【用賀ベアーズ】目指す野球も目標も、決めたのは子ども達

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2022年07月21日 18:14  ベースボールキング

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取材に訪れた日の気温は34度。15分に一回程度、給水タイムを入れながら練習を行っていたのは用賀ベアーズ(東京都世田谷区)。チーム創設は1978年。40年以上の歴史を持つチームですが、時代に合った指導法や取り組みが支持され、学年ごとにA〜Dチームを結成できるほど、毎年多くの子ども達が集まっています。なぜこのチームに多くの子ども達が集まるのでしょうか? その理由が知りたくて、6年生のAチームを指導するのが鈴木亮一監督にお話を聞いた後編をお届けします。



【子ども達が決めた「打ち勝つ野球」】
——先日練習試合を見させて頂いて、今日の練習を見ても思ったのですがバッティングが凄くいいですよね。打撃を強化する取り組みなどされているのでしょうか?

バッティングが良いというのは、この子達が4年生の頃から力を入れてきたからだと思います。彼等が4年生の時に私は監督になったのですが、そのときに「守り勝つ野球をしたい? 打ち勝つ野球をしたい? どっちがいい?」って子ども達に聞いたんです。そうしたら「打ち勝つ野球がしたい!」と言ったんですね。「守り勝つ野球を目指した方が、試合に勝つ確率は高くなるよ?」とも言ったんですけど、そういうことも踏まえて子ども達で相談して、それでも「打ち勝つ野球がしたい!」と言うので、打ち勝つチームを目指してやろう、という方針になったんです。

——なるほど。どんな野球を目指すかを子ども達に決めさせたんですね。面白いですね。

具体的には練習の中で打つ量を増やしたこともあるのですが、毎日書いている野球ノートに、子ども達が打つことのアドバイスを求めてきていましたよね。そういうことをコツコツ続けてきた結果、めちゃめちゃ打つチームになってきたかなと思います。

——バッティングフォームなども指導されているのですか?

調子が良いときは何も言いませんが、調子が悪くなるとアドバイスをすることもあります。あとは、その子にあったバットはどんなものだろうとか、その子が一番全力で振れるスイングはどんなスイングだろうとか、子ども達に1人ひとりに合った打ち方という観点と、その子はどんなバッターになりたいと思っているのかという、二つの観点で子ども達を見るようにしています。ただ、我々がやっているのはあくまでアドバイスであって、色々試してみて、どんなバットでどんなフォームで打つのかを決めるのは選手だということは強く意識しています。

【ミスを許容する、寛容になることが大事】


——バッティング以外についてはどうでしょうか?

守備では一定の決め事をいくつか作っています。1点取られても1つアウトを取ろうとか、どうせなら積極的にプレーしてエラーしようとか。細かな決め事の例では、2塁ランナーがいたらセカンドがベースに張り付いて守るとかそういう決め事もあります。まずは選手全員が理解して実践できる範囲の決め事から指導してきた結果、シンプルなプレイのものがほとんどです。
最近では少し難しい決め事も少しずつできるようになってきて、例えばレフトからバックホームするとき、フライの場合はショートがカットに入る、ゴロだったらサードがカットに入るといったものもあります。そして、なぜそうするのか理由も理解させるようにしています。さっきのけケースだと「フライの場合だとサードはランナーのタッチアップが早くないか見ないといけないよね」とか。

今後も少しずつ難しいプレイのケースでも動き方が分かってくると、より一層野球の奥深さにハマっていってくれると思うのですが、まだまだ道は遠いです。
ちなみに、決め事以外のことが試合で突発的に起こった場合は失敗して当たり前ですから、ミスをしても何も言わないようにしています。

——大会に勝つ、優勝することを目標に置いてしまうと、そういったミスも許容できなくなってしまうのかもしれないですね。そこで怒声や罵声が飛んでしまったり。

指導者がそうなってしまう気持ちは理解できます、大人も勝ちたい気持ちになってしまうので。主役の子どもが伸び伸びプレーするためには、ミスを許容する、寛容になることが大事だと思いますね。それと、叱るべきは出来なかったことじゃなくて、決めたことをやらなかったことに対して、というのが我々の指導姿勢です。だから全国大会とか都大会に出るとか、そういうことを大人側の目標として指導することは考えたことがないんです。出場できたら名誉なことではあるんでしょうし、結果的にそうなったら嬉しいですけど。
ただ、このチームの場合、6年生になった子ども達が都大会のベスト8を目指したいと自分たちで目標を設定してきたんですよね。それは子ども達側の目標なので、実現するためにサポートを頑張らねばと、子ども達の気持ちに引っ張られてやっています。

強くて有名なチームと試合をする、そこで勝ったら自信になるだろうし、喜ぶだろうし、負けても多くを学ぶことができる、そういった経験を積み重ねていくことが大切で、それは別に全国大会ではなく練習試合でもいいと思っています。




【「野球に対して正しい」ことがチームの強み】


——全国的に少年野球人口が減少しているなかで、チーム全体としては毎年60人以上の部員が集まっている要因はどこにあると思いますか?

体験会に来ていただいて、他のチームと比較してうちのチームを選んでくれたというパターンがほとんどですね。勝つことにガツガツしていないですし、「野球に対して正しい」というのが用賀ベアーズの強みだと思っています。指導者がちゃんと少年野球を分かっている、勉強している。ほとんどのコーチが少年野球指導の資格も取っていますし、健全に安全に指導が行えていると思っています。

——だから安心して子どもを預ける親御さんが多いのでしょうか?

それもあると思っています。あとは、学童野球は子どもがケガをしがちですから大人の目がしっかりしていないとできないと思うんですけど、そこが他のチームよりも相当強いのかなと思います。今日も子ども9人に対して、お父さんコーチを含めてグラウンドには11人の大人がいましたしね。コーチの人数が多いことで、全体としてこうではなくて、この子はこう、この子はこう、という指導がやりやすい、1人ひとりに目が届きやすい体制が整えられています。そういう部分もチームを選んでもらえる理由の一つかもしれません。

——チームのfacebookに「保護者の負担を限りなく減らす取り組みをしています」みたいなことが書いてありましたが、具体的にはどんなことをされていますか?

特別なことはしていません。当番は月に二回ありますが、丸一日グラウンドに来て頂くのではなく、土日の午前、午後の半日、どこかで見守り当番として来てくれたらOKになっています。もちろんお茶当番や指導者の世話などは不要で、練習を見守る「大人の目」としてのみ来てくれればOKです。都合が合わなければ相談して当番を代わってもらったりとかもOKです。
今日はお母さんが4人来てくれていますけど、これは強制的に来ていただいているのではなくて、多分楽しいから来てくれていると思うんですよね。ですから、父兄の負担に目くじらを立てるようなチームコンディションにはなっていないということは言えるのかなと思います。

——最後に今後の目標を教えてください。

試合の結果に一喜一憂するよりも、残り半年、卒団式まで大きな怪我なく子ども達が野球を楽しんでくれることですね。

(取材・写真:永松欣也)
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