『ちむどんどん』いつ観てる? 朝ドラが国民的コンテンツとして復活した背景

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2022年07月10日 06:01  リアルサウンド

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『ちむどんどん』(写真提供=NHK)

 朝ドラ(連続テレビ小説)は、日本でもっとも盛り上がっているドラマ枠だが、人気の大きな理由に、圧倒的な“観やすさ”があることは間違いないだろう。


【写真】前作の朝ドラで盛り上がりを見せた『カムカムエヴリバディ』


 1話15分を月曜から金曜にかけて週5話(土曜日は総集編)を、2クール(半年)にかけて放送する朝ドラは、1日に何回も放送されているため、ライフスタイルに応じて好きな時間に楽しむことができる。


 NHK総合での本放送は8時から。昼の再放送は12時45分から。BSプレミアムでは、本放送が始まる前の7時30分から放送されている。今クールの『ちむどんどん』では放送されていないが、前クールの朝ドラ『カムカムエヴリバディ』までは、夜の再放送も行われていた。つまり多い時で1日4回、朝ドラは放送されていたのだ。


 作品の消費形態も様々だ。朝ごはんを食べた後、仕事先に向かう準備をしている時に、時計代わりに観ている人もいれば、昼休みに仕事の息抜きとして楽しんでいる人もいる。一方で、隅から隅まで作品を観ている朝ドラファンとでも言うような視聴者もいて、気軽になんとなく観ても、真剣にじっくり観ても楽しめるのが、朝ドラの懐の広さだ。 


 後者の朝ドラファンの存在が可視化されたのはSNSの影響が大きいだろう。2010年上半期に放送された『ゲゲゲの女房』から朝ドラの放送は8時15分から8時スタートに変わったのだが、同じ頃、日本ではTwitterブームが起こりつつあった。作品の感想をリアルタイムでつぶやき、#(ハッシュタグ)で同じ話題を共有するというSNS消費がTwitterを中心に生まれ、中でも『ゲゲゲの女房』は、漫画家・水木しげるに焦点が当てられていたこともあってか、漫画家の反応が多く、感想のつぶやきだけでなく劇中のキャラクターのイラストをTwitterにあげることも多かった。


 つまり漫画やアニメにおける二次創作が朝ドラでおこなわれるようになり、SNSはリアルタイムで同じ作品を楽しむ一体感が味わえるバーチャルなお茶の間に姿を変えたのだ。


 こういった現象は他の作品でも起きていたが、朝ドラが突出してSNSとの相性が良かったのは、1日に何度も放送されていたからだろう。朝の放送で呟かれた感想を観て興味を持った人が、昼の再放送を観て感想をつぶやく。その感想を観た人が夜にBSで観るといった連鎖が起こっており、Twitterでのつぶやきが最大の宣伝効果を生み出していた。それが半年も続くのだからイベントとして盛り上がらないはずがない。


 現在はNetflixのドラマのような一挙配信も登場しており、ドラマの放送形式は多種多様なものになりつつある。しかし2010年はまだ、1週間に1話1時間の物語を1クール(3カ月)にわたって放送するという形式が連続ドラマの主流だった。テレビ全体の影響力は陰りが見え始めていたが、それでも夜のプライムタイム(19時〜23時)に放送される作品が話題の中心だった。


 対して、毎日15分ずつ放送していくという朝ドラのスタイルは、男は会社で働き、女は専業主婦として家事をおこなうという昭和の家族の生活様式に根ざした放送形態だった。そのため、視聴者のライフスタイルが多様化していく1980年代後半のトレンディドラマの時代になると、朝ドラは物語も放送形式も時代とズレたものとなっていた。しかし、Twitterが登場しSNS消費が広がったことで、古さは新しさに変わり、現代的なドラマ枠として復活した。


 これは内容面にも言えることだ。朝ドラは、1話の尺は15分と短いものの全体の物語は2クールと長い。この長尺を活かして各エピソードが有機的につながる複雑で見応えのあるストーリーを模索する流れが本格化したのも、2010年代からだ。


 朝の忙しい時間に放送されている朝ドラは、ナレーションを多用することでメイン視聴者である主婦が洗い物をしながら背中越しに音声を聞いているだけでも内容を理解できるドラマとして作られていた。例外的に藤本有紀脚本の『ちりとてちん』のような、細部まで作り込まれた朝ドラも存在したが、話が複雑で1話見逃すだけで話が理解できなくなるため、脱落者も多く、一部で熱狂的な支持を受けながらも、リアルタイムでの視聴率に結びつく結果を出せずに苦戦していた。


 しかし、ハードディスクレコーダーが普及したことで全話の録画が容易となり、「NHKオンデマンド」や「NHKプラス」といった配信サービスが充実したことによって、後から放送を見返して細部を確認することが簡単になった。仮に自分自身では気づけなかったとしても、Twitterの感想やYouTubeにある考察動画を見れば、誰でも伏線や元ネタを理解できる。


 同じ藤本有紀作品でも、一部視聴者の熱狂的支持に留まった『ちりとてちん』と、リアルタイムで多くの視聴者に支持され、大きな盛り上がりを見せた『カムカムエヴリバディ』の違いは、SNSを軸にした情報環境の変化が大きいだろう。


 敷居が低く、一話一話を「点」として観ても、連続ドラマという「線」で観ても楽しめる。だからこそ、朝ドラは国民的コンテンツとして復活したのである。


(成馬零一)


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