【今週はこれを読め! SF編】異なる存在との関係を通じ、切実な生の問題を描ききる

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2022年07月05日 12:31  BOOK STAND

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写真『血を分けた子ども』オクテイヴィア・E・バトラー
『血を分けた子ども』オクテイヴィア・E・バトラー
 オクテイヴィア・E・バトラーは日本ではあまり紹介が進んでおらず、邦訳書もこれまで奴隷制時代の南部へのタイムスリップ物語『キンドレッド』(河出文庫)一冊しかなかった。しかし、SF史においてもアメリカ文学における位置という意味でも、きわめて重要な作家である。黒人女性のSF作家という点が強調されがちだが、バイオグラフィ的なことを外して、純粋に作品そのものにインパクトがある。
『血を分けた子ども』は短篇集。小説七篇とエッセイ二篇が収録されている。
 表題作はヒューゴー・ネビュラの両賞をはじめ数々の賞に耀いた、バトラーの代表作。物語のシチュエーション、そこで展開されるテーマともに、この作家の特徴がよくあらわれている。舞台はある異星。そこで人間は現住の知性種族と奇妙な依存関係を築いていた。保護される代償として、選ばれた若者が身体をさしだす。見方によってはそれは尊厳を売りわたすことであり、別な観点からは穏当な共生だとも捉えられる。いずれせよ人間側にも異星人側にも、種族を維持するうえでほかの選択肢はないのだ。
 怖気を震うほどの場面もある。そのいっぽうで、甘やかな感情もある。それらを背中合わせにするのが、バトラーが考えだしたユニークな生物学的アイデアだ。フィリップ・ホセ・ファーマー『奇妙な関係』の発展形と捉えることもできるが、フロイト的なコンプレックスを下敷きにしているファーマーに対し、バトラーはより切実で、ときに矛盾する情動へ踏みこんで、幾重にも屈折した関係(それは人間・異星人間だけではなく、人間同士や異星人同士にもおいてもだ)を生々しく描くことに成功している。
「夕方と、朝と、夜と」も、生物学のアイデアに基づくシビアな作品。発症すると自分や他者を暴力的に傷つける可能性がある遺伝病をめぐって、アイデンティティや自己決定権、そして人間の尊厳の問題が深く掘りさげられる。
「恩赦」は、「血を分けた子ども」に引きつづき、人間と異星人とのグロテスクな、そして抜き差しならぬ関係を扱った作品。きわめて異質な異星人(「集合体」と呼ばれる)は、その異質さゆえに人類とのファーストコンタクトは悲惨な結果をもたらした。集合体が人類をある程度認識して以降も、アンバランスな関係がつづいている。権力の拮抗においては圧倒的に集合体が凌駕しているが、集合体にとっては人類の支配という感覚ではなく、むしろ珍しい動物を観察し、必要があれば利用している程度のことである。
 物語の主人公であるノア・キャノンは幼少時に(歴史的にはファーストコンタクトからしばらく後)、集合体に拉致され、実験動物のように扱われたのち、いったん解放されたものの、今度は人間の側からスパイ疑惑で酷い扱いを受け、いまは集合体と人類との通訳の役割を担っている。彼女が到達した境地は、とても諦念というような簡単な言葉ですまされるものではない。
 集合体が要求する仕事を得ようと(人間社会にはもはやまともな仕事はほとんどない)志願してきた六人とノアとの会話を通じ、人間という存在が世で生きていくうえで突きあたる問題が、くっきりとしたかたちで浮き彫りにされていく。
(牧眞司)


『血を分けた子ども』
著者:オクテイヴィア・E・バトラー,藤井光
出版社:河出書房新社
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