田原総一朗「日本赤軍活動期の70年代とは異なる日本経済の深刻さ」

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2022年07月06日 06:00  AERA dot.

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写真田原総一朗・ジャーナリスト
田原総一朗・ジャーナリスト
 ジャーナリストの田原総一朗氏は、日本の政治、経済が深刻な危機に陥っている理由を説く。


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 日本赤軍の最高幹部であった重信房子氏が20年間の刑務所暮らしを経て5月に出所し、彼女たちが活動した1971、72年の出来事が大きな話題になっている。


 重信氏がレバノンに向けて出国し、日本赤軍を結成したのは71年。翌年以降、イスラエル・テルアビブの空港での銃乱射事件や数々の大使館占拠、ハイジャックといったテロ事件を引き起こした。


 過激派が日航機「よど号」をハイジャックして北朝鮮に渡ったのが70年で、国内に残された赤軍派は京浜安保共闘と合流して連合赤軍を結成し、71年から72年にかけて陰惨なリンチ殺人やあさま山荘事件で日本中を戦慄(せんりつ)させた。


 また、東アジア反日武装戦線を名乗る若者たちが、三菱重工本社などを次々に爆破し、多くの人命を奪ったのは74年から75年にかけてのことであった。


 この時代には陰惨で過激な事件が頻発していて、時代に大きな問題があったのではないか、と学者や評論家たちが論じているが、私は大きな誤りだと捉えている。


 左翼の反体制運動が行き詰まって過激化、暴力化したものの、政治や経済は非常に安定していたのである。佐藤栄作内閣は長期化し、沖縄の返還も決まった。党内ではポスト佐藤を狙って、田中角栄と福田赳夫の争いが激しくなっていたが、自民党政権は盤石であった。


 それに対して現在は、日本の政治、経済は深刻な危機に陥っている。この30年間、欧州の先進国や米国はそれなりに経済成長しているのに、日本はまったく成長していない。たとえば、日本人の平均賃金は30年前には韓国の2倍だったのに、現在では韓国に抜かれているのである。なぜ、こんな事態になってしまったのか。


 岸田首相は新しい資本主義による経済成長、所得倍増を表明していたのに、参院選を前に所得倍増という表現は消えてしまった。





 90年代に入って、バブルがはじけて日本経済が大不況に陥って以後、日本の多くの経営者たちは失敗を恐れて、新しいビジネスに挑戦しなくなってしまった。米国など、他国が開発したものをいかに安く生産するかという、いわばコストカットに全力を注ぐことになってしまったのである。これでは経済は成長しようがない。


 しかも、日本企業のビジネスパーソンたちは企業内で地位を高めることが大目標となっている。そのためにはともかく経営者など上司によく思われなくてはならない。


 前々回にも記したが、数年前に東芝が粉飾決算を7年間続ける、という事件が起きた。とんでもない事件で、中堅以上の社員ならば、粉飾とわかっていたはずである。


 だが、どの社員も粉飾だと指摘しなかった。これが、東芝という企業が理念を失ったきっかけになった。中堅以上の社員たちは、粉飾を指摘しなければいけないとはわかっていたが、それを指摘すると左遷されるので言えなかった、という。こうした正論を言えない社員がどの企業でも多数を占めているのではないか。企業の根本的な体質を大きく改革しないと、日本経済は危機から脱出できない。


 かつてとは違い、今、日本赤軍が引き起こしたような陰惨な事件は頻発していない。ただ、安寧が続く一方で、日本経済は安定とは程遠いのである。先の見えない日本に暗然たる思いを抱いている。


田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数

※週刊朝日  2022年7月15日号


このニュースに関するつぶやき

  • 70年代の日本人には「欲しいもの」があり、そのためにがんばって働いたが、今の日本人に「(買換えでなく)欲しいもの」は何かあるだろうか?その違いは大きいが、国や政治のせいじゃないぞ。
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