『サントリー天然水』30年で40倍成長、「水と空気はタダ」の昭和時代から日本一売れる飲料水になった背景とは

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2022年07月06日 07:30  ORICON NEWS

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写真1991年発売の『サントリー天然水』
1991年発売の『サントリー天然水』
 お茶、コーヒー、ジュース…数ある日本の飲料ブランドの中で、いま最も売れているのは何か。それは、水だ。1991年発売の『サントリー天然水』は、この30年で“40倍” の成長を遂げ、売上げ日本一まで上り詰めた。90年代の発売当時は消費者に「水を買う」という概念はなく、中々受け入れられなかった。しかし、その市場規模は年々増大。味や見た目で差別化を図りにくい「水」でありながら、元々は酒造メーカーだった同社が、どのようにして市場を席巻するまでに至ったのだろうか。

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■グルメ、オシャレ、安全、健康、備え… 時代によって変化してきた「水」の認知

 サントリーの「水」の歴史は、70年代にウイスキーの割材として発売された瓶入りのミネラルウォーターから始まる。83年には家庭用として、紙パックの『山崎の名水』を発売。しかし、まだ『水と空気はタダ』と捉えられていた時代、人々が飲料水を手にするようになったきっかけは意外な流行からだった。

「当初は”グルメな水”として、特別な場でのみ、お酒や食事に合わせて飲まれており、まだまだ一般的には『水にお金を払うなんて』というイメージがありました。しかし、そこから80年代後半頃に海外ブランドの飲料水が登場すると、”オシャレ”の一部として若者を中心に流行し、『あえてお金を出して水を買う自分かっこいい』というような自己表現アイテムとして広がりを見せました」(『サントリー天然水』ブランドマネージャー・平岡雅文さん/以下同)

 90年代には、マンションの貯水タンク汚れや水道水関連事故が相次いで起こったことから、”安全な水”という価値基準が重視されるようになり、輸入ブランド水や水道水の代替として国産ミネラルウォーターの浸透が進む。そこで、91年に商品名を『名水』から『天然水』に改名したサントリーが、“水市場”で頭角を現し始める。『天然水』は同社が作った造語で、当時はまだ一般的に認知されていなかった。違和感がある人も多く反対意見も出たというが、この『天然水』という言葉が、クリーンな印象を人々に植え付けたのだ。

「様々な社会的背景から水の質が重視されるようになり、地中でミネラルが溶解した地下水に、沈澱、濾過など最低限の処理を施した“ナチュラルミネラルウォーター”であることを、よりわかりやすく表現したく、『天然水』という言葉を考案しました。 その後、2000年代には健康志向の高まりと共に、意識的に水を摂取する方が増え、度々発生する猛暑の影響も加わり、 さらに大きく増加。2010年以降は様々な自然災害が起きたことから、常備すべきライフラインと認知されるようになり、家庭内浸透は大きく進みました」

■今の若者は“ミネラルウォーターネイティブ” 飲料水の常備が当たり前な世代に

 いまや生活必需品となった飲料水。同社の調査によると、現在の40代が「高校生までに水を買った経験がある」と回答した人が約2割だったのに対し、20代で「経験がある」と答えた人は7割にのぼった。かつて煮出した麦茶が家での日常飲料だった時代から、水が家にあるのが当たり前となり、ミネラルウォーター市場は年々拡大。“ミネラルウォーターネイティブ”の若年層は、日常的に水を飲む習慣がついている人が多いという。

「近年のコロナ禍では家で過ごす時間が長くなったことで、一時期は2Lの大容量サイズの消費が増え、携帯できるサイズの売上が大幅に減りましたが、現在人流が戻り切らない中でも売上は戻ってきています。と言うのも通常、飲料は小容量サイズから気に入った商品を大容量サイズで購入する流れが主流ですが、水の場合はその逆で、自宅用の大容量サイズが接点となって、外出先でも飲み慣れた水を手に取る方が増えているようです。情報過多な中、選択にコストをかけたくないと言う方が増え、定番回帰が進んでいるように感じます」

■「今やっていることは20年後のため」創業当初から貫くサスティナブルな理念が時代にフィット

 飲料総研調査の「飲料ブランド別ランキング」では、2005年に15位だった『サントリー天然水』が、2018年から4年連続で首位となっている。平岡氏はその理由について、「水源の価値を守りぬいてきた結果」だと話す。発売当時から、天然水を育む“水源”がもたらす心地よさ、清々しさこそがミネラルウォーターに求められる本質的な価値だと考え、そこを磨き続ける活動を進めてきた。また一方で、同社は、地下水を育む森全体を保全・再生する「天然水の森」活動にも取り組んでおり、創業当初から事業の生命線と考えている “水”を、将来にわたり守り育み続けていくという活動が、奇しくも持続可能を目指す今の時流にもフィットしつつあるのかもしれない、と語る。

「雨が降って、この『天然水』になるまで20年かかるんです。それを100年、200年先も見据えて、今の安心安全な美味しい水が変わらず飲めるように、水源環境を守り抜いていくことが大事だと思っています。ただ、これは世の中のためにということだけではなくて、単純に事業の根幹なんですよね。それが結果的に世の中の流れを含めて、水のサスティナブルに繋がっているわけです。我々のブランドの売上は30年で40倍成長 しましたが、どこかで何かを仕掛けたり、ぐっと急に伸びたりした年も特にないんです。愚直に真面目に30年間、水と向き合い続けた結果、消費者の方々にもその価値が伝わっているのかなと思うと嬉しい限りです」

■世界的な水不足でも「日本の水は世界に売らない」理由とは

 世界的な水不足が深刻化する中、国境を越えた”水育”にも注力している。水に恵まれた環境である日本国内で飲料業界を牽引する立場として、使命感を持って世界にサスティナブルを体現していきたいと平岡氏は語る。

「例えば、日本では子どもたちに『どうやって水が作られるか』という話から始めるのですが、ベトナムでは『いかに川を汚さないか』という視点から水の重要性を伝えています。ビジネス的には日本の水を商品として海外に提供することも考えられますが、もともと水は世界中にあるものなので、それぞれの環境で持続可能な形で水を使えるようにしていくことが最善だと考えています」

 今年4月には、「青のトンネル」や「みずのわカフェ」といったスポットを通して水の大切さを学べるブランド体験型施設『サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場』を長野県にオープン。5月にはブランド初の果汁飲料『サントリー天然水 きりっと果実 オレンジ&マンゴー』を発売し、今月5日には新たなラベルレスボトル も発売した。

「我々は水の質を守ることに真面目に取り組んできましたが、水って下手すると、面白みのない優等生になっちゃうんですよね。なので、もっと親しみを持ってもらえるよう、楽しさ、明るさ、健やかさを提供していきたいと思っています。その一環として、これからも水源を守るという姿勢は変わらず、愚直にやり続ける。グローバルに水のサスティナブルということを叫ばれるようになるのであれば、その中できらりと光るブランドでありたいと思っています」

 この30年で、“タダ同然の飲料”から“贅沢品”へと昇華され、さらには“生活必需品”へと立ち位置を変えた「水」。消費者の意識が変わっても、地球全体に存在し、数多くのメーカーが展開している上、味でも見た目でも差別化を図るのは難しい商材だ。そんな中、『サントリー天然水』が国内トップシェアを極めた背景には、その地位にも決して奢らない地道で愚直な姿勢があった。


(取材・文=鈴木ゆかり)
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