「どうしてそっちがリアルで、こっちがバーチャルなの?」 “VTuber”の存在意義を問うた、黛灰の活動終了に寄せて

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2022年07月23日 14:11  リアルサウンド

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 現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。


 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ1年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加している。


 今回は、7月28日に活動終了を宣言し、シーンに大きな衝撃を与えた「静かなるエンターテイナー」黛灰について記していきたい。


【動画】黛灰の「生前葬」


 黛灰は2019年7月24日にTwitterにて初投稿、7月28日にYouTubeで初配信し、相羽ういは、アルス・アルマルらとともにデビューした。


 3人のアクセントカラーが青色系で共通していたということで、デビュー当初から『ぶるーず』というユニット名を掲げて活動をスタートしている。


 水色のインナーカラーしたメッシュを入れた髪型、耳には黒いイヤリング、肌はもはや「青白い」と言えるレベルで白く、身長が178センチで体重が60キロにも満たない体形と、かなり細身で骨ばった印象をあたえるルックスで人目を惹きつける彼。


 ホワイトハッカー(コンサルタントハッカー)として活動していたことでインターネットカルチャーやパソコン周りの知識は豊富であり、その職業柄か、にじさんじでも一、二を争う知性派として多くのファンに親しまれてきた。


 ほとんど運動をしてこなかったというエピソードもあるように、明らかなインドア派でもあり、通常の配信やイベント時などどのような場に出てきても極めて落ち着いた口調で淡々としゃべり、物静かでクールな印象がリスナーにとっては印象強いだろう。


 そんな彼のイメージにピッタリだったのが、自身が企画し、のちに公式番組へと発展していった「にじクイ」だ。2020年3月7日に配信された『にじさんじクイズ王決定戦 #にじクイズ王』は、黛が立案、緑仙にダメ出しをもらい、QuizKnockのメンバーに問題を制作してもらうという形でスタートした。


 その9か月後の2020年12月13日に本格的に公式番組化されると、現在まで約2年半ものあいだにわたって継続されている公式番組に。にじさんじ所属タレント自身が出演している番組としては、2019年9月16日にスタートしたニコニコ動画内番組の『にじさんじのハッピーアワー!! 』(現在の「にじさんじのTOYBOX!」)と、文化放送で継続している『だいたいにじさんじのらじお』に続く長期番組であり、YouTube上で見られる公式番組ではもっともロングランをしつづけている番組でもある。


 「ヤシロ&ササキのレバガチャダイパン」は番組の特徴上「3Dボディを持っているタレント」しか出演ができなかったが、同番組では普段の配信で使用しているLive2Dのデザインで出演ができるということもあり、所属していたライバーがさまざまな形で登場し、多くのリスナーに新たな出会いの場を提供することに繋がった。


 「にじさんじを紹介する」という点において、黛はデビュー初期に「にじさんじのメンバーとはどんな人物か?」を調査する配信をしていることを指摘したい。飛びぬけた個性を持ち合わせた面々を、非公式wikipediaを使って知りつつ、彼なりの考察やリアクションでリスナーとともに楽しんでいた配信だった。


 それから2年ほど後、『にじさんじ Anniversary Festival 2021』1日目にYouTubeからの無料放送を通して再度登場。自身のTwitterを通して「みんなの推しライバー」のプレゼン資料を制作、送ってほしいという旨をツイートしたところ、300件を超える資料が届いた。


 持ち時間はわずか30分ほどの短い企画となってしまったため、後日自身の通常配信では、3回に渡ってリスナーからの資料をお披露目する配信をした。


「今日紹介した人もできなかった人も、みんなのことを知って、今日のフェスも明日のフェスももっともっと楽しめる”箱推し”になってもらえれば、といった感じかな」


 Fes企画の最後にサラっと口に出したこの言葉だが、日本人だけでなく、韓国、インドネシア、中国で活躍する海外メンバーについての資料が手元にあった上での言葉でもある。


 本記事でも途中で触れさせてもらうが、彼はその活動を通し、客観的・俯瞰的というイメージを強く感じさせるオリジナルなポジションを確立した人物だ。


 そんなポジションをうまく使いつつ、にじさんじのメンバーをより多くの人にしっかりと広めていこうというスタンスは、彼自身公言することはあまりないものの、もっと評価されるべき一面ではないだろうか。


