き直り』の累積化は軍事的緊張につながり、極めて危険です。中国の世界観や世界戦略が、この21世紀の時代を動かしていくでしょう。そんな中国を各国がどう見てどう理解し、どう批判していくかが重要な鍵になってくると思います」


(構成/編集部・小長光哲郎)

※AERA 2022年7月11日号より抜粋


このニュースに関するつぶやき

  • 新興財閥で変死が相次ぐのは、プーチンによる暗殺ではなく、「制裁で経済のパイが減ったせいで、ライバル同士で殺し合っている」と見る人もいる。殺しの論理が頂点の国か…
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