 ルックスと口調から物静かでクールな印象が強い黛灰。そんな彼の淡々とした喋りのなかからポンと出てくるのは、シニカルな指摘・考察の数々であり、興味本位で見に来たリスナーをファンへと変化させるキッカケにもなっていた。


 リスナーと対話することの多い普段の配信のなかでも、深い洞察眼から繰り出される指摘・ボケ・ツッコミの数々が飛び出し、お笑い気質な面々が揃うにじさんじの面々と絡むことで、より絶大なプレゼンスを発揮していく。


 お笑い芸人やバラエティ番組由来のネタや流れを汲んだやりとりのなかで、黛のツッコミとボケが挟まることで一気にヒネった質感へと様変わりしていったことは、これまでも何度となくあった。


 本人がどこまで意識していたかは不明であるが、その切れ味鋭さもまたにじさんじでも一、二を争うほどであり、同僚らとの会話でも黛の指摘・考察に耳を傾ける者は多かったはずだ。


 新旧さまざまなインターネットミームに精通していることや、マンガ・アニメなどのテンプレートなやり取り、新しい視点などを次々と提示していく様は、まさに「知性派」と呼ぶにふさわしいものだった。


 先述したような企画力の高さは普段の配信上で培われ、彼のオリジナル性を高めていくことになる。最たる例として挙げられるのは「凸待ち配信」である。


 2019年10月21日に10万人記念の凸待ち配信を行なった。「相手方からの突撃を待つ」配信である凸待ち配信を企画するとなると、あらかじめ数人の友人に声をかけてもらい、配信してもいっさい人が来なくて盛り上がらず失敗するというリスクを減らすことが求められる。


 だがこの時の彼は前準備を一切することなく、凸待ちを予告し、そのままスタート。薄暗いパーティ会場、もの悲しいBGM、真ん中に一人小さく配置された自身の立ち絵、あまりにも寂しい絵面がそこにはあった。


 リスナーも「誰かが来るであろう」と当然期待しているわけだが、待てども待てども誰も来ず、それどころかコメント欄で次々と同情のコメントやスーパーチャットが流れていくことに。黛も「いまヒマならちょっと話さない?」と声をかけるが、さまざまな理由でやんわりと断られてしまう。


 Twitterで次々とライバーが反応し、3万人近い視聴者を集め、多くのリスナーが黛の惨めな姿を温かく楽しむことになった。


 とても印象的だったのはリゼ・ヘルエスタとのやり取りだろう。2度にわたって「いまから行けますよ!」とコメントするも、「違う、そうじゃない」と黛がお断りを入れる場面があった。


 つまりこの配信は「凸待ちをしても0人になっている人に対し、周囲が空気を読んで一切凸待ちをすることなく、物悲しく続いていく光景と黛のトーク」という構図を楽しむことにあり、リゼと黛のやり取りはその構図を印象付けることになった。


 後年この配信を振り返った際に「皇女殿下のくだりだけは本人に声をかけた」ということが明かされている。


 逆に言えば、リゼ以外の面々はいっさい打ちあわせなどをせずに、「周囲は声をかけなかった」ということを意味する。この時コメントなどで反応した面々には日本だけでなく当時NIJISANJI IDの海外メンバーもいたわけだが、全員ひっくるめて彼に声をかけなかったのだ。


 この配信は、にじさんじに所属する面々がいかにお笑いやエンターテイメントの流れを察知し、その場の空気を読めるスキルが長けているかを知らしめることにもなった。


 それに加え普段の物静か・クールさ・ニヒルさといったイメージが先行しがちだった黛灰が崩れ、機転とアイディアに溢れたエンターテイナーとして知られるきっかけにもなった。


 その後に多くの切り抜き動画が制作されてVTuberファンに知られていっただけでなく、幸か不幸か「凸待ちが0人になってしまった」配信も多く登場することになった。


 リスナーやタレントらにまで影響がおよぶことで「凸待ち」配信そのものへの理解が深まるきっかけにもなり、同種の企画がリスナーの大きな期待を帯びたものになる一助となった……というと少し過言が過ぎるだろうか。


 お笑いを察知し、空気を読み、エンターテイメントを起こす。それはその場に参加している人たちの立ち位置・構造をしっかりと理解し、その後を予想し、行動する力にあるだろう。


 「絶対に押さないで!」と書かれたボタンがあれば押す。ヒモが上から垂れていたら思いっきり引っ張る。熱湯の近くに立っていて「押すなよ!」と言われたので思いっきり押してみる。古典・テンプレート・ありがちなネタは、「こうなるだろう」というお笑いの予感と予想を立てて行動する、ということになる。


 こういったキッカケは初歩の初歩であり、極端な逆張りにも近い。黛灰はそういった初歩的なキッカケにとどまらず、洞察眼を活かして構造を的確に理解し、すぐさまボケ・ツッコミを起こすことが多い。


 たとえば、初めてのゲームでチグハグにプレイしているコラボ相手がいると、その人の行動などを踏まえつつ上手く使ってボケたり、ツッコミをすることもあった。特に2021年2月8日に配信された『Among Us』で魔使マオの不憫さをうまく活かしたゲームプレイは最たる例だろう。


 初めてのプレイでファーストキルされ続ける魔使を率先してかばいつつ、自分がファーストキルしてしまってみたり、大きくミスしてしまった魔使を不破とともに「バグかもな?」「魔使がそんなことしないよ!」と話しつつもツッコんでみるなど、見どころが多い配信でもあった。


 もちろん言葉遣いなどの扱いや距離感をミスすると、同じにじさんじのメンバーとはいえ「初心者の魔使をバカにしている!」とリスナーの反感を買いかねないワンシーンになる。それでもうまく乗りこなす彼は躊躇することない男なのが伝わるだろう。


 「その場の構造をリスナーに提示しつつ、うまくコネくりまわして楽しませ、面白がってもらう」という配信としては、彼の「謝罪配信」がある。


「二度とこのような事がないよう努めていきます」


「また改めて皆様の期待に応えられるよう、配信活動に臨んでいきたいと思います」


「悪くないよといったコメントも多々ございますが、配慮が足りなかった点であったり、ご不快な気持ちにさせてしまったという点で責任があると思います」


 冒頭から淡々と謝罪を繰り返していく黛灰。見に来たリスナーらは一様に何かあったか?と不安にさせられるが、このタイミングで彼はなにも問題を起こしていないし、被害をうけてもいない。


 この配信は「にじ謝辞」と銘打たれ、「よくある謝罪会見やセリフをモチーフにし、完全にフィクションな形で再現する」ことを趣旨にしている。


 見に来たリスナーも次第に趣旨を理解し、コメントから野次を飛ばすようになり、そのコメントを見た黛は即応してコメントし返す、まるで本物の謝罪会見と見間違うかのような状態となっていった。


 なにも問題が起こっていないのにも関わらずに終始謝罪しつづける黛の姿も笑えるが、ネタと理解してブーイングと擁護のコメントを次々と書いていくリスナーも素晴らしい。


 なにかしらの社会的なメッセージ性が込められているようにも感じられ、「意味なんて無くても面白い」ことを笑い合える自由さも感じられる、「いったい彼がどんな事件を起こしたのか?」とフィクションのなかで想像を膨らませることもできる。


 見る人によってさまざまな受け止め方ができる奥行きのあるエンターテイメントがこの配信で提示されている。


 2021年1月30日に配信されたのは、「伝書鳩」行為をうまく利用した配信であった。


 伝書鳩行為とは、他の配信者の発言や行動などの情報を視聴者がコメントで伝えたり、逆に聞き出そうとする行為のことだ。「配信内容とまったく関係ない話で場が冷める」「意図が正しく伝わらないことが大多数である」「配信者当人を見に来たファンにとっては面白い気持ちが削がれてしまう」といったことに繋がってしまうため、荒らし行為であると捉えられて生配信が荒れる原因の1つとなっている。


 何度とない注意喚起をしても一向に減らない行為としても知られ、VTuber当人・ファンともに頭を悩ませている。そんな減ることのない伝書鳩行為を逆に利用し、いくつかのルールをリスナーに伝え、にじさんじの配信を中心にしてほかの配信内容をコメントで集め続ける配信をしたのだ。


 理解力あるリスナーらによって多くのコメントが届くようになると、黛が逐一クセのあるツッコミを入れ続け、ツッコミとボケを両立した巧みなコメントを連発した。


 こういった配信を取り上げられるのは、インターネットカルチャーに造詣が深いというだけではなく、それを愛するネット民や自身のファンの感覚を捉えているからこそだろう。


 これらのように、場の状況や関係性などの構造をうまく提示し、理解させて、エンタメとして届けていく。そんな彼のスタイルは次第にリスナーの理解力を上げていくことになった。


 そんな黛灰がエンターテイナーと呼ばれるようになった決定的な一打、もっとも大規模であった企画だったのが「新宿・渋谷の街頭ビジョンジャック」と「黛灰の物語」であろう。


 2021年6月19日、新宿アルタの大型ビジョンや渋谷駅前交差点の映像広告に、自身の口からとあるメッセージを流し、その映像を現地で目撃していたファンの様子を撮影した動画も後日に発表した。


 黛灰には、ほかのにじさんじ所属メンバーとは一味違った深いバックグラウンドがある。2019年9月12日にYouTubeコミュニティで「所長の記録」として公開された内容から引用すると


・事故で両親を亡くし、施設に入所した
・幼少期はゲームや電子機器に触れていることが多かった。プログラミング技術はその時から才能を見せていた。
・高校卒業後、「施設の支援をするために残りたい」「同じく施設にいる子供たちの面倒、資金援助をしていきたい」と申し出があった。
・文中に「加賀美社長」という記述があり、のちににじさんじに加入する前から面識があったことを明かしている。


 デビュー配信の最後にほのめかされて以降、彼の配信には伏線が仕込まれていた。


 実際にじさんじの配信活動の大半は、自身が住む施設などの物音を考慮し、昼間ではなく夜に配信をすることが多かった。時にはまったく別な存在が黛灰のチャンネルから急に配信をスタートしたり、仲のいいVTuberが彼についての記憶を失い「だれのこと?」と逆にファンに聞き返してみたりと、配信以外の場面にも「黛灰」のストーリーにまつわるメッセージが提示されることもあった。


 現在では引退してしまった高性能AIの出雲霞と鈴木勝らとともに綴っていた「2434system」をキーにして、「黛灰とは何者なのか?」「黛灰はどのような人生を歩むべきなのか?」というストーリーを徐々にリスナーへと提示していった。


 2021年4月1日から黛灰のTwitterに大きな異変が起き始め、「黛灰ではない存在」が徐々に侵食するように前面に出始めるように。5月末からは黛灰の配信活動すらストップしてファンをヤキモキさせていたなか、物語の終着点となったのが先述の「新宿の街頭ビジョンジャック」であった。


「どうしてそっちがリアルで、こっちがバーチャルなの?」


 その重い問いかけから10日後となる2021年6月29日、Twitter上のアンケート機能を使って黛はリスナーに選択を求めた。黛灰のチャンネルで生配信がスタートし、一部始終を見守ることになった。


 Twitterのアンケート機能は投稿者本人が結果を変えることはできない。リスナーは、黛灰に自分の人生を決めろと訴えたのだ。


 この幕切れのあと、Twitterのアイコンやプロフィールなどが正常なスタンスへと戻っていき、2021年8月以降では施設からでなく自身の配信スタジオから配信を行なっていくことを発表。配信内容・方針を変え、定例雑談、インディーズゲームを中心にしたゲーム配信などを重心に置き、にじさんじ外のストリーマーや活動者と交流を図っていくようになったのだ。


 「なんだかよくわからないけど、数年がかりでそんな大仕掛けなことをやっていたのか。SFっぽいことを仕込んで、演技するのも大変そうだな」


 大多数がそのような感想を抱くかもしれない。そういった感想は、この大がかりな展開が「成功」していたからこそ思える感想ではないかとも感じられる。


 重点になるのは、ストーリー・登場人物をメタ的に捉えながら演劇らしい役回りをこなしていたこと、「にじさんじの黛灰」という活動者人生の行く末をもベットしたこと、「リアル(現実)」or「バーチャル(仮想)」という二分立的な捉え方はナンセンスである、ということだ。


 まず、数年かけての大仕掛けや役回りは、どこかのタイミングでネタバレを口にしてしまったり感じさせてしまったらアウトであり、シリアスな展開が続くなかでひとときも「笑える」ムードすら許さない緊張感を崩すような真似は絶対にできない。


 自身の言動を意図して抑える必要があるうえに、コメントの声や他人との会話のなかでも注意しながら会話しなくてはいけない。しかも数年にわたってだ。ストレスがかかるのは想像に難くない。 


 次に、「どうしてそっちがリアルで、こっちがバーチャルなの?」という問いかけも、VTuberを知らない市井な方々による「キャラクターの絵をつかって喋ってる人たち」という認識を逆撫でするだけでなく、「VTuberはただの絵」「中の人になんて言ってない」とウソぶいて中傷・批判行為を繰り返す人たちにも届く可能性がある。その場合、強いパッシングが彼のもとに届きかねない。


 最後に、「新宿の街頭ビジョンジャック」という方法をとったこと。先にも述べたような強いパッシングが続き、間違った受け取られ方をすれば黛灰はおろか所属する運営会社にもパッシングが流れる可能性は当然ありえる。なにより、アンケート機能を使った投票結果次第では、自身の活動に見切りをつけていた可能性も否定できない


 2022年7月17日。にじさんじの同僚であるフミが企画する「#にZIP」に黛灰がゲスト出演し、それに合わせて”黛灰”といえば?でリスナーさんにアンケートを実施した。


 わずか数日ほどで3500件を超える回答が届き、1位に選ばれたのは「芸人」であった。「そんな気がしてた。いやだけどねこの評価、芸人ってプロの方じゃん?。そんな気安く名乗っていいもんじゃないよって常々言ってるんだ」と語る。


 機転の利いたトーク・立ち振る舞いが、にじさんじ内のリスナーに多く支持を受けていたのは記事の中でも記してきた通りであり、彼なりのお笑い気質な素振りが他メンバーとは趣の違うアクセントとなって映ってきた。


 大きな企画を綿々と続ける胆力とアイディア、リスナーの期待と不安をうまく綯い交ぜにして「人を楽しませよう」と試みるパワーとセンス、失敗を恐れずにチャレンジする姿勢にスポットライトを当てたい。


 立ち位置・構造を理解しその後を予想して行動していく、エンターテイメントのコアにしっかりと立脚した黛灰の活動歴とスタンスは、まさに『エンターテイナー』と呼ぶにふさわしいはずだ。


 なにより、あの手この手でこういった客観的・俯瞰的な視点で物事を捉える感性をリスナーやファンに広め、「他者を慮る」「相手を理解する」という意味合いとなって受け取られていった部分もある。


 10代から20代中盤がコアとなった若年層中心のリスナーにとっては、どことなく情操教育のようですらある。十二分に大きな功績といえよう。


 そんな彼が、7月28日に活動終了する。理由に挙げているのは「自分の活動とANYCOLOR株式会社とで方向性の違いがあったから」と語っており、今年の2月までに何度も協議を重ねたが、落とし所が見つからず引退を決意したと説明した。


 本稿では筆者がこの決断に対してなにかしらの考えを述べるつもりは一切ない。だが、客観的・俯瞰的・メタ的な立ち位置からエンターテイメントの面白さを提示していた彼が、「方向性の違い」で活動休止するというと、とても悲しい気持ちになるのは正直なところだ。


 活動終了前日となる7月27日の配信は、チャンネル登録者数60万人を記念した「生前葬」と銘打たれ、60人が来るまで終わらない凸待ち配信が行われる予定だ。にじさんじ所属のメンバーだけではなく、過去に何かしら関わりのあった人物などが対象となっている。


 最後の最後に「生前葬」という名の凸待ち配信を持ってくるところに、彼のセンスが光っている。活動終了後にもYouTubeチャンネルやTwitterアカウントは残り続け、一部のアーカイブは限定公開化、Twitterは鍵アカウントとなるとのこと。静かなるエンターテイナーの軌跡は、決して消えることなく後年に影響を与えていくはずだ。(草野虹)


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